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第24話 謎の物
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「何だ、これ」
午後もあちこちに仕舞い込まれていた物を運び出していた桐山たちだったが、蔵から運び出された行李の中を確認していたところ、不思議なものを見つけた。
まるで犬ぞりのようなものだ。取っ手があるそりというべきだろうか。しかし、それがどうして行李の中に大事に仕舞い込まれていたのだろう。
「普通、蔵の中に置いておくだけですよね。わざわざ入れてあったんですか」
桐山の驚いた声を聞きつけた深瀬は、覗き込んで同じようにびっくりしてしまった。かなり使い込まれたように見えるそりを、衣服などを仕舞う行李に入れていたのは、一体どういう理由があるのだろう。
「子どもが遊んだものだったのか。思い出のものだったのか。しかし、それにしては素っ気ないデザインだよな」
「ですね。子ども用だとすれば、もう少しカラフルだったり、装飾があってもいいように思います。でも、小さいですよね、これ」
大人が使うには少しばかり小ぶりだが、子ども用と考えるにはあまりに普通のそりに、二人揃って首を捻ってしまう。
「どうしたんですか。って、それ。もう一個あったんですか」
そこに蔵からやって来た小島が、何でもう一個あるんだと、自分の手にあるそりを掲げて言った。もう一方の手には行李がある。
「それも行李に仕舞われていたのか」
「はい。運ぼうとした時にひっくり返しちゃったんですよ。そしたら中からそりが出てきたから、これは何だろうって思って持ってきたんです。農機具ならばそのまま置いておけばいいかなって思ったんですけど、わざわざ仕舞ってあったから高価なものなのかなと、一応考えまして」
「ふうむ」
さすがにこれには、洞窟に興味を示さなかった桐山も真剣に悩む羽目になる。どう考えても、大事に仕舞い込んでおくようなものではないし、それが二つもある理由が解らない。行李に入っていなければまず注目しないものだ。それにこれは、捨てるものなのか売れるものなのか、という謎もある。
「手作りっぽいですよ、これ」
あくまで主目的から外れない桐山に、小島は呆れつつも手に持つそりをしげしげと眺めた。そして、既製品にしては釘の打ち方や持ち手の部分が粗雑な印象を受けると、自分の見解を示した。
「そうだな。こんな形のものが欲しいと思った誰かが作ったということだろう。でも、この取っ手が何のためにあるのか解らない。この取っ手のせいで犬ぞりのように見えるが、ここで犬を飼っていたなんてことはないし、何だろう。農業で使うにしても、小さくて不便な気がするよな」
桐山は用途不明だなと、自分もそりを取り出して、横にしたりひっくり返したりして見てみるが、手作りだということ以外は解らなかった。
「そう言えば、犬小屋はなかったですね。これだけ大きな家だったら飼っていても不思議じゃないのに」
「この村全体でも、犬を飼っている家というのはなかった気がするな。昔は馬やロバを飼っていたという話は聞いたけど、犬の需要はなかったみたいだな」
桐山は小さい頃の記憶を引き出し、この村で犬を見たことはないと気づく。それに、深瀬は山の中だからですかと訊ねる。
「いや、山の中だったら、余計に犬が必要な気がしますけどね。ほら、熊とかイノシシとか、害獣が出るじゃないですか。あれを追い払うために農家さんって飼ってるんじゃないんですか」
小島は犬がいないのは不自然ですよと深瀬の問いに反論する。それに桐山は知らないよと答えつつ
「小さい村だからな。誰かが犬嫌いだったんじゃないか。それこそ、うちの先祖が嫌いだったとなると、誰も飼わなかったと思うね」
飼うなという不文律があったんだろうと推測する。
「なるほど。村の有力者が嫌いならば、誰も飼わないですね。嫌われたくないですし、村八分にあっては大変だ」
「犬を飼っただけで村八分は言い過ぎでしょうけど、こういう小さい村ならば、横の繋がりが大事でしょうからね。そういうルールがあっても不思議じゃないか」
深瀬も小島もその推測には納得だ。しかし、犬が全くいなかったとなると、この犬ぞりは何のためにあったのか。しかも、大事に仕舞われていたのは何故なのか。
「不思議なものがいっぱいありますね。この家」
小島が面白いですねと笑顔になるのを、桐山は苦々しいという顔で見る。そして、なぜこんなにも無駄が多いのかと溜め息を吐いた。何でもかんでも置いておけばいいというものではないだろうに。
「これは他の箱や行李を開けるのも大変ですね」
そんな桐山の心情を読み取って、深瀬はくすくすと笑ってしまう。それから部屋の中に無造作に置かれた箱や行李を見て、この先も大変だなと溜め息を吐いた。三泊四日も必要なのかと思っていた深瀬だが、これは予想以上に時間が掛かる。
