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第二章 聖メディアーノ学園編
25 不穏な空気
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カフェテラスは寮に併設されていて、屋根以外はクリスタル張りのお洒落な建物だ。昼食後にここでティータイムを過ごす生徒は多い。全ての壁面から斜陽が射すので中はとても明るい。その明るさと均衡を取るために、置いてある椅子とテーブルは木製で、木目が美しく落ち着いた雰囲気を醸していた。
マナは昼食後に、急いでカフェテラスに向かった。食事に時間がかかってしまい、もう時間がなかった。マナは小走りになり、ユリカが後から早足でついてきて言った。
「マナ様、そんなに急がなくても大丈夫です」
「え? でも、あと五分しか時間ないよ」
庭園の日時計は、午後一時より五分前を差している。
ユリカの話で、お昼休みの時間は、マナが知っている学校に比べると倍の長さがある事が分かった。
カフェテラスに入ると、シャルが手を振って合図してくれる。同じ席に数人いて、遠くからでは誰か分からない。
「マナ、こっちだよ!」
テーブルにはシャルの他に三人がいた。マナが、その中にアルカードの存在を認めて、愛おしい気持ちが胸の辺りに広がった。
「やあ」
マナに最初に挨拶してきたのは、アルカードの隣にいる男性だった。見覚えはあるが、誰なのか思い出せずにいると、
「お兄様ですわ」
男性の隣に座っているゼノビアが言った。
「あっ、カイナス様だったんですね。制服で雰囲気が変わってて分からなくて」
「気にしなくていいさ、会ったのは一度きりだしね」
「あの、カイナス様、どうしてここに?」
マナは、アルカードとカイナスが同じ制服を着ているにもかかわらず、わざわざ聞いた。別に悪気はないし、同じ制服を着ていたとしても、彼女にとっては疑問だったのだ。
「見ての通り、この学園の生徒さ」
「カイナス様は、わたし達の先輩だよ」
シャルの説明で、マナはようやく理解した。
「やっと君の顔を見ることができたよ」
王子様の笑顔が、乙女の胸を射抜く。マナはアルカードに促されて、彼の隣に座った。それだけで、幸せすぎて死んでもいいと思う。
「今朝、君の事を待っていたんだけど、ゼノビアに注意されてしまってね」
「え?」
マナは、アルカードの話が呑み込めなかった。その疑問に答えるかのように、ゼノビアが即座に切り返す。
「生徒の目があるのです。妃候補とはいえ、殿下と特定の女生徒がべたべたするのは良くありません。それに、殿下の行為はマナの実害にもなりかねません」
「手厳しいね」
身分を恐れずはっきりと言うゼノビアに、アルカードは思わず苦笑いする。それを聞いていたマナは、実害って何だろうと思う。
そんな会話の間に、ユリカがテーブルに紅茶を出していく。
「お茶菓子はいかがいたしましょう? こちらで適当に見繕ってよろしいですか?」
「いいえ、自分で選ぶわ」
ゼノビアがそう言って、静かに椅子を引いて立ち上がると、続いてシャルが、椅子を後ろに跳ね飛ばすように勢いよく立つ。マナとメラメラは、そんな二人を見上げていた。
「聞いてびっくり、ケーキ選び放題の食べ放題なんだってさ!」
シャルが言うと、メラメラの瞳が玉のように輝く。
「ケーキ! ケーキ!」
「はいはい、わかったよ」
マナもメラメラを頭の上に乗せてから席を立った。そして、少女三人連れ立って、テーブルから離れていく。ユリカもカートに三段のケーキスタンドを乗せて、彼女らの後に付いていった。
「ケーキ! ケーキ!」とメラメラが叫んで、またマナが恥ずかしい思いをした。
必然的に、テーブルにはアルカードとカイナスが残された。
「アル、少し話したいことがある」
「どうたんだい、カイナス」
アルカードとカイナスは幼馴染であり、アルカードはカイナスを兄のように思っている。だから、普段の会話は気楽なものだ。しかし、この時のカイナスは神妙な面持ちだった。
「あまりいい空気じゃないな」
「何の事だい?」
「君をとりまく空気が良くないのさ、原因は分かるだろ?」
黙ったアルカードの顔が、次第に陰を帯びていく。
「まさか、マナが?」
「入学式の日に、あの子の身分が平民だと知れ渡ったのが痛手になっている。上級生の女生徒は、あの子を目の敵にしている。下級生も同じ状況のはずだ」
「でも、僕の周りにマナを嫌っているような人はいないけどな」
「そりゃあそうさ、王太子のアルを前にして、マナを嫌う馬鹿はいない。そんな素振りすら見せないだろう。だが、このままだと良くない事が起こる。これはお前の責任でもある。だから、しっかり彼女を守れよ」
「わかった、出来るだけマナの近くにいるよ」
「適度な距離を保ちつつな、距離が近いと余計なヘイトが溜まる」
アルカードは、入学式の日の騒動については、シャルから詳しい事情を聞いていた。まさかとは思っていたが、カイナスの話を聞いて、思った以上に事態が深刻である事に気付かされた。
「上級生は、私が抑えておこう。下級生には、ゼノビアが睨みを効かせるだろう」
「ゼノビアも妃候補だ、そんな事を頼むのは申し訳ないよ」
「頼んではいないさ、あいつは勝手にそうするよ。入学式の騒動を聞いて憤っていたからな」
