異世界召喚されていきなり妃候補とか言われたけど、他の妃候補がチートすぎてもう辞めたいです+妖精(おまけ)付き

蘇芳

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第二章 聖メディアーノ学園編

33 不吉な夢2

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「みんなはやく逃げて!」

 フェアリーを抱く少女が叫び、村人たちが怪訝な眼を彼女に向ける。

「帝国兵がすぐそこまで来ています! 早く、早く逃げて!」

 少女の声を聞いた人々の間に、まさかという空気が流れた。その数瞬後に、無数の馬蹄が地を蹴る音が、村の奥から響いてくる。

 黒い鎧の馬上の騎士たちが剣を振り上げると、少女の宝石のような瞳に無数の白刃の輝きが異様に映った。

 少女を疑っていた人々は、その時になってようやく少女の叫びが真実なのだと知った。井戸端の女たちは洗濯途中の物を放って家に駆けこみ、男たちは家族を守るために武器になりそうなものを手に持った。その全てが遅すぎた。少女が逃げろと言った時に動かなければならなかった。

 黒い騎士団は波打つ闇となって村を呑み込み、目に留まる人間を斬っていった。村中から悲鳴があがり、血飛沫が舞う。騎士たちは女子供であろうと容赦なく剣を浴びせた。彼らに情けなどなかった、彼らは狂気そのものだった、人を殺すのに理由などなかった、只殺したいから殺しているのだった。

 少女は故郷の村を染め上げる惨たらしい光景の前で呆然としていた。馬蹄が畑の作物を踏み砕き、逃げ惑う村人を圧し潰す。両親を惨殺された子供が泣き叫び、それを更なる悲鳴が塗り潰していく。

「ふうぅ、怖いよぅ」

 少女は懐で震えているフェアリーを見つめた。その小さな存在が、不安のあまりコーンフラワーブル―の瞳を潤ませた。銀髪に半透明の群青の翅、そして青いドレス、その小さな体に秘められた力を少女は知っている。けれど、その力を使う事は決してなかった。その力は途方もなく強大であった。それは人間が手を出してはいけない領域にあった。けれど、故郷を破壊され、親しい人々の命を踏みにじられ、少女の中にある大切な何かが壊れた。その瞬間に、少女の瞳から理性の輝きが消えた。

「テスラ、戦って」

♢♢♢

 マナが目を覚まして起き上がる。まだ辺りは暗く、すぐ側で寝ているメラメラの息使いが聞こえる。

「……夢?」

 それにしては、はっきりとしすぎている。少女の声も、村の悲惨な光景も、テスラという名前も覚えていた。

「前にも変な夢を見た、この世界に来てからだ……」

 どうしてそんな夢を見るのか、マナには分かりようもなかった。

♢♢♢

 今朝、急にシンシアがやってきて、アルメリアからの朝食の誘いがあった。マナは、アルメリアが怖くて会いたくなかったが、必ず来るようにとの言伝を置いていかれた。マナには、アルメリアに逆らう勇気はなかった。そんなマナが心配なユリカが同行を申し出ると、マナはいくらか安心する事が出来た。

「お招き頂き光栄です、アルメリア様」

 マナが型通りの挨拶をすると、テーブルに付いていたアルメリアは、つまらぬ芝居でも見るような冷めた目で微笑した。

「心からの言葉ではありませんね、あなたがここに来たいと思うはずがありませんもの」

 マナがその言葉を肯定するように目を伏せてしまう。

「マナお嬢様、よくいらっしゃいまして! さあ、どうぞこちらに!」

 シンシアがはしっこく動いてマナの手を取り、テーブルに案内する。シンシアの明るい声が、アルメリアの嫌味で沈んだマナの心を少し元気づけてくれた。

「マナお嬢様って、本当に可愛らしいお方ですね! この学園で一番だと思います!」
「そんな、一番だなんて……」

 シンシアの声はマナの心にすっと入ってくる。マナは自分が可愛いなど欠片ほども思っていないが、シンシアの言葉に嘘はなく、心の底からそう思っている事が伝わってきた。

 太陽のような笑顔と言うが、シンシアの笑顔は輝いて見える程、清々しく可愛らしい。そんなシンシアの存在が、マナと同行して来たユリカにまで安心感を与えた。

 シンシアはカートの食事をテーブルに移しながら快活に喋った。

「さあさあ、粗食ですが、召し上がって下さいな」
「その粗食を毎朝食べているわたくしは、何なのでしょうね?」

「あ、ごめんなさい、お嬢様、変な意味じゃないんですよ」
「あなたはもう少し言葉の使い方に気を付けなさい」

「はい! お嬢様に気に入られるように、誠心誠意、頑張りますわ!」
「あなたはいつも口ばかりね」
「お嬢様、そんな事言わないで下さいまし」

 アルメリアと言葉を交わすシンシアは、とても楽しそうだったし、アルメリアの方もまんざらではない感じだった。どうしてシンシアが、あのアルメリアとこんな気軽に会話できるのか、マナは不思議で仕方がなかった。これはマナとユリカの関係と同じで、相性が良いという他あるまい。

「さあ、メラメラちゃんもどうぞ」

 マナとメラメラの前に出てきたのは、本当に粗食だった。バターとジャムが添えてある小さな丸パンが二つに一杯のミルクとグリーンサラダの三品のみだ。公爵と言えば王族に匹敵する権力があるのに、食事の内容がまったくそれに見合っていないし、マナの毎朝の食事と比べても貧相だった。

「シンシアが粗食と言ったのは嘘ではありません、驚きましたでしょう」
「それはもう驚きましたとも! わたしの家の食事の方がよっぽど豪華なんですもの!」
「シンシア、あなたには聞いていません」
「ごめんなさい、お嬢様、また余計な事を言ってしまって」

 お喋りなシンシアとは対極に、マナはその粗食に対して何も言えなかった。恐ろし気に見上げるマナに、アルメリアは言った。

「わたくしは食事に関しては平民を見習うべきだと考えています。貴族は平民に比べて寿命が短いのです、その原因は贅沢な食事にあるようです」

 アルメリアはパンを千切って口に入れると、目を閉じて満足げに食する。

「今日のパンも素晴らしいわ、シンシア」
「ありがとうございます、お嬢様!」
「このパンは、シンシアが早朝から起きて作ったものなのです、食べてごらんなさい」

「おいし~っ!」

 アルメリアが言うまでもなく、メラメラは我慢しきれずに食べ始めていた。マナもパンを一口食べてみると、その美味さに絶句した。その後は、パンを千切っては食べ、バターもジャムも付けずに丸パン一つを食べていた。

「とても、美味しいです」

 マナは、パンとはこんなにも美味しいものなのだと知った。

「そうでしょう、シンシアが丹精込めて作ったパンです。それにパンに使っている小麦は王族用に種から厳選し、王族専用の農場で丁寧に育てたもので、サラダの野菜も同様です。ミルクも王族専用の牧場から搾りたてのものを運んできました」

 話の意図が分からずに呆然と見上げるマナを、アルメリアは真摯に見つめて言った。

「食べてみれば、ここにある食事が実は贅沢なものだと分かります。ものの本質とは見た目では分からないものなのです」

 アルメリアが何を言わんとしているのか、マナには理解できなかったが、とても大切な事を言っている事は直感として分かる。

「あなたは周りから、ちやほやされているのでしょうね」

 アルメリアが侮るように微笑み、口調も急に変わって、マナは嫌な気持ちになってきた。

「誰もあなたには言わないでしょうから、わたくしが現実を教えて差し上げます。近々、戦争が起こりますよ」

「え? せ、戦争!?」
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