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第三章 森の薬師編
49 厳しき母
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最後の馬車にフェアリーを抱く少女が向かう。護衛の騎士が数人付くが、目的の場所に着けば、彼女は市井の少女となる。
「マナ!」
後を追ってきた王太子が少女の手を掴んだ。希望を失った輝石のような瞳が彼を見つめる。
「行かないでくれ、僕は君の事が……」
「アルカード様、ありがとうございました」
あまりにも儚げな少女の姿に、アルカードは絶句した。
「王子様と共にいる時間は、本当に幸せでした」
アルカードには少女の手をつなぎ止めておく事ができなかった。そして少女を乗せた馬車が動き出し、桟橋を渡っていく。
「僕は、何も出来なかった! 守ると言ったのに、何も……!!」
アルカードは自身の不甲斐なさに自分を縊り殺したいような気持になって拳を震わせた。
城から町へ下る丘陵を馬車が走っていく。窓から顔を出していたメラメラが、森の向こうに立ち昇る黒いものを見つけて指をさした。
「マナ~、あれなぁに?」
マナもメラメラと一緒に顔を出して見ると、ずっとずっと遠くの方に、まるで暗雲が下から沸き上がるように黒いものが蠢いていた。
「あれは……煙り?」
ああ、そうだ、この国は戦争をしているのだった。
マナは唐突に思い出して、余計に気持ちが沈んだ。これからどこに連れていかれるのかも分からない。王妃は一番信頼のおける人にマナを預けると言っていた。もうマナは、全てがどうでも良くなっていた。ただ、どこか静かな場所で穏やかに暮らしたかった。でも、アルカードに対する気持ちは何も変わっていなかった。
♢♢♢
一人になりたかった王妃は、書斎の机に肘を付き両手で顔を覆っていた。手の隙間から度々ため息が漏れだす。マナにこれ以上ない災厄が降りかかり、その責任を強く感じていた。彼女にはそうならないように手を打つことが出来たはずなのだ。
王妃が誰も入らないようにと釘を刺しておいたにもかかわらず、書斎の扉を開ける者ががあった。それが出来るのは国王陛下以外には、あと一人しかしない。
シェルリが顔を上げると、目の前にアリアが立っていた。
「お母さん……」
「今日は母として、あなたに尋ねたい事があって来ました」
「はい……マナの事ですよね……」
アリアは頷くと、打ちひしがれた娘の姿を悲愴な目で見下ろしていた。
「どうしてこんな事態になったのか、分かっているの?」
「それは……全てわたしの責任です」
「そういう話ではありません、事態の本質を問うているのです」
アリアに厳しく問われたシェルリは、また両手で顔を覆って、さらに悲愴感を滲ませる姿になる。
「わたしが、格好をつけたからです。王妃としての体面なんて気にしなければ……」
シェルリの言葉が詰まると、アリアは黙する内に圧力をかけて次を促していた。
「わたしは他の妃候補と差別しないように、平等になるように、マナを学園に行かせました。でも本当は、異世界から妃候補としてわざわざ召喚したあの子を、学園に行かせずに別の道を歩ませる勇気がなかったのです。わたしの王妃としての見識を疑われることを恐れていました。別の道を歩ませるにしても、学園を卒業させれば王妃としての体面は保てると考えてしまったのです」
シェルリのすすり泣きが聞こえた。アリアは腕を組んで娘に言った。
「マナをどこに連れていったのですか?」
「ニイナさんのところに……」
「そうですか、あの人に預けるのなら安心ですね。きっと、マナは自分の道を見つけられるでしょう」
シェルリは平民出の王妃で、王族らしからぬ公平さを持ち合わせている。体面を気にする王侯貴族であれば、むしろ平民扱いのマナを表には出さなかったかもしれない。だからアリアは、打ちひしがれる娘に同情していた。
「あなたはマナに妃としての器があると、あなたと同じことが出来ると、心の底から思っていたの?」
