神造のヨシツネ

ワナリ

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第2話:源氏の少女

Act-03 祖父の秘密

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 鎌田マサキヨの整備場の裏庭――そこで、

(じっちゃんは、なんで機甲武者を……?)

 と、逃げてきたウシワカは、祖父が隠し持っていた戦闘兵器について考えていた。

 整備を依頼されたものなのか――いやさすがに軍事兵器を、街の整備工に預ける訳がない。ならあれはマサキヨの所有物なのか。それなら、なぜ祖父はあんな格納庫の奥に、機甲武者を隠していたのか。
 草に寝そべり空を見上げても、答えは出てこない。

「白……あれは源氏の色。源氏型のガシアルG」

 その時、一緒に逃げてきたカイソンが、さっき見たガシアルに施されたペイントについて言及した。

 皇帝の支族として、惑星ヒノモトの覇権を競ってきた平氏と源氏。
 そのシンボルカラーは平氏が――昨夜ウシワカがロクハラで、平氏から奪おうとしたガシアルがそうだった様に――赤であり、対する源氏は白であった。
 つまり格納庫にあった白いガシアルは、源氏の機体という事になる。

(源氏……)

 漠然とそれについて考えていると、

「あん時のウシワカの爺ちゃん、えらい慌てっぷりだったよねー」

「うわっ!」

 いきなり合いの手を入れてきたサブローに、ウシワカとカイソンは驚いた。

 あの時、その場にいなかったはずなのに、ちゃっかり一部始終を見ていたらしいサブローは、今もまた『盗賊』という肩書きそのままに、音も立てず二人の側まで近付くと、

「誰か来てるみたいだよ」

 と、マサキヨを訪ねてきたらしい来訪者の存在を、ウシワカに知らせてきた。

 ――整備を頼みに、客でも来たのかな?

 そう思ったウシワカだったが、次の瞬間、

「ふざけるな!」

 というマサキヨの怒声が、格納庫のあたりから聞こえてくると、サブロー、カイソンと共に、声のする方に向け走り出した。



「あと五日もすれば、ヨシナカの軍が来る! その後に、ヨリトモ様の本隊も到着する。これで平氏も終わりだ!」

「でも平氏は都落ちに、帝を一緒に連れ去ろうとしてるのよ。自分たちを官軍に、源氏を朝敵にするために」

 屋内に忍び込み聞き耳を立てると、どうやらマサキヨは女と話しているらしい。しかもウシワカは、その女の声に聞き覚えがあった。
 まさかと思い中を覗き込んだウシワカは、思わず声を出しそうになる――マサキヨと対峙しているのが、やはり昨夜自分たちの危機を救ってくれた、ベンケイと名乗った女だったからである。

 また会いましょう――

 彼女はそう言って別れたが、まさか昨日の今日での登場には、ウシワカも面食らった。
 しかもベンケイは、今日も地に足をつけず宙に浮いている。自分を『ツクモ神』と言っていたから、何か不思議な存在なのだろうが、こうして客観的に眺めると、やはりそれは異常な光景であった。

 だがマサキヨは、そんな状況に別段驚いている様子もない。いったい二人はどういう関係なのだろうかと、ウシワカは息を殺して次の言葉を待つ。

「ねえ、お願い!」

「断る! なぜ、今さら朝廷のために力を貸さねばならぬのか⁉︎」

「あの子は、トキワの子よ!」

「……それは分かっている! だが、あの子は――ウシワカは源氏の子だ!」

 マサキヨとベンケイの激しい言い争いの中、衝撃の言葉が飛び出してきた。

(私が……源氏?)

 瞬間、ウシワカは放心状態となる。
 祖父からは両親は争乱の中、平氏に殺されたと聞いていた。だが、その出自が源氏だとは思ってもみなかった。それに母の名がトキワだという事も、昨夜ベンケイから聞かされて初めて知ったのだ。

 それにマサキヨは、源氏型の機甲武者を隠し持っていた。
 いったい祖父は、何を隠しながら今日まで自分を育ててきたのだろうか。

 様々な思いに、腰が抜けそうになるウシワカを、サブローとカイソンが両脇から支えていた。
 そして、しばしの沈黙の後、先に口を開いたのはベンケイだった。

「それで、あなたはどうするの?」

「…………」

「まさか、源氏の軍に加わる気じゃないでしょうね⁉︎ あんな旧式の機甲武者で!」

「儂は……今度こそ平氏を討つ!」

 静かに、だが力強く、決意に満ちた表情でマサキヨは答えた。

「ウシワカも連れていく気なの?」

 厳しい目でベンケイが問いかける。

 それに対し、様々な思いを噛みしめる様に目を瞑った後、

「……確かに、あの子は源氏の子だ。だがあの子は何も知らずに、普通の子として幸せに生きていってほしい……。そのために儂は――あの子の代わりに、この命をかけるのだ!」

 そう言ってマサキヨは、ベンケイに背を向けた。
 そして目を開くと、その視線の先に――呆然と立ち尽くす、ウシワカの姿があった。

「じっちゃん……」

「う、ウシワカ……」

「私は……私は、源氏の人間なの?」

「んっ…………!」

 マサキヨは言葉に詰まり、何も答えられない。

「ねえ、じっちゃん!」

「し、知らん! 出ていけ、みんなここから出ていけー!」

 真実を求め、哀願するウシワカの瞳に耐えられなくなったマサキヨが、大声で怒鳴り散らす。
 これしかこの場を逃れる術がなかったからだが、それでもまだ食い下がろうとするウシワカを、サブローとカイソンが抱える様にして外に連れ出した。

 マサキヨもウシワカも予想外の展開に平常心を失っている。ここはお互いに頭を冷やす必要があった。

 そして交渉が決裂に終わった事を悟ったベンケイも、その場を立ち去ろうとするが、その背中に向かって、

「ツクモ神よ……お前とも浅からぬ縁となった。虫のいい話なのは百も承知だが――もし儂が武運拙く討死した時は……あの子の事を頼む」

 マサキヨは落ち着きを取り戻した声で、深々と頭を下げてきた。

「男はいつも……最後は女にすべてを託すのね」

 それに振り返らないベンケイは、長い黒髪のかかった背中で、男の勝手を非難する。マサキヨもそれに返す言葉がなかったが、

「いいわ。あの子も私も、女同士だしね」

 顔を半分だけ後ろに向けてそう言うと、ベンケイは目で――ご武運を――と、惜別の微笑みを残し、外に向けて飛んでいった。

 そして外には連れ出されたウシワカがおり、その横を通り過ぎる時に、


「ウシワカ――何かあったら、ゴジョウ大橋にいらっしゃい」


 ベンケイは謎のメッセージを残し、南に向けて飛び去っていった。それが皇帝のいるヘイアン宮の方角だとは、まだ放心状態のウシワカには気付く由もなかった。

 そのウシワカを、マサキヨの整備場の陰から見つめる別の目があった。
 赤黒い迷彩服に身を包み、ギョロギョロと目だけを動かしながら、完全に気配を消し去っているそれは――『カムロ』と呼ばれる平氏の密偵部隊。
 そのカムロが誰にも気付かれずに消えた。そして悲劇の幕は切って落とされたのであった。



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