異世界召喚されていきなり妃候補とか言われたけど、他の妃候補がチートすぎてもう辞めたいです+妖精(おまけ)付き

蘇芳

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第二章 聖メディアーノ学園編

32 アストラル・テグマ

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 それからは洋服屋に寄って、町人の普段着などを見て楽しんだ。マナはロディスに来てからドレスか制服しか着ていない。例え庶民の服だとしても、異世界のものなので初めて見るものばかりで新鮮だった。

 次はシャルが魔法道具屋に行きたいと言い出した。それにはレクサスが難色を示した。

「魔法道具屋があるのは大外だろう、妃候補を連れていくような場所じゃない」
「大丈夫だって、何度か行ってるし」
「まさか、一人で行ったのか? 貴方も妃候補なんだぞ」

 シャルは急に黙るとレクサスから目を逸らした。あわよくばごまかそうという顔だった。妃候補は一人では外出できない決まりなのだ。

「まったく、あなたという人は」

 ユリカが怒り出すと、シャルは観念して頭を下げた。

「ごめんなさい、もう二度としません」
「何で町の外側がいけないんですか?」

「町は外に行くほど治安が悪くなるのです。特に町の外郭は見回りの騎士の目が届かない場所があるので、何が潜んでいるか分からないのです」

 町の事を何も知らないマナにユリカが答えた。

「お願いします! どうしても魔法道具屋で買いたいものがあるの!」

 食い下がるシャルに、ユリカが仕方ないと言わんばかりのため息を吐く。

「レクサス様もいるので、まあ大丈夫でしょう」
「やった! ユリカ大好き!」

 一同馬車に乗り込み、町の外側へと向かう。マナがメラメラを頭に乗せながら馬車の窓から様子を見ていると、確かに町の雰囲気が変わってきた。道行く人の数はまばらになり、この辺りの待ち人が来ている服は薄汚れてる。お店もあるにはあるが、商店町と比べると荒んだ雰囲気がある。民家は小さな家が多くなり、町の外郭辺りまで来ると、あばら家ばかりが目立った。その中に目当の魔法道具屋がある。

 マナが馬車を降りると、異様な出で立ちの店が視界に飛び込んできた。黒い看板に白い文字で魔道具ラサラと書いてある。小さな窓の向こうに、よく分からない道具が並んでいるのが見えた。シャルは意気揚々と、薄汚れた店のドアを開けて入っていく。マナの興味があったので、一緒に中に入った。

「いらっしゃい。おや、また来たのかい」
「やっぱり、魔法の箒が欲しくてさ」

 シャルに親し気に話しかける老婆は、黒いとんがり帽子をかぶって、如何にも魔女という風体であった。

「箒持ってないのかい?」
「あるんだけど、実家に置いてきちゃったんだよね」

 シャルはそう言うが、本当は妃候補の間は余計な魔法を使わないように、魔法の箒は母のメイルーダに取り上げられている。

 シャルが交渉している間、マナはメラメラと一緒に棚の品を一つずつ見ていた。水晶玉や何に使うのかよく分からない器具もあれば、瓶に入った薬や乾燥した薬草に何かの生物を丸焼きにした真っ黒い物体など異様な物もあった。

 店が狭いので、レクサスとユリカは外に待機していたのだが、乞食らしい子供が来て何か話していた。マナは店の窓からその様子を見ていると、通りを挟んだ奥の路地から子供が手を振っていた。見ていると、どうやらマナに向かって手招きしているようだった。それが気になって外に出ると、

「西通りのカールは、万引きの常習犯なんだぜ」
「だから、何で俺にそんな事を言うんだ」
「だって、兄ちゃん騎士だろ? 情報を教えたんだから、金くれよ」
「そんな事は警備隊に言え」

 乞食の少年がしつこく言い寄ってきて、ユリカとレクサスはそれに気を取られていた。マナは疑いもせずに、少年の手招きに応じて通りの向こう側に歩いていく。

「お姉ちゃん、こっちこっち」
「君、どうしたの?」

 マナが少年に近づいた時、路地奥の暗がりから手が伸びてきて、マナの腕を掴んで暗闇に引き込んだ。マナが何が起こったのか分らず混乱している間に、黒い外套の男が少女を肩に担いで走り出した。マナは驚きのあまり悲鳴をあげることも忘れ、メラメラは振り落とされないように黒い髪の毛を掴んでいた。身体が激しく揺さぶられ、頭を下に男の肩に腹部を押さえつけられて、息が詰まり、空気を切る音が耳に障る。

