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第13話 夏を満喫
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荒井の作ったカレーは非常に美味しかった。大きく切られた野菜とお肉が丁度よく、市販のカレールーを使って作ったということだったが、大学の学食よりも美味しく感じたほどである。
「凄いねえ。私が作るとなぜかしゃばしゃばになるのよね。こういう程よいどろっと感がないのよ」
柏木がお代わりをしながら荒井の料理の腕を褒めると
「水の入れ過ぎだろう。まずは箱の分量通りに作ればいいんだよ」
荒井はにこりともせずに答える。それを見ながら、桐山は学生の普段とは違う姿を垣間見れて面白いなと感じていた。どうしても研究室では研究の話ばかりで、こういう他のことを話す機会も、普段はどういう生活をしているのかを知る機会もない。
食事を取っているのは茶の間として使われていた部屋で、そこには五人で使っても余裕がある、大きなテーブルがあった。普段は椅子に座っていることが多いので、畳に座って食べるのは久々だが、姿勢が悪くても注意する人がいないので気楽なものだ。胡坐に猫背でもいいならば、畳での食事も悪くないように思う。学生たちも思い思いに座り、カレーや一緒に用意されたサラダ、ポテトを摘まんでいる。
「それで、片付けって具体的にどういうことをやるんですか。っていうか、今日かなり家の中の掃除は進めちゃいましたけど」
深瀬が缶ビールを飲みながら桐山に訊ねる。缶ビールはほぼ深瀬が飲むために買ってきたようなものだ。彼女が晩酌を欠かさないタイプだということを、この唐突な片づけ合宿で初めて知った桐山である。
「具体的には売れる物と廃棄する物に分別することだな。ともかく、あちこちに仕舞い込んである物を出す。それがメインだよ。昔から捨てる人がいなくてね、収納できる場所総てにとんでもない量の物が詰め込まれているんだ」
「ああ。ここ、お皿だけでも凄い数がありましたもんね」
台所を使った荒井は、ああいう感じで物が多いのかと頷く。カレー皿だけでも二十枚はあったのではと、顎に手を当てて考えてしまう。
「そう。同じ物も一杯あるんだよね。仕舞い込んで引っ張り出すのが面倒になり、また買ってしまう。これを繰り返していたことは想像に容易い。二階や蔵も合わせると、結構な重労働になるはずだ」
「ははあ。それは一人でやりたくないわけですね。お布団も、何組も押し入れの中に入っていましたからね。相当な作業量になりますよ」
ただでさえ夏が嫌いなのに、その夏に重労働なんて絶対に嫌だというのが桐山だ。深瀬はなるほどと納得する。一万円払ってでも人手が欲しいはずである。しかし、総てを業者に任せるともっとお金が掛かるだろうというわけだ。そういうやり取りが桐山と両親の間であったことは、想像に難くない。
「そうなんだよ。しかも先祖に買い物好きがいたらしくてね。無駄なものがあれこれあるんだ。小さい頃、大きな壺が二階にあってびっくりしたのを覚えているよ。でも、そういうのも売っても二束三文な物ばかりだろうなあ。仕舞い方からしても価値があるものとは思えなかったし。とはいえ、廃棄するのも馬鹿にならないから、売れるんだったら売っておけってことで話がまとまったらしい」
「はあ。これも今流行りの終活ってやつですよね。荷物をどうすべきかなんて情報が得やすい時代ですからね。全部廃棄するとどうなるか、調べた結果というわけですか。それにフリマアプリなんてものもあるから、売れる可能性も高くなっていますしね」
柏木がでっかい壺も、アプリだったら売り払えるのではと苦笑する。ああいうのは意外なものが高値で売れることがあるものだ。
「で、貧乏くじを先生が引いたんですね。一先ず家の中にどういう物があるか調べる係になっちゃったわけですか。ついでに、マジで使えない、絶対に売れない物は廃棄しといてねってことですよね」
小島がそうまとめるのを、桐山は溜め息で返すしかない。研究が忙しくて、そういう親族の会議に参加できていないのだ。完全に押し付けられている。それを自覚しているから反論のしようもない。
「じゃあ、明日からは肉体労働ですね。早めに休みましょう」
「そうですね。今日も十分疲れちゃったし」
「お前はサボっていただろ。小島ってすぐにどっかいなくなるよな。一体何をやっていたんだよ」
「ええっ。そんなことないよ。ただ気になるところがいっぱいあるからさ。あちこち探索してただけだって。あっ、そうそう、蔵の横の開けたところで花火をしましょうよ」
