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第19話 洞窟へ
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軍手と長靴を装備し、手には懐中電灯と地上との連絡用のロープを持ちながら、桐山は恐る恐る階段を降りていた。本当はこんな場所の調査なんてしたくないのだが、しかし、学生だけに行かせるわけにはいかない。それも、真っ先に危険に晒すようなことがあってはいけない。そんな義務感だけで、彼は先頭をゆっくりと進んでいる。
「凄いですね。これ、手掘りしたって感じですよ。昔に地下室を作ろうなんて、大変だったでしょうね。ほら、鶴嘴で掘った跡ですよ、これ」
しかし、そんな桐山とは違い、後ろから付いてくる小島は呑気なものだ。岩肌に残る筋を見ただけでも興奮している。
「蔵に通じているんだから、人工的に掘ったに決まってるだろ。問題は、このトンネルがどこまで続くのか、だよ。地下室っていうけど、空気は大丈夫なのか。何のためにこんな場所を作ったんだ」
「そうそう。呑気に楽しんでいるだけじゃ駄目だよ。先生の言う通りだよ。ひょっとしたら地下牢かもしれないぞ」
桐山の言葉に、小島のさらに後ろから付いてくる荒井が、よくないものだったらどうするんだと注意をする。その荒井は桐山が持つロープが絡まらないように注意しながら歩いていた。そのロープは地上で深瀬が握って見張ってくれている。何かあれば大きく引く手筈になっているのだ。
「地下牢ねえ。それは考えていなかったな。って、えっ」
階段を降り切り、少し進んだところで桐山は驚きの声を上げる。すると、後ろからやって来る学生二人が、どうしたと慌てて階段を降りてきた。
「あっ」
「また扉だ」
そして桐山が驚いた理由を目の当たりにし、どうしようという顔になった。そう、階段を降りた先、そこにはまた扉が設えてあったのだ。その扉は木で出来ているため下の部分が僅かに腐食しているものの、しっかりと通せんぼの役割を果たしている。まさにこの先に大きな秘密があると言いたげな扉だ。
「この扉、どうやって開けるのかな」
「えっ」
しかし、桐山が驚いたのは扉そのものというよりこれだ。この扉には取っ手が付いていない。また、引き戸のように指を掛けるための窪みもない。では、この扉はどうやって開くことが出来るのだろうか。
だが、これがただの通行禁止のための板ではないことは確かだ。なぜならそのフォルムはどう見ても扉なのである。さらに言えば、蔵の中にあった階段を隠す扉と同じデザインなのである。
「ただの通行止めってわけではなさそうですよね。どう見ても扉だし」
「うん。扉ってのは間違いじゃないよな。ただの木の板じゃないもん」
桐山の指摘に改めて扉を見た学生二人も、どういうことだと首を捻った。この一見して扉と解るものは、どうやったら開くことが出来るのか。明らかに向こう側に行ける造りになっているというのに、この扉を動かす方法が解らないのだ。そもそも、どうして不自然な扉なんてここに作ったのだろうか。
「この奥にお宝があるってことかな」
小島はわざと解らなくしているんだと、ますます興奮する。一人でこの扉を見つけたのならば、小躍りしていただろう勢いだ。
「小島って、こういうのが好きだったのか」
学生の意外な一面に、桐山は専攻する学問を間違ったんじゃないかという顔をしてしまう。それに小島は
「宇宙の成り立ちを知りたいってのも、お宝探しに似てますよ。まだ誰も知らないものを発見しようとするんですから」
と反論してきた。
「それを言われると論破し辛いな。確かに俺たちの研究は宝探しに近いと言えるね。当てもなく探しているように思える時がある」
「何で論破しようとするんですか。それに、こういうのに興奮するのは、小さい頃に観た映画のせいですよ。秘宝と聞くと首を突っ込む大学教授の話があるじゃないですか」
「ああ」
それは桐山も知っている。シリーズがいくつも作られているハリウッド映画だ。一時は昔の映画という印象があったが、数年前にまた新作が出て根強い人気のある作品だ。しかし、あれは考古学者だったはずだが、宇宙を知ることも昔を知ることと考えると、同じと言えなくもないだろうか。
「ともかく、こんなややこしい扉を作ったくらいなんですから、この先に秘密があるって思うのは当然じゃないですか」
小島はワクワクしますねと扉をしげしげと見つめる。それに釣られるように、桐山も荒井も改めて扉を見た。確かに何の理由もなくここに扉を作る意味はないだろう。ただでさえ、上は蔵なのだ。厳重に秘匿された何か。そう思わせる扉である。
「まずは開け方が解らないことにはな」
向こう側に何があるにせよ、開けられなければ意味がない。壊してもいいが、この先がどうなっているか解らないのに斧を振るうわけにもいくまい。となると、この開かずの扉の謎に挑むしかないだろう。
