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第三章 森の薬師編
83 王妃として必要なもの
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「そうですか、分かりました」
王妃は言ってから、重々しい雰囲気を纏ってマナを見つめてきた。
「では、わたしから一つ質問させて下さい。これは王妃に必要不可欠なものです。どんなに博識であろうと、優れた政務ができようと、この質問に答えられなければ王妃にはなれません」
ここで急に王妃が質問などを切り出してくるので、場の空気は少し張り詰めた。アルカードは、マナの答えに水をさすような母親を、怪訝に見つめていた。
「マナ、あなたは自分自身を愛していますか?」
何だ、そんな事か。その場にいる殆どの人間がそう思った。どうという事はない、簡単な質問だった。誰だって自分の身を愛している。そうでない人間などいるものか。
謁見の間が、寂寞とした静けさに満ちた。さっきまで喜びに満ち溢れていたマナが、俯いて苦しんでいた。王妃ともう一人を除いて、後の者はマナの悲愴な姿を見て呆然と立ち尽くしてしまった。
マナは遂に耐えきれなくなって、泣きながら謁見の間から逃げるように出て行ってしまう。
「マナ様!?」
「まって、マナ!」
ティア姫とシャルが後を追いかけていく。ユリカはその場に残って、蒼白になって震えていた。ティア姫やシャルが出て行った以上、侍女である彼女がでしゃばる訳にはいかなかった。マナと長い時間を過ごしたユリカですら、マナの心奥にある苦しみに気付く事ができなかった。
「母上、あなたは……」
アルカードが憎いような目で見つめる先に、玉座にいるシェルリの毅然とした姿があった。
「もしや、あなたはマナの気持ちを知っていてあんな質問を……」
「自分自身を愛せない者が、どうして民を愛せましょうか」
アルカードの表情が歪み、彼もマナの後を追おうとすると、
「お待ち下さい、殿下!」
「アルメリア、何故止める!」
「貴方は行ってはなりません。何故なら、殿下はもうこれ以上ないものをマナに与えているからです。この上さらに殿下の手を煩わせては、マナの心情は居た堪れぬばかりです」
「僕が行けば、マナは余計に苦しむというのか……」
「そうです。後はティア姫様とシャルに任せて、ここでお待ち下さい」
「……お前は行かないのかい?」
「ゼノビアとわたくしがここに残るのは、マナに対してしてやれる事など何もないからですわ。それに、わたくしはマナを王妃に迎えるのは反対なのです」
「そうだろうね。君にとっては都合の悪い事ばかりだ」
王太子の心を乱す余りの暴言にも、アルメリアは冷然としていた。
「どのように解釈なされてもかまいませんが、忌憚のない意見を言わせて頂きます。マナには妃殿下のように政務を行う事は出来ません。例え殿下が政務を行うにしても、王妃としてやっていくのも難しいでしょう。あの子には圧倒的に能力が足りないのです」
この時、静観していた王妃が言った。
「能力などは補佐する者がいれば問題ありませんよ。もしマナが王妃になったのなら、アルメリア、貴女を宰相にしますからね」
それを聞いた瞬間、流石のアルメリアでも動揺した。
「今、何と?」
「マナが妃になったら、あなたを宰相にすると言ったのです」
「ご冗談を、女性の宰相など聞いた事もありません」
「ロディスは古来より女性が活躍してきた国です。むしろ、今まで女性の宰相がいなかった事の方がおかしいのです。それに、貴女以上に宰相に相応しい人間がいるでしょうか」
どうやら王妃が本気らしいと分かると、アルメリアはすぐに落ち着きを取り戻して言った。
「王命とあらば承りますが、あくまでもマナが妃になった場合の事です」
「ですから、あなたもマナの所に行ってください」
「……何故わたくしを?」
「貴方だけが、マナの心の傷に気付いていたからですよ」
「アルメリア、君は知っていたのか?」
アルカードが驚いていると、アルメリアがやるせないため息を吐いた。
「これだけの人間が揃いも揃って、気付いていない事の方が驚きでしたわ」
「あなたがどれだけマナの事を気にかけていたのか、よく分かりますわね」
「な、何を言うのですか」
ゼノビアに言われた事が気恥ずかしくて、アルメリアは視線を逸らしていた。
「どうしてアルメリアはマナの心の傷に気付けたんだ? 僕には全く分からなかった……」
アルカードは散々思ってきた人の心が分からなかった事が情けなく、それを知っていたアルメリアに対しては悔しいような気持になっていた。
「わたくしは客観的にマナを観察していたから分かったのです。あの子は自分を卑下しています。恐らく、自分自身が嫌いなのです。そういう人間は、他人を愛する事もできません。しかし、マナは違います。他人を思いやる心があります。自分への嫌悪と他人への思いやり、彼女はその矛盾の中で苦しんできたに違いありません」
それを聞いた王妃はにっこりと微笑んで公爵令嬢に言った。
「アルメリア、宰相としての最初の仕事だと思って、マナをここに連れ戻して下さい」
アルメリアが王妃の言葉に唖然としていると、ユリカが来て頭を下げた。
