異世界召喚されていきなり妃候補とか言われたけど、他の妃候補がチートすぎてもう辞めたいです+妖精(おまけ)付き

蘇芳

文字の大きさ
1 / 86
第一章 異世界召喚編

1 異世界と少女

しおりを挟む
 真那まなの母は亡くなる前に言った。

「あなたは少し他の人とは違っていて、それは他人に理解してもらえないかもしれない。そのせいで辛いこともあるでしょう。それでもあなたの清純な心が、あなたを幸せにしてくれる。決して嘘を言わずに清純に生きなさい。それだけが、あなたを幸せにするものなの、どうかそれを忘れないで」

♢♢♢

 暗闇の中を走っていた少女が立ち止まると、狂った警笛が耳をつんざく。全身に冷たい戦慄が走って体は金縛りでも受けたように動かなくなった。その瞬間に、コップに一気に水を注ぐ如く、後悔と諦めの念がに溺れた。そして強烈な光が彼女に襲いかかり、足元から六芒の描かれた円環が広がる。

 真那が気づいた時、地面に座り込んでいた。夜だったはずなのに闇が去り、ぺたりと座り込んでいる足元は冷やりとしていた。この時、真那は視線を落としていた。そこは恐らくアスファルトの道路であったはずなのに、何故かレンガ状に切り出された自然石のインターロッキングになっていた。

「お、おい! あぶねぇっ!!」

 その声が衝撃となって、少女の麻痺していた思考を覚醒させた。同時に石畳を蹴る馬蹄の響きと車輪が石畳を激しく転がる音が耳朶じだを打ち、真那が跳ねるように身を起こす。目の前に馬車が迫っていた。

「うわぁっ!!?」

 真那が驚愕するのと同時に鼻先をかすめるように荷馬車が通り過ぎ、彼女は尻もちをついた。荷馬車の上にいた男性が一瞬振り向いて、何とも言いようのない表情をしていた。

「あの子いきなり現れたぞ」

 誰かの声が聞こえて真那は体を震わせた。頭が混乱する。さっきまで夜だったのに、いつの間にか昼になっている。そして、周囲に目を向けると、見慣れない格好の人々が視界に入った。男性は暗色系のチュニックとズボン、女性はやはりチュニックに長いスカートを組み合わせた服装で、少数ワンピースに似た服を着ている人もいる。どの服も地味で古臭くて、華やかさなど皆無だった。明らかに真那が先程までいた世界とは違っていた。彼女の胸の中で早鐘が打たれる。

「まあ、何てはしたない。あんなに足を出して……」

 真那を近くで見ていた女性が眉をひそめていた。真那は胸元に赤いリボンの付いている白いワイシャツに、丈が膝上のチェック柄のスカート、自身が通っている高校の制服姿であった。元いた世界でこの格好をおかしいと思う人間など一人もいない。しかし、今、真那の周囲にいる人々は、無遠慮に忌避する視線を浴びせてきた。十五歳の彼女に、こんな状況で冷静な判断などできようはずもない。ただ、人々に見られるのが怖くて逃げだした。

 真那は街道をひた走り町を出ると、それから先には森が広がっていた。少女はさらに森へと続く馬車のわだちの跡が残る土道を駆けていく。途中、町外れの森の中に一軒家があった。こじんまりとした庭で畑の薬草に水をやっていた長いブロンドを三つ編みにした女性が、顔を上げて木柵の向こうに見えた少女を青い瞳で追った。

「変わった格好をしているな」

 訳も分からず走っていた真那は、途中にある家には気付かなかった。彼女はついに疲れ果てて、喘鳴ぜんめいしながらしばらくその場に立ち尽くした。すると、水の流れる音が聞こえてきて、誘われるように水音に向かって歩き出した。やがて小川が見えて、上からそれを覗き込む。緑がかった青の宝玉のような瞳と、黒髪は肩に触るくらいのポニーテール、そして右の頬が少し腫れていた。水面に映る自分の顔を見て、真那は少しほっとした。いきなり訳の分からない世界に来て、自分という存在まで変わっていたりしたらどうしようと思っていた


