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第二章 聖メディアーノ学園編
42 昼下がりの陰謀
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庭園の木陰の芝生に天鵞絨の敷布がかけられ、侍女たちが主の為に昼食の準備を進めていた。
ティア姫を囲みながら少女たちがやってきて、マナはそのすぐ後ろから付いていく。既に準備が整っている天鵞絨の上に六人の少女達が円になって座った。その時、マナはティア姫の隣に招かれた。他の令嬢達は笑顔を張り付けながらも、心では憎々しく思っていた。
季節は夏になるが、マナが元いた世界と違って湿気が少なく肌に感じる風が爽やかだ。
「こんな風に外で食事をするなんて、少しわくわくしますわ」
ティア姫の言葉に令嬢たちが同意し、誉めそやすような言葉を繰り返す。その何の重みもないへり下った言葉を聞いていると、マナは彼女らと自分がまるで違う世界にいるように感じて居づらくなってくる。
「さあ、頂きましょう」
ティア姫が手を合わせて言った。天鵞絨の中心にはそれぞれの令嬢の侍女が用意したサンドイッチがバスケットに入って置いてあった。
「わたくし、マナ様のサンドイッチを頂こうかしら」
姫がユリカが作ったサンドイッチに手を伸ばすと、マナもそうした。他の令嬢達も思い思いに好きなものを手に取った。ついでにマナの膝の上にいたメラメラもユリカのサンドイッチを持って真っ先に食べだす。途端に可愛らしい顔をしかめた。
「うえぇ、じゃりじゃり! おいしくないよぅ!」
メラメラがぺっぺと吐き出す。マナと姫はサンドイッチに口を付ける寸前で止まった。
「一体何事です!」
「まさか、毒でも入っているのでは!?」
二人の令嬢のが騒ぎだすと、近くで他の侍女たちと共に待機していたユリカが素早く歩み寄って自分で作ったサンドイッチを食べた。それと同時にマナも口にする。肉親の如く信頼しているユリカの作ったものだ、間違いがあるはずはないと信じていた。
「こ、これは!?」
ユリカの表情が歪む。砂だ、マナもサンドイッチを食べて分った。そしてにここにいる姫以外の何者かの仕業だと確信できた。
騒然とする中、何とティア姫までサンドイッチを口に運んだ。
「いけません!」
ユリカが叫んだ時には姫は咀嚼を始めていた。その瞬間、令嬢達から悲鳴があがる。それは姫を心配するものではなく、何かに慄く様な真に迫るものがあった。
侍女のナスターシャがナプキンを差し出し、姫はそれに上品に口の中のものを捨てた。それを目の当たりにした一人の令嬢が、わなわなと震えて怒った。
「こんな物を姫に食べさせるなんて、万死に値しますわ!」
「申し訳ありません、全てわたしの落ち度です」
「なら、死んでお詫びをしなさい!」
彼女がユリカに異様な剣幕を浴びせると、マナが我慢出来なくなって叫んだ。
「止めて下さい! だったら、わたしも一緒に責任を取ります!」
瞬間的に静まり返って空気の温度が下がった。侍女と一緒に責任を取って死のうというのか、温室育ちの令嬢方にはとても理解できない思考だった。
凍ってしまった空気をティア姫が柏を一つ打って溶解させた。
「ナスターシャ、お茶が出ていませんよ」
「申し訳ありません、すぐに用意いたします」
「ユリカさんも一緒にお願いしますわ」
「畏まりました」
姫が笑顔になると緊張した空気が一気に緩んで、ほのぼのとした雰囲気さえ漂い始めた。
「わたくしの事ならご心配なく。それよりもナスターシャのサンドイッチを食べて下さい、彼女の作る料理は何もかも美味ですのよ」
メラメラは言われるまでもなく既に他のサンドイッチを食べていた。姫がそう言うのだからここで手打ちにするしかない。令嬢達の態度は妙にもどかし気だった。
ティア姫が助けてくれた、マナはそれを強く感じて深く感謝した。
一国の姫が、わざわざ砂入りのサンドイッチを食べてまでマナを助けてくれたのだ、その行為には人を包み込む愛と強い信念があった。
♢♢♢
その日の夕刻、学業を終えたティア姫が返ってくると、ナスターシャがお茶を出した後に畏まった態度で言った。
「今日の姫様の行いには感服いたしました」
「砂入りのサンドイッチとは思いませんでしたけれどね」
「あのご令嬢、中身も確かめずにこんな物と言っていましたね」
「本当に困った人たちだわ……」
ティア姫は悩まし気に溜息を吐いた。
「あの御令嬢方が侍女を使って嫌がらせをしたのに相違ありません」
「どうしてマナ様にあんな嫌がらせを……」
それを聞いたナスターシャは苦笑いしてしまう。
「それは姫様がマナ様を好いていらっしゃるからですわ」
「どうしてそれがいけないの? マナ様はわたくしの大切なお友達よ」
「マナ様は一国の姫の友情を一身に受けているのです、嫉妬が集まるのも無理からぬこと」
「学園では身分の上下は関係ないはずよ」
「そのようになってはいますが、俗人には割り切れないのでしょう。他の貴族達は平民のマナ様と姫様が一緒にいるのが気に入らないのです」
「それはとても恥ずべき事だわ」