「アルメリア様、わたしからもお願いします!」
「分かりました、行きますわ」
王妃は言ってから、重々しい雰囲気を纏ってマナを見つめてきた。
「では、わたしから一つ質問させて下さい。これは王妃に必要不可欠なものです。どんなに博識であろうと、優れた政務ができようと、この質問に答えられなければ王妃にはなれません」
ここで急に王妃が質問などを切り出してくるので、場の空気は少し張り詰めた。アルカードは、マナの答えに水をさすような母親を、怪訝に見つめていた。
「マナ、あなたは自分自身を愛していますか?」
何だ、そんな事か。その場にいる殆どの人間がそう思った。どうという事はない、簡単な質問だった。誰だって自分の身を愛している。そうでない人間などいるものか。
謁見の間が、寂寞とした静けさに満ちた。さっきまで喜びに満ち溢れていたマナが、俯いて苦しんでいた。王妃ともう一人を除いて、後の者はマナの悲愴な姿を見て呆然と立ち尽くしてしまった。
マナは遂に耐えきれなくなって、泣きながら謁見の間から逃げるように出て行ってしまう。
「マナ様!?」
「まって、マナ!」
ティア姫とシャルが後を追いかけていく。ユリカはその場に残って、蒼白になって震えていた。ティア姫やシャルが出て行った以上、侍女である彼女がでしゃばる訳にはいかなかった。マナと長い時間を過ごしたユリカですら、マナの心奥にある苦しみに気付く事ができなかった。
「母上、あなたは……」
アルカードが憎いような目で見つめる先に、玉座にいるシェルリの毅然とした姿があった。
「もしや、あなたはマナの気持ちを知っていてあんな質問を……」
「自分自身を愛せない者が、どうして民を愛せましょうか」
アルカードの表情が歪み、彼もマナの後を追おうとすると、
「お待ち下さい、殿下!」
「アルメリア、何故止める!」
「貴方は行ってはなりません。何故なら、殿下はもうこれ以上ないものをマナに与えているからです。この上さらに殿下の手を煩わせては、マナの心情は居た堪れぬばかりです」
「僕が行けば、マナは余計に苦しむというのか……」
「そうです。後はティア姫様とシャルに任せて、ここでお待ち下さい」
「……お前は行かないのかい?」
「ゼノビアとわたくしがここに残るのは、マナに対してしてやれる事など何もないからですわ。それに、わたくしはマナを王妃に迎えるのは反対なのです」
「そうだろうね。君にとっては都合の悪い事ばかりだ」
王太子の心を乱す余りの暴言にも、アルメリアは冷然としていた。
「どのように解釈なされてもかまいませんが、忌憚のない意見を言わせて頂きます。マナには妃殿下のように政務を行う事は出来ません。例え殿下が政務を行うにしても、王妃としてやっていくのも難しいでしょう。あの子には圧倒的に能力が足りないのです」
この時、静観していた王妃が言った。
「能力などは補佐する者がいれば問題ありませんよ。もしマナが王妃になったのなら、アルメリア、貴女を宰相にしますからね」
それを聞いた瞬間、流石のアルメリアでも動揺した。
「今、何と?」
「マナが妃になったら、あなたを宰相にすると言ったのです」
「ご冗談を、女性の宰相など聞いた事もありません」
「ロディスは古来より女性が活躍してきた国です。むしろ、今まで女性の宰相がいなかった事の方がおかしいのです。それに、貴女以上に宰相に相応しい人間がいるでしょうか」
どうやら王妃が本気らしいと分かると、アルメリアはすぐに落ち着きを取り戻して言った。
「王命とあらば承りますが、あくまでもマナが妃になった場合の事です」
「ですから、あなたもマナの所に行ってください」
「……何故わたくしを?」
「貴方だけが、マナの心の傷に気付いていたからですよ」
「アルメリア、君は知っていたのか?」
アルカードが驚いていると、アルメリアがやるせないため息を吐いた。
「これだけの人間が揃いも揃って、気付いていない事の方が驚きでしたわ」
「あなたがどれだけマナの事を気にかけていたのか、よく分かりますわね」
「な、何を言うのですか」
ゼノビアに言われた事が気恥ずかしくて、アルメリアは視線を逸らしていた。
「どうしてアルメリアはマナの心の傷に気付けたんだ? 僕には全く分からなかった……」
アルカードは散々思ってきた人の心が分からなかった事が情けなく、それを知っていたアルメリアに対しては悔しいような気持になっていた。
「わたくしは客観的にマナを観察していたから分かったのです。あの子は自分を卑下しています。恐らく、自分自身が嫌いなのです。そういう人間は、他人を愛する事もできません。しかし、マナは違います。他人を思いやる心があります。自分への嫌悪と他人への思いやり、彼女はその矛盾の中で苦しんできたに違いありません」
それを聞いた王妃はにっこりと微笑んで公爵令嬢に言った。
「アルメリア、宰相としての最初の仕事だと思って、マナをここに連れ戻して下さい」
アルメリアが王妃の言葉に唖然としていると、ユリカが来て頭を下げた。
「アルメリア様、わたしからもお願いします!」
「分かりました、行きますわ」
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