異世界召喚されていきなり妃候補とか言われたけど、他の妃候補がチートすぎてもう辞めたいです+妖精(おまけ)付き

蘇芳

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第二章 聖メディアーノ学園編

45 宵闇の来訪者

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 マナは朝からメラメラを抱きしめて頬ずりしていた。

「ああ、メラメラは可愛いね~」
「あう~」

 マナが頬をこすりつけたり、頭や黒い翼をなでたり、いつも以上にべったりなのに、メラメラは少し鬱陶しそうだ。

「はぁ~、癒されるなぁ……」

 メラメラにはいつも癒されているが、今日はいつも以上に癒しが必要なマナであった。

♢♢♢

 翌日、学園は朝から騒然としていた。

 ある部屋の前に人だかりが出来て、マナとシャルも気になって見に来ていた。その惨状を目の当たりにしたシャルの顔は引きつっていた。

「あちゃぁ、忘れてた」

 お仕置き部屋の炭化した扉が、粉々になって散らばっていた。

「一体、誰がこんな事を!」

 現場を検証している教員の一人が憤慨していた。

「忘れてたって、どういう事?」
「何と言うか、これには深い訳があるのだよ」

 そのシャルの一言で、マナは何となく察した。その責任の一端は自分にもある。

「これ、シャルがやったんだね、すごいね」
「この状況で褒められてもね……」

 二人は囁くように話し合った。
 シャルは正直に言うべきか、誤魔化すべきか選択を迫られていた。

 ――正直に言うと昨日の事まで全部話さなきゃならない。それじゃあマナにも変なダメージを与えかねないし、マナを苛めた奴らも不憫な事になりそうだ。そう、ここは寛大にならなければいけないね!

 シャルは少し勝手な理由付けをして、このまま誤魔化すことにした。実のところは、無暗に魔法を使った事がばれて母親の大目玉は避けたかったのであった。

♢♢♢

 朝にちょっとした騒ぎはあったが、それからは平穏な日常が訪れた。その中でマナは、アルメリアの事を考えては悩んでいた。アルメリアはマナに対していつでも辛く当たるが、マナの事を思ってそうしている事がはっきりと分かったからだ。それ故に、アルメリアの今までの厳しい言葉の数々が真実となってマナを責め立てる。

 悩んだ末に、マナは一つの結論を出した。王妃様とよく相談をして、これから先の事を決めようと思う。場合によっては、学園を去る事になるかもしれないと覚悟までしていた。

♢♢♢

 マナが一日の授業を終えて帰ってきた時には、少し清々しい気持ちもあった。もし学園を辞めるとなれば、アルカードとの縁は完全に切れてしまう。それを考えると悲しい。同時に安心する気持ちもあった。規格外の妃候補のいる中で自分が選ばれる可能性などないと、心のどこかでは思っていたからだ。

 その日の夜、マナはどこか空虚にも思える安心と、大きな寂しさを抱えたままメラメラといっしょに就寝した。

♢♢♢ 

 風の強い夜だった。学園を吹き抜ける風が窓を震わせる。強風による空気の流れが、木々のざわめきが、一人の少女に声となって届いた。

「なんだ? 風の精霊が騒いでる……」

 魔女の少女には、外で吹く強風が何かを警告する声として聞こえていた。彼女は着の身着のままベッドから飛び出した。



 闇に包まれたマナの部屋の空気が揺らぐ。刹那的に起こった隙間風が、酷く細い悲鳴にような声をあげた。

 再び宵の寝室に静寂が訪れると、目を覚ましたメラメラがマナの身体を揺らした。

「あう~、マナぁ」
「……ん、なに? どうしたの?」
「むうぅ」

 メラメラの強い警戒心がマナに直に伝わってくる。同時に、メラメラの察知している気配をマナも同じように感じる事が出来た。

 ――誰かいる……。

 マナはメラメラを抱きながら、そっと起き上がってベットの傍らに立った。
 強風が暗い雲を押し流し、夜空に隠れていた月が現れる。淡い月夜の光が、水底のような闇に人の形を浮き上がらせた。

「ユリカ?」

 マナが何歩か前に出て闇に目を凝らすと、黒い人影の持つ何かが、月光を吸ってぎらついた。マナの全身に悪寒が走る。無意識に恐怖を感じていた。

 人影が音もなく接近する。マナは恐怖の中で立ち尽くしていた。瞬間、後ろから強い力で引かれてベッドに投げ出される。それとほとんど同時に、影の持っていた怪しく輝くものが弾き飛ばされた。

「妃候補と知っての狼藉か!!!」

 マナの知った女性の声で闇が震えた。影は別の獲物を抜いて斬りかかる。背後にマナを守る影の細剣が月夜に輝き、二つの刃が交わる。彼女はわずかな月明りを頼りに、卓越した剣技で幾人もの命を奪ってきた凶刃と相まみえていた。二つの刃がぶつかった瞬間にぱっと火花が散り、一瞬だけゼノビアと黒衣の男の姿がマナの目に映った。

「何事ですか!!?」

 物音に隣の部屋で寝ていたユリカが起き出した。

「なんて奴だ……」

 黒い影が舌打ちをして言うと、扉に体当たりするようにして廊下に出た。

「逃げるかっ!!」

 ゼノビアの声が廊下にまで響いた。途端に廊下のランプに一気に火が灯って明るくなり、黒衣の男は咄嗟に顔を隠す。

「誰だ、お前っ!!」

 階段上に現われたシャルが、タクトを黒衣に向けた。

「ウィンティア!!」

 風の刃を受けた男が吹っ飛んで向こうの壁に叩きつけられる。ひびの入った壁に寄りかかった彼は、真横の窓を突き破って蝙蝠のように黒衣を広げて闇夜に溶け込んでいった。

「マナ様、お怪我はありませんか!?」

 ユリカが明かりを点けて、呆然とベッドに上に座るマナの身体を良く良く調べていた。

「マナ~?」

 メラメラが見上げてくると、マナは金縛りから解かれたように体の力が抜けていく。
 
 ゼノビアは壁に突き刺さった短剣を引き抜いてよく確認する。

「マナ、大丈夫なの!?」
「大丈夫です、お怪我はありません」

 部屋に駆け込んできたシャルに、ユリカが落ち着いて言った。

「なにが、どうなって……」
「暗殺者です。あなたは命を狙われたのです」

 ゼノビアが端的に告げる。あまりにも衝撃的な事実を前に、マナは何も考えられなかった。

「ゼノビア様が助けてくれたのですね」
「ええ、不穏な気配を感じて来てみたのです」

 ユリカに事もなげに言うゼノビアに、シャルが苦笑いした。

「わたしも似たようなもんだけどさ、ゼノビアの察知スキルやばいね」
「伊達に鍛えてはいませんわ」

 凄まじい物音に、他の令嬢や侍女も起き出してきて、それからは騎士団まで呼ぶ騒ぎ
になった。命を狙われたマナは夜中に警護されたが、不安のあまり寝る事ができなかった。
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