「とりあえず、押してみるか」
「そうですね」
「トラップが発動するなんてことはないですよね」
「ないだろ」
映画の見過ぎだよ。桐山は小島の意見に呆れつつ、ゆっくりと扉を押してみる。しかし、腐食している割に扉はぴくりとも動かなかった。押したらずれてくれるという構造にはなっていないのだ。
「凄いですね。これ、手掘りしたって感じですよ。昔に地下室を作ろうなんて、大変だったでしょうね。ほら、鶴嘴で掘った跡ですよ、これ」
しかし、そんな桐山とは違い、後ろから付いてくる小島は呑気なものだ。岩肌に残る筋を見ただけでも興奮している。
「蔵に通じているんだから、人工的に掘ったに決まってるだろ。問題は、このトンネルがどこまで続くのか、だよ。地下室っていうけど、空気は大丈夫なのか。何のためにこんな場所を作ったんだ」
「そうそう。呑気に楽しんでいるだけじゃ駄目だよ。先生の言う通りだよ。ひょっとしたら地下牢かもしれないぞ」
桐山の言葉に、小島のさらに後ろから付いてくる荒井が、よくないものだったらどうするんだと注意をする。その荒井は桐山が持つロープが絡まらないように注意しながら歩いていた。そのロープは地上で深瀬が握って見張ってくれている。何かあれば大きく引く手筈になっているのだ。
「地下牢ねえ。それは考えていなかったな。って、えっ」
階段を降り切り、少し進んだところで桐山は驚きの声を上げる。すると、後ろからやって来る学生二人が、どうしたと慌てて階段を降りてきた。
「あっ」
「また扉だ」
そして桐山が驚いた理由を目の当たりにし、どうしようという顔になった。そう、階段を降りた先、そこにはまた扉が設えてあったのだ。その扉は木で出来ているため下の部分が僅かに腐食しているものの、しっかりと通せんぼの役割を果たしている。まさにこの先に大きな秘密があると言いたげな扉だ。
「この扉、どうやって開けるのかな」
「えっ」
しかし、桐山が驚いたのは扉そのものというよりこれだ。この扉には取っ手が付いていない。また、引き戸のように指を掛けるための窪みもない。では、この扉はどうやって開くことが出来るのだろうか。
だが、これがただの通行禁止のための板ではないことは確かだ。なぜならそのフォルムはどう見ても扉なのである。さらに言えば、蔵の中にあった階段を隠す扉と同じデザインなのである。
「ただの通行止めってわけではなさそうですよね。どう見ても扉だし」
「うん。扉ってのは間違いじゃないよな。ただの木の板じゃないもん」
桐山の指摘に改めて扉を見た学生二人も、どういうことだと首を捻った。この一見して扉と解るものは、どうやったら開くことが出来るのか。明らかに向こう側に行ける造りになっているというのに、この扉を動かす方法が解らないのだ。そもそも、どうして不自然な扉なんてここに作ったのだろうか。
「この奥にお宝があるってことかな」
小島はわざと解らなくしているんだと、ますます興奮する。一人でこの扉を見つけたのならば、小躍りしていただろう勢いだ。
「小島って、こういうのが好きだったのか」
学生の意外な一面に、桐山は専攻する学問を間違ったんじゃないかという顔をしてしまう。それに小島は
「宇宙の成り立ちを知りたいってのも、お宝探しに似てますよ。まだ誰も知らないものを発見しようとするんですから」
と反論してきた。
「それを言われると論破し辛いな。確かに俺たちの研究は宝探しに近いと言えるね。当てもなく探しているように思える時がある」
「何で論破しようとするんですか。それに、こういうのに興奮するのは、小さい頃に観た映画のせいですよ。秘宝と聞くと首を突っ込む大学教授の話があるじゃないですか」
「ああ」
それは桐山も知っている。シリーズがいくつも作られているハリウッド映画だ。一時は昔の映画という印象があったが、数年前にまた新作が出て根強い人気のある作品だ。しかし、あれは考古学者だったはずだが、宇宙を知ることも昔を知ることと考えると、同じと言えなくもないだろうか。
「ともかく、こんなややこしい扉を作ったくらいなんですから、この先に秘密があるって思うのは当然じゃないですか」
小島はワクワクしますねと扉をしげしげと見つめる。それに釣られるように、桐山も荒井も改めて扉を見た。確かに何の理由もなくここに扉を作る意味はないだろう。ただでさえ、上は蔵なのだ。厳重に秘匿された何か。そう思わせる扉である。
「まずは開け方が解らないことにはな」
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「とりあえず、押してみるか」
「そうですね」
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「ないだろ」
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