「えっ、花火なんて持って来てるの」
「イエス。田舎と言えば花火かなあって」
「もう」
しかし、学生たちが楽しそうにそう話すのを聞いていると、たまには無駄な仕事を押し付けられるのもいいかもしれない、と思えてくるのだった。
「凄いねえ。私が作るとなぜかしゃばしゃばになるのよね。こういう程よいどろっと感がないのよ」
柏木がお代わりをしながら荒井の料理の腕を褒めると
「水の入れ過ぎだろう。まずは箱の分量通りに作ればいいんだよ」
荒井はにこりともせずに答える。それを見ながら、桐山は学生の普段とは違う姿を垣間見れて面白いなと感じていた。どうしても研究室では研究の話ばかりで、こういう他のことを話す機会も、普段はどういう生活をしているのかを知る機会もない。
食事を取っているのは茶の間として使われていた部屋で、そこには五人で使っても余裕がある、大きなテーブルがあった。普段は椅子に座っていることが多いので、畳に座って食べるのは久々だが、姿勢が悪くても注意する人がいないので気楽なものだ。胡坐に猫背でもいいならば、畳での食事も悪くないように思う。学生たちも思い思いに座り、カレーや一緒に用意されたサラダ、ポテトを摘まんでいる。
「それで、片付けって具体的にどういうことをやるんですか。っていうか、今日かなり家の中の掃除は進めちゃいましたけど」
深瀬が缶ビールを飲みながら桐山に訊ねる。缶ビールはほぼ深瀬が飲むために買ってきたようなものだ。彼女が晩酌を欠かさないタイプだということを、この唐突な片づけ合宿で初めて知った桐山である。
「具体的には売れる物と廃棄する物に分別することだな。ともかく、あちこちに仕舞い込んである物を出す。それがメインだよ。昔から捨てる人がいなくてね、収納できる場所総てにとんでもない量の物が詰め込まれているんだ」
「ああ。ここ、お皿だけでも凄い数がありましたもんね」
台所を使った荒井は、ああいう感じで物が多いのかと頷く。カレー皿だけでも二十枚はあったのではと、顎に手を当てて考えてしまう。
「そう。同じ物も一杯あるんだよね。仕舞い込んで引っ張り出すのが面倒になり、また買ってしまう。これを繰り返していたことは想像に容易い。二階や蔵も合わせると、結構な重労働になるはずだ」
「ははあ。それは一人でやりたくないわけですね。お布団も、何組も押し入れの中に入っていましたからね。相当な作業量になりますよ」
ただでさえ夏が嫌いなのに、その夏に重労働なんて絶対に嫌だというのが桐山だ。深瀬はなるほどと納得する。一万円払ってでも人手が欲しいはずである。しかし、総てを業者に任せるともっとお金が掛かるだろうというわけだ。そういうやり取りが桐山と両親の間であったことは、想像に難くない。
「そうなんだよ。しかも先祖に買い物好きがいたらしくてね。無駄なものがあれこれあるんだ。小さい頃、大きな壺が二階にあってびっくりしたのを覚えているよ。でも、そういうのも売っても二束三文な物ばかりだろうなあ。仕舞い方からしても価値があるものとは思えなかったし。とはいえ、廃棄するのも馬鹿にならないから、売れるんだったら売っておけってことで話がまとまったらしい」
「はあ。これも今流行りの終活ってやつですよね。荷物をどうすべきかなんて情報が得やすい時代ですからね。全部廃棄するとどうなるか、調べた結果というわけですか。それにフリマアプリなんてものもあるから、売れる可能性も高くなっていますしね」
柏木がでっかい壺も、アプリだったら売り払えるのではと苦笑する。ああいうのは意外なものが高値で売れることがあるものだ。
「で、貧乏くじを先生が引いたんですね。一先ず家の中にどういう物があるか調べる係になっちゃったわけですか。ついでに、マジで使えない、絶対に売れない物は廃棄しといてねってことですよね」
小島がそうまとめるのを、桐山は溜め息で返すしかない。研究が忙しくて、そういう親族の会議に参加できていないのだ。完全に押し付けられている。それを自覚しているから反論のしようもない。
「じゃあ、明日からは肉体労働ですね。早めに休みましょう」
「そうですね。今日も十分疲れちゃったし」
「お前はサボっていただろ。小島ってすぐにどっかいなくなるよな。一体何をやっていたんだよ」
「ええっ。そんなことないよ。ただ気になるところがいっぱいあるからさ。あちこち探索してただけだって。あっ、そうそう、蔵の横の開けたところで花火をしましょうよ」
「えっ、花火なんて持って来てるの」
「イエス。田舎と言えば花火かなあって」
「もう」
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