午後もあちこちに仕舞い込まれていた物を運び出していた桐山たちだったが、蔵から運び出された行李の中を確認していたところ、不思議なものを見つけた。
まるで犬ぞりのようなものだ。取っ手があるそりというべきだろうか。しかし、それがどうして行李の中に大事に仕舞い込まれていたのだろう。
「普通、蔵の中に置いておくだけですよね。わざわざ入れてあったんですか」
桐山の驚いた声を聞きつけた深瀬は、覗き込んで同じようにびっくりしてしまった。かなり使い込まれたように見えるそりを、衣服などを仕舞う行李に入れていたのは、一体どういう理由があるのだろう。
「子どもが遊んだものだったのか。思い出のものだったのか。しかし、それにしては素っ気ないデザインだよな」
「ですね。子ども用だとすれば、もう少しカラフルだったり、装飾があってもいいように思います。でも、小さいですよね、これ」
大人が使うには少しばかり小ぶりだが、子ども用と考えるにはあまりに普通のそりに、二人揃って首を捻ってしまう。
「どうしたんですか。って、それ。もう一個あったんですか」
そこに蔵からやって来た小島が、何でもう一個あるんだと、自分の手にあるそりを掲げて言った。もう一方の手には行李がある。
「それも行李に仕舞われていたのか」
「はい。運ぼうとした時にひっくり返しちゃったんですよ。そしたら中からそりが出てきたから、これは何だろうって思って持ってきたんです。農機具ならばそのまま置いておけばいいかなって思ったんですけど、わざわざ仕舞ってあったから高価なものなのかなと、一応考えまして」
「ふうむ」
さすがにこれには、洞窟に興味を示さなかった桐山も真剣に悩む羽目になる。どう考えても、大事に仕舞い込んでおくようなものではないし、それが二つもある理由が解らない。行李に入っていなければまず注目しないものだ。それにこれは、捨てるものなのか売れるものなのか、という謎もある。
「手作りっぽいですよ、これ」
あくまで主目的から外れない桐山に、小島は呆れつつも手に持つそりをしげしげと眺めた。そして、既製品にしては釘の打ち方や持ち手の部分が粗雑な印象を受けると、自分の見解を示した。
「そうだな。こんな形のものが欲しいと思った誰かが作ったということだろう。でも、この取っ手が何のためにあるのか解らない。この取っ手のせいで犬ぞりのように見えるが、ここで犬を飼っていたなんてことはないし、何だろう。農業で使うにしても、小さくて不便な気がするよな」
桐山は用途不明だなと、自分もそりを取り出して、横にしたりひっくり返したりして見てみるが、手作りだということ以外は解らなかった。
「そう言えば、犬小屋はなかったですね。これだけ大きな家だったら飼っていても不思議じゃないのに」
「この村全体でも、犬を飼っている家というのはなかった気がするな。昔は馬やロバを飼っていたという話は聞いたけど、犬の需要はなかったみたいだな」
桐山は小さい頃の記憶を引き出し、この村で犬を見たことはないと気づく。それに、深瀬は山の中だからですかと訊ねる。
「いや、山の中だったら、余計に犬が必要な気がしますけどね。ほら、熊とかイノシシとか、害獣が出るじゃないですか。あれを追い払うために農家さんって飼ってるんじゃないんですか」
小島は犬がいないのは不自然ですよと深瀬の問いに反論する。それに桐山は知らないよと答えつつ
「小さい村だからな。誰かが犬嫌いだったんじゃないか。それこそ、うちの先祖が嫌いだったとなると、誰も飼わなかったと思うね」
飼うなという不文律があったんだろうと推測する。
「なるほど。村の有力者が嫌いならば、誰も飼わないですね。嫌われたくないですし、村八分にあっては大変だ」
「犬を飼っただけで村八分は言い過ぎでしょうけど、こういう小さい村ならば、横の繋がりが大事でしょうからね。そういうルールがあっても不思議じゃないか」
深瀬も小島もその推測には納得だ。しかし、犬が全くいなかったとなると、この犬ぞりは何のためにあったのか。しかも、大事に仕舞われていたのは何故なのか。
「不思議なものがいっぱいありますね。この家」
小島が面白いですねと笑顔になるのを、桐山は苦々しいという顔で見る。そして、なぜこんなにも無駄が多いのかと溜め息を吐いた。何でもかんでも置いておけばいいというものではないだろうに。
「これは他の箱や行李を開けるのも大変ですね」
そんな桐山の心情を読み取って、深瀬はくすくすと笑ってしまう。それから部屋の中に無造作に置かれた箱や行李を見て、この先も大変だなと溜め息を吐いた。三泊四日も必要なのかと思っていた深瀬だが、これは予想以上に時間が掛かる。
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