異世界召喚されていきなり妃候補とか言われたけど、他の妃候補がチートすぎてもう辞めたいです+妖精(おまけ)付き

蘇芳

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第二章 聖メディアーノ学園編

26 アルメリア激昂

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 初日の授業が終わって、マナはくたくたになりながら、寮の三階に向かって階段を上がっていた。一歩上がるごとに、じわりとした疲れが体を重くしていく。メラメラは、マナに抱かれながらよく分からない歌を口ずさんで、マナとは対照的に元気だった。

「お疲れのようですね」

 隣を歩くゼノビアがいうと、マナは頭をふらふら動かしながら答える。

「思ったよりもずっと大変そう。やっていけるか心配だなぁ」
「まだ初日ですよ、あまり気負わないことです」
「うん……」

 マナ達が三階に着いた時に、廊下の奥から声が響いてきた。

「わたくしの言う事が聞けないというのですか」
「お嬢様、無茶を言わないで下さい」

 一人の声がやけに通ってマナの耳に届き、顔を見なくても強気な彼女の姿が鮮明に浮かんだ。

 廊下の一番奥の部屋の前で、侍女がアルメリアに打ちのめされていた。その様子を見たマナが立ち止まる。無視して自分の部屋に行けばいいのに、何故か歩み難く、二人の姿を凝視してしまった。アルメリアと侍女のやり取りはなおも続く。

「貴族のプライドを持つ侍女など使い物にはなりませんね、あなたには暇を与えます。次は、平民か成り上がりの男爵からでも侍女を選ぶとしましょう」

「お嬢様、あんまりです」

 子爵出の彼女は、プライドを酷く傷つけられ、顔を覆って泣き出した。そんな侍女に、アルメリアは酷くつまらないものを見るような目を向け、冷酷に言い放った。

「目障りです、消えなさい」

 侍女は泣きながらその場から逃げ出し、マナ達の脇を通って階段を下りて行った。その直後にアルメリアと目が合って、マナの身体に嫌な緊張が走った。メラメラにもそれが伝わるのか、小さな体を変に硬直させていた。

 アルメリアは扇子を開いて顔を半分隠すと、目を細くして言った。

「あら、平民のマナさんではありませんか、そんなところに立ってどうしたのです?」
「い、いえ、何でも、ないです」

 マナが歩き出して、自分の部屋の扉に手をかけようとすると、

「お待ちなさい」

 ドアノブに触れるか触れないかの位置で、マナの手が止まる。

「あなたとお話ししたい事があります、わたくしの部屋に来なさい」

 アルメリアに呼び止められたマナが、思わず助けを求めるようにゼノビアを見上げるが、彼女は黙っていた。

「何をしているのです、早くいらっしゃい」
「はい……」

 マナは、有無を言わさぬアルメリアの調子に負けて、俯き加減で廊下を歩み、アルメリアと奥の部屋に入った。


 アルメリアの部屋の内装は、公爵令嬢にしてはさっぱりしていた。調度品と絵画は一点ずつだし、ベッドに天蓋も付いていない。

 マナには、そんな部屋の様子など見る余裕はなかった。ただ恐ろし気に、公爵令嬢のエメラルド色の瞳を見上げていた。

 アルメリアは扇子を閉じて、それをもう片方の手に置いた。彼女の目は恐ろしく冷ややかで、マナが恐怖を抱く。マナに抱かれているメラメラも怖がっていた。

「もう一度だけ忠告します、この学園から今すぐに出ていきなさい」
 アルメリアの言葉が衝撃的すぎて、マナの思考が追い付かなかった。

「聞こえなかったのですか? それとも、わたくしの言葉が理解できないのかしら?」

 アルメリアが言葉で責め立てると、マナは耳を塞ぎたくなる。もうどうすればいいのか分からなかった。しかし、瞬間にアルカードの姿が脳裏に浮かび、同時に震える声が出た。

「嫌です」
「なんですって?」
「嫌です、出ていきません」

 今度ははっきりと言った。すると、アルメリアがマナの顎の下に扇子を差し込んで、俯き加減なマナの面を上げさせる。

「平民風情が! 公爵令嬢である、わたくしの言う事が聞けないというのですか!!」

 広い部屋を震わせるような、凄まじい激昂だった。マナは絞り出した勇気を砕かれて、その場に座り込んでしまった。メラメラも驚いて、目を丸くしていた。

 アルメリアは、次の瞬間には、普段の知性的なお嬢様に戻っていた。

「これがあなたの選んだ道です、平民である以上この学園にいる誰よりも身分が低い。あなたは、この学園にいる全ての生徒に服従しなければならないのです」

「それでも、最後まで頑張りたいんです……」
 マナは瞳に涙を溜めて訴えた。

「あなたは何も分かっていません。一見華やかに見える王侯貴族の世界には、悪魔が住んでいるのです」

「お母さんの言う事が正しいって信じてる……」

 マナは、母の言葉を支えにして必死に耐えていた。そんな姿を見下ろしていたアルメリアの目から冷たさが消えていく。

 その時、誰かが部屋の扉を叩いた。
「突然、申し訳ありません。マナ様がそちらに来ていませんか?」

 扉の向こうからユリカの声が聞こえると、闇に光りが射すように、マナの心に急速に安心感が広がっていく。

「あなたの気持ちは分かりました、これ以上は何も言いません。もう、お行きなさい」

 アルメリアの激昂を受けて、麻痺したように動けなかったマナが、その呪縛から解き放たれて、ゆっくりと立ち上がる。そして、ユリカの呼ぶ声に引き寄せられるように歩き、廊下に出るなり侍女に抱きついた。

「マナ様!? どうなされたのですか!?」
「何でもないの。けど、少しの間こうしてたい」

 マナの様々な辛い思いが弾けて、涙が止まらなくなっていた。アルメリアは抱き合う二人の姿を見てから、半分ほど空いている扉を静かに閉めた。

「マナね、い~っぱい怒られたの」

 メラメラが、マナとユリカの間に挟まれながら両手を大きく広げて見せた。

「わたしは、大丈夫だから」

 マナがそう言うので、ユリカはアルメリアへの猜疑心を抑えた。今は泣きじゃくる主の気持ちを受け止めてやる事しか出来なかった。
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