異世界召喚されていきなり妃候補とか言われたけど、他の妃候補がチートすぎてもう辞めたいです+妖精(おまけ)付き

蘇芳

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第三章 森の薬師編

81 処刑の瞬間

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 マナは顔を上げると、ニイナを見て寂しく笑った。ニイナには、ごめんなさいと謝る言葉が聞こえてくるようであった。

「メラメラがいつも近くにいてくれたから元気でいられました。可愛らしい姿を見るたびに癒されました。メラメラがいるから、一生懸命生きようって思う事ができました。メラメラは、わたしに付き従う者なんかじゃない。わたしをいつも支えてくれた、命よりも大切な家族です。エリアノだって言っています。フェアリーは人間と変わらない存在で、人間の家族だって。家族だから人間とフェアリーは一緒に幸せになれるんです。けれど、教会はエリアノの全てを否定しました。フェアリーを人間に都合のいい道具にしたかったからです。その為に、自分たちが女神と崇めていたエリアノの命まで奪いました。そして、フェアリーを兵器として戦争にまで利用したのです」

 マナは、目の前にいるアクスウェルをまっすぐに見つめた。少女に死に相対する恐怖など微塵もなかった。マナがこの世界で初めて見せた強さに、アクスウェルは思わずたじろいでいた。

「あなたたちは、嘘つきだ」

 マナの声が、人々の胸に突き刺さった。近くにいた村人達は、跪いて死の淵にいるマナに祈りを捧げた。それを止めなければならない神殿騎士団の者達は棒立ちになっていた。

「い、言いたいことはそれだけか! 分かっていたぞ! 転生者は教会には決して従わんのだ!」

 アクスウェルは青い顔になって震えていた。もう、一秒でも早く目の前にいる娘を消したかった。

「やれ! 首を刎ねろ!」

 大男が戦斧を振り上げる。この瞬間、マナは満足した気持ちになった。

 ――この世界に来てよかった。素晴らしいお友達がいて、わたしを心の底から心配してくれる人もいて、嬉しかった。こんなわたしでも、最後は村の人達の命を救う事が出来たよ、お母さん。

 ニイナが何か叫んだ。メラメラも鳥かごの中で泣きわめいていた。マナは死ぬことだけを考えていて何も聞き取れなかった。母親と同じ場所に行く事に安堵さえしていた。

 次の瞬間、凄まじい音が鳴って、マナは自分が死んだのだと思った。

「なっ、何が起こった!!?」

 アクスウェルの無様な叫び声を聞いてマナは目を開けた。その時、高く弾け飛んだ戦斧が地面に落ちる重音が響いた。

「ギリギリセーフ!」
「芸術的なタイミングでしたわ」

 馬上で、ゼノビアが言った。箒に乗って並走しているシャルは、魔法を放った格好のままにタクトを突き出している。
 ロディス王国騎士団が村になだれ込んでくる。それを率いる者は、マナが決して忘れられない人だった。

「アルカード様!」

 アルカードは相手が誰であろうと、マナを害する者は許せなかった。馬上で剣を抜き、馬を止めるのと同時に跳躍し、アクスウェルに肉薄した。

「つあぁーっ!!」

 閃光のように速い剣の軌道が銀の光の線となり、アクスウェルの持っていたペンダントのチェーンを絶った。落ちたキャッツアイアが跳ねてマナの目の前に転がる。アクスウェルはたまらず後ろに下がっていた。

 マナは、以前のアルカードにはない勇ましさに驚きつつも、強い恋慕に胸を焦がしていた。

 アルカードは剣の一振りでマナの縄を解くと、キャッツアイを拾ってマナの手に握らせる。
そして、マナの見ている景色がいきなり上を向くのと一緒に浮遊感があって、その瞬間に何が起こっているのか、マナには全然分からなかった。

 マナがキャッツアイを手にしてメラメラに力が戻り、鳥籠の格子を粉々にして飛び出した。そして、マナとアルカードの前に飛んでくると宙に立って守護した。アクスウェルは脂汗を滲ませて杖を構えた。

「これはどういう事か!」

 アルカードが怒りを爆発させた。その時になって、マナはようやく思い人にお姫様抱っこされている事に気付いた。あまりの出来事に、今までの恐怖体験は吹き飛んで、とにかく恥ずかしくなって燃え上るように顔と体が熱くなる。

「我が名は、アルカード・ミク・ロディス! ロディス国の王太子である! 村を燃やすとは、いくら神殿騎士団とは言え、許されざる暴挙だ!」

「村人共が、その異端の娘にくみするので燃やしたまで」
「マナが異端だって?」

 王太子と異端審問官が言葉でやりあい、対峙する王国騎士団と神殿騎士団の間には緊張が高まる。

「その娘は今すぐに処刑する。渡してもらおう」
「それは出来ない! マナは僕の妃になるべき人だからだ!」

 アルカードが声を上げた瞬間に、様々な種の驚きが錯綜した。マナはというと、死の淵にいた事など完全に忘れて、痛いほどに胸が焼かれ、何も考えられなくなっていた。

「正気か!? その娘はエリアノ教会が異端者と認めているのだぞ! ロディスごとき小国が、教会を敵に回すか!」
「あなた方は村を燃やした賊でしかない。すぐにお引き取り願おう」

 王国騎士団の先頭にいるゼノビアが、アクスウェルに向かって叫んだ。

「引かねば王国の剣が貴様らを討つ!!」

 ゼノビアが剣を抜くと、他の騎士達がそれに倣う。アクスウェルは王太子の強硬な姿勢に狼狽していた。

「愚かな! 教会がその気になれば、こんな小国など消し飛ぶぞ!」

 アクスウェルは、その台詞を捨てて背を向けると、何かのサインを送った。間もなく神殿騎士団が動き出し、村から撤退していく。

 アルカードはマナを抱えたまま、神殿騎士団の姿が消えるまで見続けていた。マナは、余りに現実味のない状況に、夢でも見ているんじゃないかと疑ってしまった。
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