やがて令嬢たちが戻ってきて、楽しいお茶会が始まった。何も知らないマナは、次から次へとケーキを食べるメラメラを温かい目で見つめていた。隣でその様子を見ていたアルカードは、何があってもマナを守るという正義感に燃えた。
マナは昼食後に、急いでカフェテラスに向かった。食事に時間がかかってしまい、もう時間がなかった。マナは小走りになり、ユリカが後から早足でついてきて言った。
「マナ様、そんなに急がなくても大丈夫です」
「え? でも、あと五分しか時間ないよ」
庭園の日時計は、午後一時より五分前を差している。
ユリカの話で、お昼休みの時間は、マナが知っている学校に比べると倍の長さがある事が分かった。
カフェテラスに入ると、シャルが手を振って合図してくれる。同じ席に数人いて、遠くからでは誰か分からない。
「マナ、こっちだよ!」
テーブルにはシャルの他に三人がいた。マナが、その中にアルカードの存在を認めて、愛おしい気持ちが胸の辺りに広がった。
「やあ」
マナに最初に挨拶してきたのは、アルカードの隣にいる男性だった。見覚えはあるが、誰なのか思い出せずにいると、
「お兄様ですわ」
男性の隣に座っているゼノビアが言った。
「あっ、カイナス様だったんですね。制服で雰囲気が変わってて分からなくて」
「気にしなくていいさ、会ったのは一度きりだしね」
「あの、カイナス様、どうしてここに?」
マナは、アルカードとカイナスが同じ制服を着ているにもかかわらず、わざわざ聞いた。別に悪気はないし、同じ制服を着ていたとしても、彼女にとっては疑問だったのだ。
「見ての通り、この学園の生徒さ」
「カイナス様は、わたし達の先輩だよ」
シャルの説明で、マナはようやく理解した。
「やっと君の顔を見ることができたよ」
王子様の笑顔が、乙女の胸を射抜く。マナはアルカードに促されて、彼の隣に座った。それだけで、幸せすぎて死んでもいいと思う。
「今朝、君の事を待っていたんだけど、ゼノビアに注意されてしまってね」
「え?」
マナは、アルカードの話が呑み込めなかった。その疑問に答えるかのように、ゼノビアが即座に切り返す。
「生徒の目があるのです。妃候補とはいえ、殿下と特定の女生徒がべたべたするのは良くありません。それに、殿下の行為はマナの実害にもなりかねません」
「手厳しいね」
身分を恐れずはっきりと言うゼノビアに、アルカードは思わず苦笑いする。それを聞いていたマナは、実害って何だろうと思う。
そんな会話の間に、ユリカがテーブルに紅茶を出していく。
「お茶菓子はいかがいたしましょう? こちらで適当に見繕ってよろしいですか?」
「いいえ、自分で選ぶわ」
ゼノビアがそう言って、静かに椅子を引いて立ち上がると、続いてシャルが、椅子を後ろに跳ね飛ばすように勢いよく立つ。マナとメラメラは、そんな二人を見上げていた。
「聞いてびっくり、ケーキ選び放題の食べ放題なんだってさ!」
シャルが言うと、メラメラの瞳が玉のように輝く。
「ケーキ! ケーキ!」
「はいはい、わかったよ」
マナもメラメラを頭の上に乗せてから席を立った。そして、少女三人連れ立って、テーブルから離れていく。ユリカもカートに三段のケーキスタンドを乗せて、彼女らの後に付いていった。
「ケーキ! ケーキ!」とメラメラが叫んで、またマナが恥ずかしい思いをした。
必然的に、テーブルにはアルカードとカイナスが残された。
「アル、少し話したいことがある」
「どうたんだい、カイナス」
アルカードとカイナスは幼馴染であり、アルカードはカイナスを兄のように思っている。だから、普段の会話は気楽なものだ。しかし、この時のカイナスは神妙な面持ちだった。
「あまりいい空気じゃないな」
「何の事だい?」
「君をとりまく空気が良くないのさ、原因は分かるだろ?」
黙ったアルカードの顔が、次第に陰を帯びていく。
「まさか、マナが?」
「入学式の日に、あの子の身分が平民だと知れ渡ったのが痛手になっている。上級生の女生徒は、あの子を目の敵にしている。下級生も同じ状況のはずだ」
「でも、僕の周りにマナを嫌っているような人はいないけどな」
「そりゃあそうさ、王太子のアルを前にして、マナを嫌う馬鹿はいない。そんな素振りすら見せないだろう。だが、このままだと良くない事が起こる。これはお前の責任でもある。だから、しっかり彼女を守れよ」
「わかった、出来るだけマナの近くにいるよ」
「適度な距離を保ちつつな、距離が近いと余計なヘイトが溜まる」
アルカードは、入学式の日の騒動については、シャルから詳しい事情を聞いていた。まさかとは思っていたが、カイナスの話を聞いて、思った以上に事態が深刻である事に気付かされた。
「上級生は、私が抑えておこう。下級生には、ゼノビアが睨みを効かせるだろう」
「ゼノビアも妃候補だ、そんな事を頼むのは申し訳ないよ」
「頼んではいないさ、あいつは勝手にそうするよ。入学式の騒動を聞いて憤っていたからな」
やがて令嬢たちが戻ってきて、楽しいお茶会が始まった。何も知らないマナは、次から次へとケーキを食べるメラメラを温かい目で見つめていた。隣でその様子を見ていたアルカードは、何があってもマナを守るという正義感に燃えた。
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