とても落ち着いているが、その奥底には非常に厳しい思いのある言葉だった。
シェルリはしばらく懊悩した後、小刻みにかぶりを振った。
「マナ!」
後を追ってきた王太子が少女の手を掴んだ。希望を失った輝石のような瞳が彼を見つめる。
「行かないでくれ、僕は君の事が……」
「アルカード様、ありがとうございました」
あまりにも儚げな少女の姿に、アルカードは絶句した。
「王子様と共にいる時間は、本当に幸せでした」
アルカードには少女の手をつなぎ止めておく事ができなかった。そして少女を乗せた馬車が動き出し、桟橋を渡っていく。
「僕は、何も出来なかった! 守ると言ったのに、何も……!!」
アルカードは自身の不甲斐なさに自分を縊り殺したいような気持になって拳を震わせた。
城から町へ下る丘陵を馬車が走っていく。窓から顔を出していたメラメラが、森の向こうに立ち昇る黒いものを見つけて指をさした。
「マナ~、あれなぁに?」
マナもメラメラと一緒に顔を出して見ると、ずっとずっと遠くの方に、まるで暗雲が下から沸き上がるように黒いものが蠢いていた。
「あれは……煙り?」
ああ、そうだ、この国は戦争をしているのだった。
マナは唐突に思い出して、余計に気持ちが沈んだ。これからどこに連れていかれるのかも分からない。王妃は一番信頼のおける人にマナを預けると言っていた。もうマナは、全てがどうでも良くなっていた。ただ、どこか静かな場所で穏やかに暮らしたかった。でも、アルカードに対する気持ちは何も変わっていなかった。
♢♢♢
一人になりたかった王妃は、書斎の机に肘を付き両手で顔を覆っていた。手の隙間から度々ため息が漏れだす。マナにこれ以上ない災厄が降りかかり、その責任を強く感じていた。彼女にはそうならないように手を打つことが出来たはずなのだ。
王妃が誰も入らないようにと釘を刺しておいたにもかかわらず、書斎の扉を開ける者ががあった。それが出来るのは国王陛下以外には、あと一人しかしない。
シェルリが顔を上げると、目の前にアリアが立っていた。
「お母さん……」
「今日は母として、あなたに尋ねたい事があって来ました」
「はい……マナの事ですよね……」
アリアは頷くと、打ちひしがれた娘の姿を悲愴な目で見下ろしていた。
「どうしてこんな事態になったのか、分かっているの?」
「それは……全てわたしの責任です」
「そういう話ではありません、事態の本質を問うているのです」
アリアに厳しく問われたシェルリは、また両手で顔を覆って、さらに悲愴感を滲ませる姿になる。
「わたしが、格好をつけたからです。王妃としての体面なんて気にしなければ……」
シェルリの言葉が詰まると、アリアは黙する内に圧力をかけて次を促していた。
「わたしは他の妃候補と差別しないように、平等になるように、マナを学園に行かせました。でも本当は、異世界から妃候補としてわざわざ召喚したあの子を、学園に行かせずに別の道を歩ませる勇気がなかったのです。わたしの王妃としての見識を疑われることを恐れていました。別の道を歩ませるにしても、学園を卒業させれば王妃としての体面は保てると考えてしまったのです」
シェルリのすすり泣きが聞こえた。アリアは腕を組んで娘に言った。
「マナをどこに連れていったのですか?」
「ニイナさんのところに……」
「そうですか、あの人に預けるのなら安心ですね。きっと、マナは自分の道を見つけられるでしょう」
シェルリは平民出の王妃で、王族らしからぬ公平さを持ち合わせている。体面を気にする王侯貴族であれば、むしろ平民扱いのマナを表には出さなかったかもしれない。だからアリアは、打ちひしがれる娘に同情していた。
「あなたはマナに妃としての器があると、あなたと同じことが出来ると、心の底から思っていたの?」
とても落ち着いているが、その奥底には非常に厳しい思いのある言葉だった。
シェルリはしばらく懊悩した後、小刻みにかぶりを振った。
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