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第二章 聖メディアーノ学園編
36 お勉強をしましょう
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学園の掲示板の前に生徒が集まっていた。学園が始まって最初に行われたテストの順位が発表されたのだ。上位十人までは掲示板に名を刻まれる。主席はアルカード、次席はアルメリア、三番目はティア姫で、四番手にゼノビアが続いていた。
シャルと一緒に掲示板を見ていたマナから大きなため息が出る。分かってはいたが、自分と他の妃候補との格差に愕然とするしかなかった。
「はうぅ」
「そんなに気を落とす事ないって、まだ始まったばかりだよ」
シャルが陽気に言ってマナの肩を叩き、ところでと痛い質問を浴びせてくる。
「マナは何番だったの?」
「えっと……128番だよ……」
「大丈夫! わたしなんて130番だよ!」
マナには何が大丈夫なのかよく分からなかった。マナのテストの点数は全教科平均以下で、順位は下から数えた方が早いのだ。
「シャルは魔術と錬金と薬学が満点だったじゃない」
「その他が壊滅的だけどね」
「わたしの方が少し順位が上でも、すごく負けてる気がするよ」
「それこそ気のせいだよ」
得意教科以外の点数など意にも介していないシャルとは逆に、マナは自分が情けなくて涙が出そうだった。
「ううっ、シャル、勉強教えてよ」
「いやいや、わたしにそれを言うのは間違ってるぞ、他の妃候補に頼みなよ」
他というと、マナが頼めそうなのはティア姫かゼノビアだ。アルカードに教えを乞う事も頭を過ったが、マナには王太子にお願いするような神経の太さはない。向が気づいて話を振ってくれるかも、という都合の良い幻想を少しばかり抱いたりもしたが、当のアルカードは掲示板の前でアルメリアと言葉を交わしていた。
「殿下、お見事でございます」
「腑に落ちないな」
アルカードは憮然としてアルメリアを見下ろしていた。彼はアルメリアとは幼馴染なので、その実力を良く知っている。
「君がその気になれば主席になれたはずだ、僕に気を使って手を抜いたな」
「それは買い被りすぎでございますわ」
落ち着いて言葉を返すアルメリアの態度がにくい。マナはその姿を目の当たりにして、どうしてこんな人と競っているんだろうと気分が迷走してしまう。
「僕の事は気にしなくてもいい、君は君のやるべき事をするんだ」
「お言葉ですが、わたくしのやるべき事は主席になる事ではありません」
言葉をなくすアルカードに、アルメリアは一礼して去っていった。
一部始終を見ていたシャルが両手を頭の後ろに置いて言った。
「殿下ったら、あんなこと言わなくてもいいのに。王太子をさしおいて主席になりましたーなんて、お家の人は喜ばないどころか青ざめちゃうよ」
「そういうものなの?」
「そういうもんさ」
「王侯貴族って、何だか難しいね」
「マナだって、もし王妃になったら王侯貴族の仲間入りだからね」
マナはそれを聞くと、アルカードとの結婚を想像してしまい顔が熱くなった。
この日の歴史の授業は神薬革命について触れた。マナがずっと気になっていた事だったので、先生の話を聞き逃さぬように集中する。
「神薬革命、この呼び名は誰もが知るところでしょう。今よりわずか十八年前に起こった革命です、その主役となるのが言わずと知れた現王妃、シェルリ・ミク・ロディスです」
それを聞いたマナは大いに驚き、同時にアルカードがゼノビアに怒った理由が何となく分った気がした。
神薬革命の中心となった人物は数人いて、その中の一人が当時十四歳のシェルリであった。簡単に説明すると、一人の少女が恐ろしい流行り病に立ち向かった物語である。少女シェルリは数々の苦難を乗り越えて病の特効薬を作り、荒廃したロディスの人々を救う。その後は多くの薬師達の努力によって恐ろしい病は駆逐され、現在のロディス王国に至る。
マナは先生の講義を聞いて、ロディス建国の物語によく似ているなと思う。革命と言うにはずいぶんあっさりした話だ。ロディスは薬師の国なので病と戦う事も革命と言うのだろうか。
♢♢♢
授業が終わり、マナは部屋に戻って普段着のドレスに着替えると、机の前に座って予習復習をしようと教科書を置く。そこで動きが止まった。今までマナなりには勉強してみたが、それでは駄目たという事がテストの結果ではっきりした。