強い嫌悪がティア姫の表情に陰を作る。それからテーブルを立つと、窓に触れて暮れ成す学園の裏庭を見つめながら姫は言った。
「わたしは身分などに関わらず全ての人を愛します。身分で人を判断する事は己の尊厳をも傷つけるのです、お父様のように」
ティア姫を囲みながら少女たちがやってきて、マナはそのすぐ後ろから付いていく。既に準備が整っている天鵞絨の上に六人の少女達が円になって座った。その時、マナはティア姫の隣に招かれた。他の令嬢達は笑顔を張り付けながらも、心では憎々しく思っていた。
季節は夏になるが、マナが元いた世界と違って湿気が少なく肌に感じる風が爽やかだ。
「こんな風に外で食事をするなんて、少しわくわくしますわ」
ティア姫の言葉に令嬢たちが同意し、誉めそやすような言葉を繰り返す。その何の重みもないへり下った言葉を聞いていると、マナは彼女らと自分がまるで違う世界にいるように感じて居づらくなってくる。
「さあ、頂きましょう」
ティア姫が手を合わせて言った。天鵞絨の中心にはそれぞれの令嬢の侍女が用意したサンドイッチがバスケットに入って置いてあった。
「わたくし、マナ様のサンドイッチを頂こうかしら」
姫がユリカが作ったサンドイッチに手を伸ばすと、マナもそうした。他の令嬢達も思い思いに好きなものを手に取った。ついでにマナの膝の上にいたメラメラもユリカのサンドイッチを持って真っ先に食べだす。途端に可愛らしい顔をしかめた。
「うえぇ、じゃりじゃり! おいしくないよぅ!」
メラメラがぺっぺと吐き出す。マナと姫はサンドイッチに口を付ける寸前で止まった。
「一体何事です!」
「まさか、毒でも入っているのでは!?」
二人の令嬢のが騒ぎだすと、近くで他の侍女たちと共に待機していたユリカが素早く歩み寄って自分で作ったサンドイッチを食べた。それと同時にマナも口にする。肉親の如く信頼しているユリカの作ったものだ、間違いがあるはずはないと信じていた。
「こ、これは!?」
ユリカの表情が歪む。砂だ、マナもサンドイッチを食べて分った。そしてにここにいる姫以外の何者かの仕業だと確信できた。
騒然とする中、何とティア姫までサンドイッチを口に運んだ。
「いけません!」
ユリカが叫んだ時には姫は咀嚼を始めていた。その瞬間、令嬢達から悲鳴があがる。それは姫を心配するものではなく、何かに慄く様な真に迫るものがあった。
侍女のナスターシャがナプキンを差し出し、姫はそれに上品に口の中のものを捨てた。それを目の当たりにした一人の令嬢が、わなわなと震えて怒った。
「こんな物を姫に食べさせるなんて、万死に値しますわ!」
「申し訳ありません、全てわたしの落ち度です」
「なら、死んでお詫びをしなさい!」
彼女がユリカに異様な剣幕を浴びせると、マナが我慢出来なくなって叫んだ。
「止めて下さい! だったら、わたしも一緒に責任を取ります!」
瞬間的に静まり返って空気の温度が下がった。侍女と一緒に責任を取って死のうというのか、温室育ちの令嬢方にはとても理解できない思考だった。
凍ってしまった空気をティア姫が柏を一つ打って溶解させた。
「ナスターシャ、お茶が出ていませんよ」
「申し訳ありません、すぐに用意いたします」
「ユリカさんも一緒にお願いしますわ」
「畏まりました」
姫が笑顔になると緊張した空気が一気に緩んで、ほのぼのとした雰囲気さえ漂い始めた。
「わたくしの事ならご心配なく。それよりもナスターシャのサンドイッチを食べて下さい、彼女の作る料理は何もかも美味ですのよ」
メラメラは言われるまでもなく既に他のサンドイッチを食べていた。姫がそう言うのだからここで手打ちにするしかない。令嬢達の態度は妙にもどかし気だった。
ティア姫が助けてくれた、マナはそれを強く感じて深く感謝した。
一国の姫が、わざわざ砂入りのサンドイッチを食べてまでマナを助けてくれたのだ、その行為には人を包み込む愛と強い信念があった。
♢♢♢
その日の夕刻、学業を終えたティア姫が返ってくると、ナスターシャがお茶を出した後に畏まった態度で言った。
「今日の姫様の行いには感服いたしました」
「砂入りのサンドイッチとは思いませんでしたけれどね」
「あのご令嬢、中身も確かめずにこんな物と言っていましたね」
「本当に困った人たちだわ……」
ティア姫は悩まし気に溜息を吐いた。
「あの御令嬢方が侍女を使って嫌がらせをしたのに相違ありません」
「どうしてマナ様にあんな嫌がらせを……」
それを聞いたナスターシャは苦笑いしてしまう。
「それは姫様がマナ様を好いていらっしゃるからですわ」
「どうしてそれがいけないの? マナ様はわたくしの大切なお友達よ」
「マナ様は一国の姫の友情を一身に受けているのです、嫉妬が集まるのも無理からぬこと」
「学園では身分の上下は関係ないはずよ」
「そのようになってはいますが、俗人には割り切れないのでしょう。他の貴族達は平民のマナ様と姫様が一緒にいるのが気に入らないのです」
「それはとても恥ずべき事だわ」
強い嫌悪がティア姫の表情に陰を作る。それからテーブルを立つと、窓に触れて暮れ成す学園の裏庭を見つめながら姫は言った。
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