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第三章 森の薬師編
84 優しき令嬢
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自分の部屋に駆け込んだマナは、ベッドの上で膝を抱えていた。メラメラは隣にくっついて、同じように座っていた。
最初にやってきたシャルがベッドに登って、メラメラとは反対側の隣に座ると言った。
「何でさ、自分の事が嫌いなの? 何か原因とかあるんでしょ?」
今のマナには中々辛い言葉だが、ストレートに言う所がシャルらしい。マナは嗚咽を漏らしながら黙っていた。その間にティア姫が来て、それからしばらく後にはアルメリアが姿を見せる。それまでマナは、一言もものを言わなかった。シャルは辛抱強く、マナの声を待っていた。
「……わたしは、何をやっても駄目だから…………」
その聞こえるか聞こえないかの声に、少女達は真摯に耳を傾ける。
「ずっと昔から、そう……何をやっても失敗ばかり、どうしてそうなるのか……自分でも分らないの……」
エリートの道を歩んできた三人の少女達には、マナの苦しみは理解できない。マナの途切れ途切れな言葉の中には、今まで受けてきた迫害や苦しみの連鎖が強く感じられて、ただの慰めの言葉など、とても口にはできなかった。
どうしたらマナの苦しみを受け止められるのか三者三様に考えを巡らせ始める。
寂寞とした静寂が続いた後に、急にマナが泣きはらした顔を上げて言った。
「わたしは自分という人間が大嫌いです! どうやったら、こんな自分を好きになれるんですか!?」
それはマナが今まで誰にも打ち明ける事が出来なかった悩みであった。それに対する正しい答えなど誰にも分からない。それが3人の少女達が即座に出した結論だった。
「そんな悲しい事言うなよ! その気持ちはどうにもならないのかもしれないけどさ、わたしはマナの事が好きだよ! 大好きな友達が、自分が嫌いだなんて言ったら悲しいよ!」
シャルは、ただ自分の思う事を思う通りに叫んで、マナの固く閉ざされていた心を強く叩いた。
すっとティア姫が近づいてきて、マナを強く抱きしめる。
「ふえぇ!?」
ティア姫の急な行動に驚いたマナが変な声を上げてしまう。姫の肢体のふくよかな感触が母に抱かれているようで、マナは心が少し穏やかになった。
「わたくしもマナ様の事が好きです。だって、とっても可愛らしいのですもの。そのお顔も、舌足らずなところも、失敗して慌ててしまうところも、何もかも可愛いのですわ」
ティア姫はマナから離れると、女神のように笑って言った。
「マナ様は、もっと自分を好きになっていいのですわ」
「ティア様……」
ティア姫の掛値のない言葉に、マナは目頭が熱くなった。
「まったく、貴方は失礼な人ですね」
「え?」
アルメリアの言葉がマナの虚を突く。
「ここにいる面々を見なさい、何が不満だと言うのですか」
「あの、その……」
「天才魔女、一国の姫君、そして公爵令嬢である、このわたくし。これだけの友人を持っていながら、自分が嫌いだなどと」
アルメリアは自分の胸に手を置くと高飛車に言った。
「わたくしは人を見る目を持っています。友人だって選んでいるつもりです。マナ・シーリングは、わたくしの友人として足る人物だと思っています。このわたくしが認めているのですよ、もっと自分に埃を持ちなさい」
今までマナの悩みを真剣に受け止めてくれる友人など一人もいなかった。どんな言葉にせよ、三人の声はマナの胸に深く響いた。マナは先ほどの辛さとは全く違う感情が溢れて、また涙が零れ落ちた。
「みなさん、ありがとうございます……こんなわたしの為に……」
「こんなわたし、という言い方はお止めなさい。自分に誇りを持つようにと言ったはずです」
「はい、ごめんなさい」
マナの声は掠れていたが、アルメリアを見上げる顔は晴れやかだった。
「メラメラは、マナの事が好きだよ! ずっとずっと好きだよ! だから、嫌いじゃだめなの」
そうだ、自分にはこの小さな家族がいる、この子の為にも変わらなければ。マナは強くそう思う。
♢♢♢
マナがメラメラを抱いてシェルリ王妃の前に来た。泣きはらしてはいたが、先程とは違って晴れた表情になっていた。
アルカードはシェルリ王妃の傍らで、令嬢方はマナの後方にいて見守っていた。
「もう一度、同じ質問をしますね。貴方は自分自身を愛していますか?」
「わたしは……」
マナは時間をかけて考えてから一つずつ言った。
「わたしは、自分自身が嫌いでした。けれど、この世界に来て、素晴らしいお友達がたくさんできて、家族と呼べる人にも出会って」
それからマナはアルカードを見つめると、顔を真っ赤にして言った。
「ずっと憧れていた王子様にまで見染めてもらえて……こんな自分が、少しだけ好きになりました」
マナが今の自分の気持ちを正直に告げると、王妃は大きく頷いた。