勉強を教えてもらうなら、どちらが良いか。ゼノビアはそんなに話した事はないが、シャルと共にマナと一緒にいる事が多い。ティア姫はマナの事を気に入っていて、度々、お茶やディナーに誘ってくれる。しかし、マナはそのほとんどを断っていた。ティア姫には悪いと思っているが、彼女があまりにも眩しすぎて、一緒にいると自分という存在が惨めで辛いのだ。
マナは机に出した教科書をバッグに入れて立ち上がった。
「ユリカ、ちょっとゼノビア様のところに行ってきます」
「どのような御用向きで?」
「えっと、勉強を、その何というか……」
マナの言葉はまったくはっきりしないが、ユリカにはすぐに理解できた。
「わかりました、ご夕食には一旦お戻り下さい」
「うん、ちょっと行ってきます」
マナが部屋から出ていくときに、メラメラが飛んできて頭の上に乗った。廊下に出ると、いつも護衛に立っていたレクサスの姿がない。戦争が起こったがために、護衛の任を解かれたのだ。
マナは緊張した。断られたらどうしようとか、色々な事を考えてしまう。そんな気持ちを抑えようと深呼吸する。ゼノビアの部屋は隣のティア姫の部屋を挟んだ向こう側だ。
マナが緊張しながら一歩踏み出すと、隣の部屋のドアが急に開いて驚かされる。出てきたティア姫が廊下の窓から夜空を見上げた。
「ナスターシャ、今夜は星がとても綺麗よ」
「姫様、廊下になど出なくとも、お部屋の窓から星は見えます」
「こっちの方が綺麗に見えるのよ」
マナは急に現れたティア姫に少し見とれてしまった。ふんわりとしたピンク色のオーガンジーのドレスが姫に良く似合っていた。
「あら?」
ティア姫がマナの姿に気付いたその瞬間、目の色が変わった。
「まあ! マナ様にメラメラちゃんまで!」
女神の如き姫がずいと近づいて、マナは無意識に身を引いていた。
「可愛らしいですわ、お二人が一緒の姿は神様だって見惚れてしまうに違いありません」
「そ、そんな」
「こんな夜更けにどうしまして?」
「姫様、夜更けというにはまだ早すぎます」
ナスターシャが冷静に突っ込みを入れる。姫は微笑を浮かべてマナを見つめていた。
「あ、あの、ちょっとテストの成績があれで……」
「テストの成績が良くなかったのですか?」
「は、はい、それで勉強を教わりたくって」
「まあ、そうでしたの! それは素晴らしい事ですわ! では共に勉学に励み、わたしとマナ様で主席と次席を取りましょう、そうしましょう!」
「え? ちょ、ちがうの」
マナの蚊の鳴くような声は姫には届かず、手を掴まれて思いの外力強く部屋に引っ張り込まれてしまった。結局、マナは断る事も出来ず、ティア姫に勉強を教わる事になってしまった。
シャルと一緒に掲示板を見ていたマナから大きなため息が出る。分かってはいたが、自分と他の妃候補との格差に愕然とするしかなかった。
「はうぅ」
「そんなに気を落とす事ないって、まだ始まったばかりだよ」
シャルが陽気に言ってマナの肩を叩き、ところでと痛い質問を浴びせてくる。
「マナは何番だったの?」
「えっと……128番だよ……」
「大丈夫! わたしなんて130番だよ!」
マナには何が大丈夫なのかよく分からなかった。マナのテストの点数は全教科平均以下で、順位は下から数えた方が早いのだ。
「シャルは魔術と錬金と薬学が満点だったじゃない」
「その他が壊滅的だけどね」
「わたしの方が少し順位が上でも、すごく負けてる気がするよ」
「それこそ気のせいだよ」
得意教科以外の点数など意にも介していないシャルとは逆に、マナは自分が情けなくて涙が出そうだった。
「ううっ、シャル、勉強教えてよ」
「いやいや、わたしにそれを言うのは間違ってるぞ、他の妃候補に頼みなよ」
他というと、マナが頼めそうなのはティア姫かゼノビアだ。アルカードに教えを乞う事も頭を過ったが、マナには王太子にお願いするような神経の太さはない。向が気づいて話を振ってくれるかも、という都合の良い幻想を少しばかり抱いたりもしたが、当のアルカードは掲示板の前でアルメリアと言葉を交わしていた。
「殿下、お見事でございます」
「腑に落ちないな」
アルカードは憮然としてアルメリアを見下ろしていた。彼はアルメリアとは幼馴染なので、その実力を良く知っている。
「君がその気になれば主席になれたはずだ、僕に気を使って手を抜いたな」
「それは買い被りすぎでございますわ」
落ち着いて言葉を返すアルメリアの態度がにくい。マナはその姿を目の当たりにして、どうしてこんな人と競っているんだろうと気分が迷走してしまう。
「僕の事は気にしなくてもいい、君は君のやるべき事をするんだ」
「お言葉ですが、わたくしのやるべき事は主席になる事ではありません」
言葉をなくすアルカードに、アルメリアは一礼して去っていった。