「痛い、止めて」

 マナが怖くなってか細い声を出す。

「おい、もっと丁寧にお運びしろ」
「ここで下りて頂こう」

 黒い外套の男が屈んでマナを静かに下ろした。マナが何をされるのか分らずに、戦々恐々としていると、外套をかぶった二人の人間がマナの前に跪いた。マナが訳が分からず呆然としていると、彼女の髪にぶら下がっていたメラメラが頭の上によじ登ってくる。

「申し訳ありませんでした、さぞ驚かれた事でしょう」
「我々は、あなたをお迎えに上がったのです」
「え? え? あの、えっと……」

 外套の二人は困惑するマナを、王に仕える臣下のように敬っていた。二人とも、その顔はフードに隠れて見えない。

「あなた様には我々の教祖となって頂き、導いてもらいたいのです」
「はい?」

 一人があまりに予想外な事を言うので、マナは気の抜けた声を出してまう。メラメラにもその気持ちが伝わって首を傾げていた。

「お前たち、何をしているのか分かっているのか?」

 その声はマナの背後から聞こえてきた。そして、レクサスが鞘に入った剣を肩に担いでマナの前に出てくる。

「待って下さい、わたし達に戦う意思はありません」
「このお方とどうしてもお話をしたかったのです、乱暴はしておりません」

 外套の二人が口々に言うと、レクサスはマナの無事を確認してから、未だに跪いている二人を見下ろして言った。

「もしこの方に何かあったら、只では済まさんところだ。今日は見逃してやるが、またこんな真似をしたら牢屋にぶち込むぞ」

 外套の二人はあっさり引いて、路地裏の闇に消えていった。本当にマナと話がしたかっただけのようだ。



 マナが無事に戻ると、ユリカが涙ながらに謝ってきた。

「申し訳ありません、わたしが付いていながら、こんな事になるなんて」
「大丈夫だよ、そんなに悪い人たちじゃなかったし」

「ごめんね、わたしがこんな所に来たいって言ったからさ」

 シャルが箒を片手に言った。マナは重ねて大丈夫だと言いながら、先ほどの二人組が何者なのか気になっていた。

「どうやら、さっきの子供と外套の二人組はグルだったようだ。マナ様を攫うために、子供を使って俺たちの注意を引きつけていたんだ」

 レクサスが言った。もちろん、マナに手招きした子供も共犯である。

「こんな場所からは、すぐにおさらばしましょうぜ」




 馬車の中でマナが先程の奇妙な二人組の話をすると、ユリカがしばらく考え込んで言った。

「その二人組は、マナ様を教祖と言ったのですね?」
「うん、全然意味がわからないよ」
「それは恐らく、アストラル・テグマの信者です」
「え? アストラル、なに?」

「テグマだよ」
 シャルが言葉を差し込んで、更に彼女は言った。


「テグマっていうのは人の名前らしいよ。別名を異界神教って言ってね、昔召喚された異世界の人間が創った宗教なんだ。教会の影に怯えながら細々とやってるみたいだね」

 それを聞いたマナは強い違和感を覚える。

「教会に怯えるってどういう事?」

「エリアノ教会は他宗教や異端者には厳しいんだよ。教会の圧力があって、アストラルテグマは正式には認められていないんだ。それにしても、マナも妙な奴らに狙われるね」

「何を言っているのですか、それはシャル様の責任でもあるのですよ」
「え? 何でわたしの責任?」

 ユリカからいきなり責任を問われて、シャルは素っ頓狂に答える。

「彼らはマナ様が異世界から来た事を知っているのです。つまり信者の誰かがマナ様が異世界人と思しき姿を見たのでしょう、その原因を作ったのはシャル様です」

「あっ、そっか! わたしがマナを町に召喚しちゃったからだ!」
「そういう事です」

「うう、ごめんよマナ」
「いいんだよ、そんなに気にしないで」
「気にするな~、シャル~」

 マナの頭の上にいるメラメラが、シャルの頭をなでて慰めると、みんなが笑って重たくなった空気が霧散した。

 この日は妙な事も起こったが、マナが異世界に来てから心から楽しいと思える一日になった
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