異世界召喚されていきなり妃候補とか言われたけど、他の妃候補がチートすぎてもう辞めたいです+妖精(おまけ)付き

蘇芳

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第一章 異世界召喚編

5 嬉しい出会い

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 真那はゼノビアとカイナスの後に付いて城内に入った。すると、真那の到着を待ちかねていた少女が駆け寄ってきた。彼女の姿は真那を脅かせると同時に、異世界への憧れる気持ちをくすぐった。

「よかったぁ、無事だったんだね。ごめんねぇ、わたしが魔法失敗しちゃってさぁ」
 頭の後ろに手を置いて苦笑いする少女の姿は、一言でいえば魔女だった。黒いとんがり帽子をかぶり、黒いローブに身を包む。

 真那は魔女という言葉に何となく暗いイメージを持っていたが、目の前にいる少女はそんなイメージとは無縁だった。暗いのは外側だけで、内着は袖口にフリルの付いた若草色のパフスリーブのブラウスと、真那の制服に負けない短さのスカートに、オレンジ色のブーツにはアクセントに小さなピンクのリボンが付いている。全体的に明るくて可愛らしい意匠だった。

 シャルは真那と同じくらいに背が低く、愛嬌のある顔立ちだ。瑠璃色の瞳と、それと同じ色の髪を肩の上で切り揃えて、見るからに利発そうな女の子だった。

「何がいいものですか! あなたの魔法が失敗したおかげで、どれだけの騒ぎになったのか理解しているのですか!」

「わ、わかってるよぅ」

 ゼノビアの叱責に、魔女の娘は煙たそうな顔で返した。その反省のない様子が、ゼノビアをさらに怒らせる。

「分かってません! もしマナが賊にでも襲われていたら、その責任の追及はあなたのお母様にまで及ぶところです」

「なによう! そんなに怒らなくてもいいでしょう!」
「何なのですか、その態度は!?」

「それくらいで許してやれ、今はマナを妃殿下に謁見させる事が先だ」

 兄に諭されたゼノビアはまだ何か言いたそうだったが口をつぐんだ。魔女の娘の方は、ゼノビアの小言などもう忘れたとでもいうように、あっけらかんとしている。

「あなたマナって言うんだ。わたしはシャル・ヴゥルスト、見ての通り魔女だよ」
「よろしくお願いします」

 真那が頭を下げると上にいたメラメラが滑り落ちた。それに慌てた真那が両手を出すと、メラメラが羽を広げて一回転してお尻から真那の手の上に乗った。その様子にシャルの視線が釘付けになっていた。

「それってフェアリーだよね?」
「やっぱりこの子って妖精なんですか?」
「いや、妖精じゃなくてフェアリーでしょ?」
「フェアリーって妖精って意味ですよね?」
「そうなんだけど違うっていうか……」

 真那はメラメラがどういう存在なのか出来る事なら知りたいと思う。けれど、どうも話が噛み合わなかった。シャルは寸秒、考えてから話し始めた。

「君のいた世界では妖精とフェアリーは同一視されていたんだね。こっちではね、妖精っていうのは自然の中にいる精霊に近い存在で、フェアリーっていうのは妖精をモチーフにして造られた人口生命体の事なんだよ」

「人口って!? じゃあ、この子は人間に造られたんですか!?」
「そういうことだね」

 真那が更に話を続けようとすると、カイナスの咳払いで割り込んできた。

「悪いが、その話は後にしてくれ。妃殿下がお待ちなんだ」
「すみません……」

「じゃあ後でお話ししようよ、美味しいご飯でも食べながらさ!」
「わあ、楽しみです!」

 ウィンクするシャルに、真那は両手を合わせて心からの喜びを表現した。この世界に来てから喜びを感じたのは初めでだった。第一印象からしても、シャルは真那にとって身近に感じられる少女だった。

「じゃあね!」
 シャルは手を振ってから、城の奥の方へと走っていった。


 真那がまず連れていかれたのは衣裳部屋だった。そこで真那は侍女に渡された。彼女は真那より二つ三つ年上に見えた。黒いカートルとロングスカートの上に白のエプロンを身に着け、頭には白いキャップ、栗の髪を後ろで結わえてまとめている釣り目気味の美人だった。

「まあ、何ておいたわしい!」

 侍女は真那に会うなり、挨拶もおざなりにして叫んだ。彼女の鳶色の瞳に悲哀する輝きが揺れる。そして壊れ物でも触るような恐れる手つきで真那の頬に触れた。

「頬が腫れていますわ。誰がこんな酷いことを!」
「あの、前にいたところで……」

 真那が言い淀むと、侍女は得心いって目じりを吊り上げた。

「マナ様のような可愛らしいお方に乱暴をするなど、最低最悪のごみのような人間ですわね!」

 城勤めの侍女にしては、かなり辛辣でえげつない言葉使いだ。小説やゲームに出てくる侍女は、もう少し淑やかだったなと真那は思う。同時に可愛いと言われた事で少し舞い上がっていた。

 侍女は持参していた薬箱から銀の容器に入っている軟膏を取り出した。事前に真那が怪我をしていることを知らされていて、あらかじめ準備していたのだった。彼女はそっと軟膏を真那の頬に塗り、手早くガーゼを当ててから真那から少し離れて頭を下げる。

「名前も告げずに手当をしてしまい申し訳ありませんでした。わたくしはユリカ・マールストンと申します。本日よりマナ様の侍女としてお仕えいたします。何なりとお申し付け下さい」

「えっと、よ、よろしくお願いします」
 真那が頭を下げると、ユリカは何故か慌てだす。

「侍女にそのように頭を下げるのはおやめ下さい。マナ様は堂々として、わたくしに命じて下さればよいのです」

 そんなの無理です、と真那は心の中で呟いた。命令しろと言われても何をどうしたらよいのかも分からないし、何より真那には他人に命令するような我も強さもない。

「それにしても言葉が通じて良かったですわ。召喚者の中には全く言葉の通じない方もいたとかで、心配していたのです」

「え?」

 真那は首を傾げてしまった。それから数秒かけて侍女の言葉をかみ砕いて、ようやく理解する。この世界に来て普通に会話ができていたので、真那は今まで気付かなかった。普通の感覚を持った人間ならば、少し考えれば異世界に来て言葉が通じる不思議に思い至るだろう。しかし真那は、他人に言われてようやくそれに気付いた。少女は自分の間抜けさに打ちひしがれるが、自分に対して諦める気持ちも強かった。

「ふわぁ」

 不意に可愛らしい声が聞こえてきた。そして真那は、メラメラが腕の中にも頭の上にもいない事に気づく。

「まあっ!?」

 ユリカが声を上げて愕然としていた。メラメラは宙に浮きながら、部屋を囲むようにして陳列されているドレスを引っ張り出して見ては放り投げていた。
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