異世界召喚されていきなり妃候補とか言われたけど、他の妃候補がチートすぎてもう辞めたいです+妖精(おまけ)付き

蘇芳

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第三章 森の薬師編

62 愚王・憔悴

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「りやあぁーっ!」

 訓練場の空間が気合に震える。アルカードがレクサスに斬りかかり、剣と剣が弾ける。レクサスはその瞬間の打ち込みに、確かな力を感じていた。

 レクサスが剣を打ち返すと、押し返されたアルカードがたたらを踏んだ。

「っく、まだまだ!」
「いいですぞ王子! 短期間でここまでになるとは、陛下もさぞお喜びになるでしょう」
「父上は関係ない!」

 アルカードの宙を舞っての連撃をレクサスが受け止める。アルカードの気迫には凄まじいものがあった。父にやり込められたあの日から、死に物狂いで剣の稽古に励んでいる。彼の中にはいつでもマナの姿があった。

「だああぁーっ!」

 アルカードの打ち込みをレクサスが受け止めたこの時、王太子の身体から力が抜けて膝をついた。

「王子、いくら何でも無理をし過ぎですよ。少しは休んで下さい」
「休んでいる暇なんてない、もう一本頼む」

 休む気のないアルカードに、レクサスは不承不承ふしょうぶしょうに頷く。そして、再び訓練場が強い一声に震えた。

♢♢♢

 あの日からアリメドスは寝込んでしまっていた。来る日も来る日もうなされながら、娘の名前を呼んでいる。

 王妃エリーナには、そんな夫にかまっている暇はなかった。アリメドスの愚行により、ロディス国とメルビウス国の間に出来た亀裂を埋めなければならなかった。
 アリメドスはマナを大した後ろ盾もない平民の小娘と思っていたが、その影響はエリーナが思う以上に深刻だった。シェルリ王妃まで深く傷ついていたし、国王陛下も憤慨していた。戦争さえなければ、国王の方から殴り込んでいたところだった。

「メルビウスは、どのような責任でも負うつもりです。どうそ、何でもおっしゃって下さい」
「わたしにはそのような気持ちは……ただ、マナには幸せになってほしいと思うばかりなのです」

 シェルリ王妃のその言葉に、エリーナ王妃は何も返せなかった。シェルリはマナの事を自分の娘のように思って大切にしていた。そういう気持ちがよく分かって、エリーナは責任だの何だのという話を棚上げにして引き下がるしかなかった。

 ロディスから帰ってきたエリーナは、アリメドスの様子を見に来ると、ベッドの上に転がる落剝らくはくした肥満体を目の当たりに、ため息が出る。今までアリメドスの犯した様々な失策を乗り越えてきた彼女だったが、今回のは最悪だった。

「あああぁ、ティアぁ、戻ってきてくれぇ……」

 アリメドスはうなされながら目を開けると、エリーナを視界に入れて跳び起きた。

「おおお!? ティアぁ、帰ってきたのか!!」

 抱きついてくるアリメドスの顔面に、エリーナは平手を叩きつけて押し返した。

「何を寝ぼけているのですか! わたしはティアではありません!」
「お、お前だったのか……ティアはまだ見つからんのか?」
「見つからないどころか、ティアが何者かに襲われた痕跡があったそうです」

 エリーナは冷酷に嘘を言い放った。アリメドスが女のような悲鳴をあげてベッドの上にひっくり返ってしまう。エリーナはいい薬だと思う。

「うああぁ……なぜだぁ、どうしてこんな事にぃ……」

 全部お前のせいだ。エリーナはそう言ってやりたかったが、言ったところで分かりはしない。こんな事になっても、ティア姫に対して謝罪の言葉が一つも出てこないのには絶望する。アリメドスは自分が悪いなどと微塵も思っていないのだ。エリーナは、もうアリメドスが好き勝手できないように、厳しく対処しようと心に固く誓った。

 それから彼女は、謁見の間に入って王の代わりに玉座に落ち着く。すると、宰相が近づいてきて耳打ちした。

「王妃様、姫様の事でお耳に入れたい事がございます」
「何か分かったのですね」
「真実かどうかは疑わしいのですが、念のためにお伝えいたします」

 宰相の話によると、ティア姫らしき人が戦場にいるというのだ。宰相はその噂を信じていなかったが、王妃はそれが間違いなく娘だと確信した。当然、ティア姫には戦うような力はないので、居るのは後方の野営地だ。

「その噂は間違いないでしょう」
「そこまで言い切るとは、何か根拠でもおありなのですか?」

 宰相が驚きながら聞くと、

「自分の娘の事ですもの、それくらい分かりますよ」
「では、早急に使者を送って連れ戻しましょう」

「周りの者を巻き込んでまで戦場に行っているのです。あの子の意思は固いでしょう。並みの者では連れ戻す事はできません」

「使者を選定する必要があるという事ですか」

「わたしに心当たりがあります。この件は、わたしの方で何とかしましょう。あと、あの人にはティアが戻るまで何も伝えないように」

「仰せのままに」

 エリーナはティアの行方が分かった事を、アリメドスに報告する気はさらさらない。罰として十分に苦しんでもらおうという考えであった。
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