 それから周囲の状況も忘れて、小川の水の清冽さに見入る。真那が先程までいた街にも川はあったが、川底は藻に覆われて水は嫌な臭いを立ち昇らせる。それから比べると、今、少女の目の前にある小川はあまりにも異質だった。ずっと走っていたので激しい喉の渇きがあり、彼女は我慢できずに両手で水をすくって一気に飲み干した。

「おいしい!」

 真那は水をこんなに美味しいと思ったのは初めてだった。それから何度か手で水をすくって渇きを癒すと、少し落ち着いてものを考えられるようになった。

「何がどうなってるの? さっきまで夜だったのに、明るくなってるし……」

 異世界召喚というワードが真那の脳裏に過る。異世界召喚や異世界転生もののライトノベルは好きで、よく読んでいた。そういった物語に出てくる女の子は、チート能力をもっていたり、そうでなかったとしても、元いた世界の知恵や知識を使って、逞しく、そして華麗に異世界を渡り歩いていく。そういう彼女たちの姿に真那は憧れていたが、自分がそうなりたいと思った事は一度もなかった。自分が異世界になど行ったら、うまく立ち回る事など決して出来ないと思っていたからだ。もうそうなったら、自分には悲惨な運命しかないだろうと思う。そこまで考えると、真那はとても怖くなった。

「どうしよう……」

 この場合、町に戻って情報収集するのが常道だろうが、真那はそれも考えられずに小川の前で座り込んでいた。

「いたっ……」

 呆然としていたら、急に頬が痛みだした。真那はスカートのポケットからハンカチを取り出して、それを小川の水に浸して痛む頬を冷やした。すると、色々な嫌なが記憶が蘇って涙が出そうになった。その時、隣に何か落ちてきて空気が揺れた。その瞬間の気配と音から、真那は驚くのと同時に鳥が落ちてきたと思って振り向いた。すると、傍らに黒い両翼が広がっていた。真那は鴉が落ちてきたのかと思って慄いたが、よくよく見ると翼の下にある体は人の形をしていた。全身の大きさは赤子程度である。

「……え? なに、これ?」
「あうぅ……」

 謎の小さな存在が声を出すと、真那の青緑の瞳が大きくなって宝石のように輝いた。

「もしかして、妖精!?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

ひきこもり娘は前世の記憶を使って転生した世界で気ままな錬金術士として生きてきます!

966
ファンタジー
「錬金術士様だ!この村にも錬金術士様が来たぞ!」  最低ランク錬金術士エリセフィーナは錬金術士の学校、|王立錬金術学園《アカデミー》を卒業した次の日に最果ての村にある|工房《アトリエ》で一人生活することになる、Fランクという最低ランクで錬金術もまだまだ使えない、モンスター相手に戦闘もできないエリナは消えかけている前世の記憶を頼りに知り合いが一人もいない最果ての村で自分の夢『みんなを幸せにしたい』をかなえるために生活をはじめる。  この物語は、最果ての村『グリムホルン』に来てくれた若き錬金術士であるエリセフィーナを村人は一生懸命支えてサポートしていき、Fランクという最低ランクではあるものの、前世の記憶と|王立錬金術学園《アカデミー》で得た知識、離れて暮らす錬金術の師匠や村でできた新たな仲間たちと一緒に便利なアイテムを作ったり、モンスター盗伐の冒険などをしていく。 錬金術士エリセフィーナは日本からの転生者ではあるものの、記憶が消えかかっていることもあり錬金術や現代知識を使ってチート、無双するような物語ではなく、転生した世界で錬金術を使って1から成長し、仲間と冒険して成功したり、失敗したりしながらも楽しくスローライフをする話です。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

無自覚に世界最強だった俺、追放後にチートがバレて全員ざまぁされる件

fuwamofu
ファンタジー
冒険者団から「役立たず」と追放された青年リオ。 実は彼のスキル《創造》は、世界の理を作り替える最強の能力だった。 追放後、孤独な旅に出るリオは、自身の無自覚な力で人々を救い、国を救い、やがて世界の中心に立つ。 そんな彼の元には、かつて彼を見下していた美少女たちが次々と跪いていく──。 これは、無自覚に世界を変えてしまう青年の、ざまぁと覇道の物語。

処理中です...