「今はそれでいいです。いつかきっと、心の底から自分自身が好きだと思える日が来るでしょう」
そしてシェルリ王妃は、祝福するように微笑んだ。
最初にやってきたシャルがベッドに登って、メラメラとは反対側の隣に座ると言った。
「何でさ、自分の事が嫌いなの? 何か原因とかあるんでしょ?」
今のマナには中々辛い言葉だが、ストレートに言う所がシャルらしい。マナは嗚咽を漏らしながら黙っていた。その間にティア姫が来て、それからしばらく後にはアルメリアが姿を見せる。それまでマナは、一言もものを言わなかった。シャルは辛抱強く、マナの声を待っていた。
「……わたしは、何をやっても駄目だから…………」
その聞こえるか聞こえないかの声に、少女達は真摯に耳を傾ける。
「ずっと昔から、そう……何をやっても失敗ばかり、どうしてそうなるのか……自分でも分らないの……」
エリートの道を歩んできた三人の少女達には、マナの苦しみは理解できない。マナの途切れ途切れな言葉の中には、今まで受けてきた迫害や苦しみの連鎖が強く感じられて、ただの慰めの言葉など、とても口にはできなかった。
どうしたらマナの苦しみを受け止められるのか三者三様に考えを巡らせ始める。
寂寞とした静寂が続いた後に、急にマナが泣きはらした顔を上げて言った。
「わたしは自分という人間が大嫌いです! どうやったら、こんな自分を好きになれるんですか!?」
それはマナが今まで誰にも打ち明ける事が出来なかった悩みであった。それに対する正しい答えなど誰にも分からない。それが3人の少女達が即座に出した結論だった。
「そんな悲しい事言うなよ! その気持ちはどうにもならないのかもしれないけどさ、わたしはマナの事が好きだよ! 大好きな友達が、自分が嫌いだなんて言ったら悲しいよ!」
シャルは、ただ自分の思う事を思う通りに叫んで、マナの固く閉ざされていた心を強く叩いた。
すっとティア姫が近づいてきて、マナを強く抱きしめる。
「ふえぇ!?」
ティア姫の急な行動に驚いたマナが変な声を上げてしまう。姫の肢体のふくよかな感触が母に抱かれているようで、マナは心が少し穏やかになった。
「わたくしもマナ様の事が好きです。だって、とっても可愛らしいのですもの。そのお顔も、舌足らずなところも、失敗して慌ててしまうところも、何もかも可愛いのですわ」
ティア姫はマナから離れると、女神のように笑って言った。
「マナ様は、もっと自分を好きになっていいのですわ」
「ティア様……」
ティア姫の掛値のない言葉に、マナは目頭が熱くなった。
「まったく、貴方は失礼な人ですね」
「え?」
アルメリアの言葉がマナの虚を突く。
「ここにいる面々を見なさい、何が不満だと言うのですか」
「あの、その……」
「天才魔女、一国の姫君、そして公爵令嬢である、このわたくし。これだけの友人を持っていながら、自分が嫌いだなどと」
アルメリアは自分の胸に手を置くと高飛車に言った。
「わたくしは人を見る目を持っています。友人だって選んでいるつもりです。マナ・シーリングは、わたくしの友人として足る人物だと思っています。このわたくしが認めているのですよ、もっと自分に埃を持ちなさい」
今までマナの悩みを真剣に受け止めてくれる友人など一人もいなかった。どんな言葉にせよ、三人の声はマナの胸に深く響いた。マナは先ほどの辛さとは全く違う感情が溢れて、また涙が零れ落ちた。
「みなさん、ありがとうございます……こんなわたしの為に……」
「こんなわたし、という言い方はお止めなさい。自分に誇りを持つようにと言ったはずです」
「はい、ごめんなさい」
マナの声は掠れていたが、アルメリアを見上げる顔は晴れやかだった。
「メラメラは、マナの事が好きだよ! ずっとずっと好きだよ! だから、嫌いじゃだめなの」
そうだ、自分にはこの小さな家族がいる、この子の為にも変わらなければ。マナは強くそう思う。
♢♢♢
マナがメラメラを抱いてシェルリ王妃の前に来た。泣きはらしてはいたが、先程とは違って晴れた表情になっていた。
アルカードはシェルリ王妃の傍らで、令嬢方はマナの後方にいて見守っていた。
「もう一度、同じ質問をしますね。貴方は自分自身を愛していますか?」
「わたしは……」
マナは時間をかけて考えてから一つずつ言った。
「わたしは、自分自身が嫌いでした。けれど、この世界に来て、素晴らしいお友達がたくさんできて、家族と呼べる人にも出会って」
それからマナはアルカードを見つめると、顔を真っ赤にして言った。
「ずっと憧れていた王子様にまで見染めてもらえて……こんな自分が、少しだけ好きになりました」
マナが今の自分の気持ちを正直に告げると、王妃は大きく頷いた。
「今はそれでいいです。いつかきっと、心の底から自分自身が好きだと思える日が来るでしょう」
そしてシェルリ王妃は、祝福するように微笑んだ。
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