10 / 28
9
しおりを挟む
相変わらずの曇り空と、灰色にうねる海を眺めながら、浜辺を散策する。隣にはアルコルフとルーリ。
ガッチャガッチャと歩くアルコルフと対照的に、ルーリは音無く歩く。足下の小石を踏み鳴らす音くらいしか聞こえてこない。体の作りも対照的で、ぱっと表現すれば、アボカドのアルコルフと、アスパラのルーリである。ルーリを見ていると、研究室で飼育されている昆虫を思い出す。昆虫を飼育しているのはルーリだし、昆虫に対する特別な思いがあるのかもしれない。その思いと関係があるかは分からないけれど、ルーリは単独飛行が可能で、今日も一人で飛んで来た。体内に格納されている翼で空を飛び、手足にある無数の鋭利な突起で壁に張り付くことができる。便利な体だ。
「十徳ルーリ」頭に浮かんだ言葉をそのまま口に出してしまった。
「ルーリが十徳なら、俺にはいくつ徳があるんだ? まず、ここに一つだ」
アルコルフの股間から軽快な電子音が響いてハッチが開こうとしたけれど、僕の片手が押さえ込んだ。
「ルーリ、なんとかしてよ」
「アルコルフの趣味だからね。付けてあげたら?」
僕の救援要請を軽くいなしたルーリは、一人波打ち際に向かって歩いて行く。僕から逃げているわけではなくて、研究に使用する試料を採取するためだろう。ルーリの研究目的は、人間である僕には難解で、未だ精確に理解できていないけれど、大雑把に言えば、地球とオルブの生命機構の比較だ。
「ルーリが代わりに付けてあげてよ」
「私に男性生殖器は無いよ」
「この際それっぽいのを付けてさ」
「ルーリ……男性生殖器……俺の、芸術欲が、爆発する!」
アルコルフが叫び始めてしまった。こうなると誰も手をつけられない。普段なら。今日はルーリがいるので大丈夫だ。
「無駄なエネルギー使ってないで、私の手伝いしてくれない?」
波打ち際で足下の砂浜の様子を観察しているルーリがボソッと言った。それを聞いたアルコルフは「はい、すいません」と返事をしながらルーリの隣に移動した。過去の二人に何があったのか知らないけれど、アルコルフはルーリに頭が上がらない。アルコルフが僕を今日の『散歩』に誘ったのは、おそらく、ルーリと二人きりで作業する状況を避けるためだったのだろう。
それからは、ルーリとアルコルフが浜辺を移動しながら協働作業するのを眺める『散歩』が二時間くらい続いた。二人とも無言で作業を続けているけれど、たぶん、データ通信で情報をやりとりしながら作業しているに違いない。二人とも、作業するときの行動に迷いが一切無いからだ。
アルコルフが用意したであろう重機が物凄い音をたてながら浜辺の地面に大きな穴を開ける。ルーリは穴の最深部に降りると、十徳ルーリの本領を発揮して、腕から注射針のような細い棒を出し、その棒を土に突き立てる。浜辺の土壌を採取して、研究室に持ち帰るのだろう。
「はい、終わり」
十数カ所の土壌を採取したあと、ルーリが言った。アルコルフはいつ終わるのか知っていただろうから、僕に向けた言葉だろう。
「いつもより長かったね」
「ちょっと予想と違うデータが出始めていてね。範囲を広げることにしたんだよ。それより——」
落ち着いた様子で僕の言葉に応えていたルーリが、最後の部分で早口になった。
「新しい素材ができてね、ケイスケ、ちょっと試してみないかい?」
ルーリが右手を僕の方に突き出してきた。その右手には何もない。
「……え? 何が?」
「ちょっと触ってみて」
促されて、ルーリの右手辺りに人差し指の先を移動させてみると、見えないけれど、確かに何かある。布のような肌触りだ。
「すごいね、なんにも見えないけど、これ布?」
「そう、水着」
ガッチャガッチャと歩くアルコルフと対照的に、ルーリは音無く歩く。足下の小石を踏み鳴らす音くらいしか聞こえてこない。体の作りも対照的で、ぱっと表現すれば、アボカドのアルコルフと、アスパラのルーリである。ルーリを見ていると、研究室で飼育されている昆虫を思い出す。昆虫を飼育しているのはルーリだし、昆虫に対する特別な思いがあるのかもしれない。その思いと関係があるかは分からないけれど、ルーリは単独飛行が可能で、今日も一人で飛んで来た。体内に格納されている翼で空を飛び、手足にある無数の鋭利な突起で壁に張り付くことができる。便利な体だ。
「十徳ルーリ」頭に浮かんだ言葉をそのまま口に出してしまった。
「ルーリが十徳なら、俺にはいくつ徳があるんだ? まず、ここに一つだ」
アルコルフの股間から軽快な電子音が響いてハッチが開こうとしたけれど、僕の片手が押さえ込んだ。
「ルーリ、なんとかしてよ」
「アルコルフの趣味だからね。付けてあげたら?」
僕の救援要請を軽くいなしたルーリは、一人波打ち際に向かって歩いて行く。僕から逃げているわけではなくて、研究に使用する試料を採取するためだろう。ルーリの研究目的は、人間である僕には難解で、未だ精確に理解できていないけれど、大雑把に言えば、地球とオルブの生命機構の比較だ。
「ルーリが代わりに付けてあげてよ」
「私に男性生殖器は無いよ」
「この際それっぽいのを付けてさ」
「ルーリ……男性生殖器……俺の、芸術欲が、爆発する!」
アルコルフが叫び始めてしまった。こうなると誰も手をつけられない。普段なら。今日はルーリがいるので大丈夫だ。
「無駄なエネルギー使ってないで、私の手伝いしてくれない?」
波打ち際で足下の砂浜の様子を観察しているルーリがボソッと言った。それを聞いたアルコルフは「はい、すいません」と返事をしながらルーリの隣に移動した。過去の二人に何があったのか知らないけれど、アルコルフはルーリに頭が上がらない。アルコルフが僕を今日の『散歩』に誘ったのは、おそらく、ルーリと二人きりで作業する状況を避けるためだったのだろう。
それからは、ルーリとアルコルフが浜辺を移動しながら協働作業するのを眺める『散歩』が二時間くらい続いた。二人とも無言で作業を続けているけれど、たぶん、データ通信で情報をやりとりしながら作業しているに違いない。二人とも、作業するときの行動に迷いが一切無いからだ。
アルコルフが用意したであろう重機が物凄い音をたてながら浜辺の地面に大きな穴を開ける。ルーリは穴の最深部に降りると、十徳ルーリの本領を発揮して、腕から注射針のような細い棒を出し、その棒を土に突き立てる。浜辺の土壌を採取して、研究室に持ち帰るのだろう。
「はい、終わり」
十数カ所の土壌を採取したあと、ルーリが言った。アルコルフはいつ終わるのか知っていただろうから、僕に向けた言葉だろう。
「いつもより長かったね」
「ちょっと予想と違うデータが出始めていてね。範囲を広げることにしたんだよ。それより——」
落ち着いた様子で僕の言葉に応えていたルーリが、最後の部分で早口になった。
「新しい素材ができてね、ケイスケ、ちょっと試してみないかい?」
ルーリが右手を僕の方に突き出してきた。その右手には何もない。
「……え? 何が?」
「ちょっと触ってみて」
促されて、ルーリの右手辺りに人差し指の先を移動させてみると、見えないけれど、確かに何かある。布のような肌触りだ。
「すごいね、なんにも見えないけど、これ布?」
「そう、水着」
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
レオナルド先生創世記
ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる