異世界召喚されていきなり妃候補とか言われたけど、他の妃候補がチートすぎてもう辞めたいです+妖精(おまけ)付き

蘇芳

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第二章 聖メディアーノ学園編

39 世代の贖罪

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 城へと続く丘陵の道をアルメリアの馬車を先頭隊列を組んだ騎士たちが行く、列の最後尾には荷馬車があり、荷台に両腕を縛られた痩せた男が乗っていた。その表情は虚ろ、身なりは良かった。

 荷馬車の男は謁見の間にて王妃シェルリの前に引き出された。男が崩れるように両膝をつくと、ゼノビアを始めとした数人の騎士が跪き、最後にアルメリアがドレスのスカートを摘んで挨拶した。

「先にお伝えしたように、民衆に仇なす不届き者を捉えて参りました」
「よくやってくれました、頭を上げて下さい」

 シェリルの声で騎士たちが立ち上がり、ゼノビアが罪状を読み上げる。

「ロンダン領主ロインズ子爵は盗賊団から報酬を得る代わりに、周辺の村々への略奪を見て見ぬふりをしていました」

「ち、違う! わたしは何も知らない!」

 あくまでも白を切るロインズの前にアルメリアが書状の束を投げつけた。

「村人たちが王国に申請していた書状です、盗賊団に対して騎士団の出動を求めています。あなたから賄賂をもらっていた役人が全て握り潰していました」

「更にもう一つ罪状がございます」

 ゼノビアがさらにロインズに追い打ちをかけた。

「ロインズは領民に規定以上の税金を課し、余剰分を着服しています」
「知らない……知らない……知らない……」

 絶望の淵に沈んだロインズは、もはや同じ言葉を繰り返すだけの廃人と化す。

「どうしてこのような事を……ようやく神薬革命の傷跡が癒えてきたところだというのに」

 悲し気に目を閉じる王妃に、アルメリアが淡々と答える。

「簡単な事ですわ。騎士団を要請するにも盗賊を退治するにもお金と労力が必要です。盗賊を見逃してお金を貰った方が遥かに儲かりますもの」

「まさか、そんな理由で盗賊団を見逃して領民を苦しめていたというのですか? わたしにはとても理解できません……」

「ロンダン領が辺境で中央の目が届かなかった事もありますが、一番の原因は人間の欲望です。これは人間の持つ一つの本質なのです。そして、ロインズのような人間の方が多いと考える方が現実的ですわ」

 目の前にそういう男がいる以上、シェルリにアルメリアの言葉を否定する事はできなかった。

「……盗賊団による犠牲者が出ている以上、ロインズ子爵の爵位は取り上げるしかないでしょう、後の事は司法にお任せします」

「そんな、横暴だ! これは王権による蹂躙だ! わたしは無実だ!」

 臆面もなく訴えるロインズは、数人の騎士に連れ去られ、やがて彼の喚き声は聞こえなくなった。

「個人的に妃殿下とお話ししたいのですが、人払いしてもよろしいでしょうか?」
「わたしも久しぶりにあなたとお話ししたいわ」

 人払いと言っても、さすがに公爵令嬢と王妃の二人だけにする事はできないので、護衛として残った騎士は二人の話が聞こえないところまで下がった。

「妃殿下、顔色がよくないですわね」
「そ、そうですか?」

 シェルリが確かめるように自分の頬を触る。そうしながら王妃は体の中心に重く溜まった疲労を感じていた。

「失礼を承知で申し上げますが、妃殿下一人で政務をこなすのは無理があります、あなたは優しすぎるのです」

 シェルリは赤い絨毯を見つめながら、静かにアルメリアの声に耳を傾けていた。その表情はどこか満足気であった。

「政務には冷酷さも必要です。寛容さと冷酷さのバランスを取る事が重要なのです。妃殿下の性格ではいつか限界が来て倒れてしまわれるでしょう。どうかわたしをお使い下さい……信用して頂けるのならですが」

「アルメリア、ありがとう、とても心強いわ」
「わたしはやましい事は考えていません、ただ妃殿下のお手伝いがしたいだけなのです」
「わかっています」

 シェルリの優し気な瞳がアルメリアを見つめる。その瞬間、公爵令嬢は強く胸を打たれて感情が燃え上がった。

「違う、違うのです。わたしが本当に言いたいことは、そんな事ではありませんの。ただ、妃殿下に謝りたかったのです」

「まあ、そんな昔の事はもういいのですよ」
「違います、あの時の事ではありません」

 アルメリアがかぶりを振ってシェルリを驚かせる。

「妃殿下と約束をしたわたくしは、必死に勉強してあらゆる知識を身に付け、神薬革命の事も調べ尽くしました。そしてわたくしの祖父が王国を破壊し、陛下と妃殿下を深く苦しめた事を知ったのです」

「それをあなたが気に病む必要はないのよ」

「いいえ、わたくしは決して祖父ディオロスのした事を見過ごしはしません。孫であるわたくしにも果たすべき責任があると思っています。何よりも、妃殿下に返すべき恩があります」

 アルメリアの言葉が消え、広い謁見の間が穏やかな静寂に包まれた。シェルリは十年前のあの日のように、アルメリアの気持ちを真剣に受け止めなければいけないと思った。

「ディオロスに並ぶ血筋の者は連座で処刑されるはずでした。でも、妃殿下が声を上げてそれを止めてくれました。妃殿下がいなければ、わたくしはここに生きてはいなかったのです」

 途端にアルメリアの顔が嫌悪に歪んだ。

「それなのに、お父様とお母様はその恩を忘れて、わたくしを王妃にして権力を手にしようと企んでいます。妃殿下にはお詫びのしようもありません」

 アルメリアは潤んだ目でシェルリをまっすぐに見つめて言った。

「わたくしには王妃になる資格はありませんわ」

 シェルリは玉座から立ち上がってアルメリアを抱きしめていた。

「あなたには王妃になる資格が十分にあります、だからそんな悲しい事は言わないで」

 何者も寄せ付けず、全てにおいて完璧な公爵令嬢が、この時だけは一人のか弱い少女となって、王妃の懐で震えていた。
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