一部始終を見ていたシャルが両手を頭の後ろに置いて言った。
「殿下ったら、あんなこと言わなくてもいいのに。王太子をさしおいて主席になりましたーなんて、お家の人は喜ばないどころか青ざめちゃうよ」
「そういうものなの?」
「そういうもんさ」
「王侯貴族って、何だか難しいね」
「マナだって、もし王妃になったら王侯貴族の仲間入りだからね」
マナはそれを聞くと、アルカードとの結婚を想像してしまい顔が熱くなった。
この日の歴史の授業は神薬革命について触れた。マナがずっと気になっていた事だったので、先生の話を聞き逃さぬように集中する。
「神薬革命、この呼び名は誰もが知るところでしょう。今よりわずか十八年前に起こった革命です、その主役となるのが言わずと知れた現王妃、シェルリ・ミク・ロディスです」
それを聞いたマナは大いに驚き、同時にアルカードがゼノビアに怒った理由が何となく分った気がした。
神薬革命の中心となった人物は数人いて、その中の一人が当時十四歳のシェルリであった。簡単に説明すると、一人の少女が恐ろしい流行り病に立ち向かった物語である。少女シェルリは数々の苦難を乗り越えて病の特効薬を作り、荒廃したロディスの人々を救う。その後は多くの薬師達の努力によって恐ろしい病は駆逐され、現在のロディス王国に至る。
マナは先生の講義を聞いて、ロディス建国の物語によく似ているなと思う。革命と言うにはずいぶんあっさりした話だ。ロディスは薬師の国なので病と戦う事も革命と言うのだろうか。
♢♢♢
授業が終わり、マナは部屋に戻って普段着のドレスに着替えると、机の前に座って予習復習をしようと教科書を置く。そこで動きが止まった。今までマナなりには勉強してみたが、それでは駄目たという事がテストの結果ではっきりした。
勉強を教えてもらうなら、どちらが良いか。ゼノビアはそんなに話した事はないが、シャルと共にマナと一緒にいる事が多い。ティア姫はマナの事を気に入っていて、度々、お茶やディナーに誘ってくれる。しかし、マナはそのほとんどを断っていた。ティア姫には悪いと思っているが、彼女があまりにも眩しすぎて、一緒にいると自分という存在が惨めで辛いのだ。
マナは机に出した教科書をバッグに入れて立ち上がった。
「ユリカ、ちょっとゼノビア様のところに行ってきます」
「どのような御用向きで?」
「えっと、勉強を、その何というか……」
マナの言葉はまったくはっきりしないが、ユリカにはすぐに理解できた。
「わかりました、ご夕食には一旦お戻り下さい」
「うん、ちょっと行ってきます」
マナが部屋から出ていくときに、メラメラが飛んできて頭の上に乗った。廊下に出ると、いつも護衛に立っていたレクサスの姿がない。戦争が起こったがために、護衛の任を解かれたのだ。
マナは緊張した。断られたらどうしようとか、色々な事を考えてしまう。そんな気持ちを抑えようと深呼吸する。ゼノビアの部屋は隣のティア姫の部屋を挟んだ向こう側だ。
マナが緊張しながら一歩踏み出すと、隣の部屋のドアが急に開いて驚かされる。出てきたティア姫が廊下の窓から夜空を見上げた。
「ナスターシャ、今夜は星がとても綺麗よ」
「姫様、廊下になど出なくとも、お部屋の窓から星は見えます」
「こっちの方が綺麗に見えるのよ」
マナは急に現れたティア姫に少し見とれてしまった。ふんわりとしたピンク色のオーガンジーのドレスが姫に良く似合っていた。
「あら?」
ティア姫がマナの姿に気付いたその瞬間、目の色が変わった。
「まあ! マナ様にメラメラちゃんまで!」
女神の如き姫がずいと近づいて、マナは無意識に身を引いていた。
「可愛らしいですわ、お二人が一緒の姿は神様だって見惚れてしまうに違いありません」
「そ、そんな」
「こんな夜更けにどうしまして?」
「姫様、夜更けというにはまだ早すぎます」
ナスターシャが冷静に突っ込みを入れる。姫は微笑を浮かべてマナを見つめていた。
「あ、あの、ちょっとテストの成績があれで……」
「テストの成績が良くなかったのですか?」
「は、はい、それで勉強を教わりたくって」
「まあ、そうでしたの! それは素晴らしい事ですわ! では共に勉学に励み、わたしとマナ様で主席と次席を取りましょう、そうしましょう!」
「え? ちょ、ちがうの」
マナの蚊の鳴くような声は姫には届かず、手を掴まれて思いの外力強く部屋に引っ張り込まれてしまった。結局、マナは断る事も出来ず、ティア姫に勉強を教わる事になってしまった。
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