6 / 97
第2話:源氏の少女
Act-03 祖父の秘密
しおりを挟む鎌田マサキヨの整備場の裏庭――そこで、
(じっちゃんは、なんで機甲武者を……?)
と、逃げてきたウシワカは、祖父が隠し持っていた戦闘兵器について考えていた。
整備を依頼されたものなのか――いやさすがに軍事兵器を、街の整備工に預ける訳がない。ならあれはマサキヨの所有物なのか。それなら、なぜ祖父はあんな格納庫の奥に、機甲武者を隠していたのか。
草に寝そべり空を見上げても、答えは出てこない。
「白……あれは源氏の色。源氏型のガシアルG」
その時、一緒に逃げてきたカイソンが、さっき見たガシアルに施されたペイントについて言及した。
皇帝の支族として、惑星ヒノモトの覇権を競ってきた平氏と源氏。
そのシンボルカラーは平氏が――昨夜ウシワカがロクハラで、平氏から奪おうとしたガシアルがそうだった様に――赤であり、対する源氏は白であった。
つまり格納庫にあった白いガシアルは、源氏の機体という事になる。
(源氏……)
漠然とそれについて考えていると、
「あん時のウシワカの爺ちゃん、えらい慌てっぷりだったよねー」
「うわっ!」
いきなり合いの手を入れてきたサブローに、ウシワカとカイソンは驚いた。
あの時、その場にいなかったはずなのに、ちゃっかり一部始終を見ていたらしいサブローは、今もまた『盗賊』という肩書きそのままに、音も立てず二人の側まで近付くと、
「誰か来てるみたいだよ」
と、マサキヨを訪ねてきたらしい来訪者の存在を、ウシワカに知らせてきた。
――整備を頼みに、客でも来たのかな?
そう思ったウシワカだったが、次の瞬間、
「ふざけるな!」
というマサキヨの怒声が、格納庫のあたりから聞こえてくると、サブロー、カイソンと共に、声のする方に向け走り出した。
「あと五日もすれば、ヨシナカの軍が来る! その後に、ヨリトモ様の本隊も到着する。これで平氏も終わりだ!」
「でも平氏は都落ちに、帝を一緒に連れ去ろうとしてるのよ。自分たちを官軍に、源氏を朝敵にするために」
屋内に忍び込み聞き耳を立てると、どうやらマサキヨは女と話しているらしい。しかもウシワカは、その女の声に聞き覚えがあった。
まさかと思い中を覗き込んだウシワカは、思わず声を出しそうになる――マサキヨと対峙しているのが、やはり昨夜自分たちの危機を救ってくれた、ベンケイと名乗った女だったからである。
また会いましょう――
彼女はそう言って別れたが、まさか昨日の今日での登場には、ウシワカも面食らった。
しかもベンケイは、今日も地に足をつけず宙に浮いている。自分を『ツクモ神』と言っていたから、何か不思議な存在なのだろうが、こうして客観的に眺めると、やはりそれは異常な光景であった。
だがマサキヨは、そんな状況に別段驚いている様子もない。いったい二人はどういう関係なのだろうかと、ウシワカは息を殺して次の言葉を待つ。
「ねえ、お願い!」
「断る! なぜ、今さら朝廷のために力を貸さねばならぬのか⁉︎」
「あの子は、トキワの子よ!」
「……それは分かっている! だが、あの子は――ウシワカは源氏の子だ!」
マサキヨとベンケイの激しい言い争いの中、衝撃の言葉が飛び出してきた。
(私が……源氏?)
瞬間、ウシワカは放心状態となる。
祖父からは両親は争乱の中、平氏に殺されたと聞いていた。だが、その出自が源氏だとは思ってもみなかった。それに母の名がトキワだという事も、昨夜ベンケイから聞かされて初めて知ったのだ。
それにマサキヨは、源氏型の機甲武者を隠し持っていた。
いったい祖父は、何を隠しながら今日まで自分を育ててきたのだろうか。
様々な思いに、腰が抜けそうになるウシワカを、サブローとカイソンが両脇から支えていた。
そして、しばしの沈黙の後、先に口を開いたのはベンケイだった。
「それで、あなたはどうするの?」
「…………」
「まさか、源氏の軍に加わる気じゃないでしょうね⁉︎ あんな旧式の機甲武者で!」
「儂は……今度こそ平氏を討つ!」
静かに、だが力強く、決意に満ちた表情でマサキヨは答えた。
「ウシワカも連れていく気なの?」
厳しい目でベンケイが問いかける。
それに対し、様々な思いを噛みしめる様に目を瞑った後、
「……確かに、あの子は源氏の子だ。だがあの子は何も知らずに、普通の子として幸せに生きていってほしい……。そのために儂は――あの子の代わりに、この命をかけるのだ!」
そう言ってマサキヨは、ベンケイに背を向けた。
そして目を開くと、その視線の先に――呆然と立ち尽くす、ウシワカの姿があった。
「じっちゃん……」
「う、ウシワカ……」
「私は……私は、源氏の人間なの?」
「んっ…………!」
マサキヨは言葉に詰まり、何も答えられない。
「ねえ、じっちゃん!」
「し、知らん! 出ていけ、みんなここから出ていけー!」
真実を求め、哀願するウシワカの瞳に耐えられなくなったマサキヨが、大声で怒鳴り散らす。
これしかこの場を逃れる術がなかったからだが、それでもまだ食い下がろうとするウシワカを、サブローとカイソンが抱える様にして外に連れ出した。
マサキヨもウシワカも予想外の展開に平常心を失っている。ここはお互いに頭を冷やす必要があった。
そして交渉が決裂に終わった事を悟ったベンケイも、その場を立ち去ろうとするが、その背中に向かって、
「ツクモ神よ……お前とも浅からぬ縁となった。虫のいい話なのは百も承知だが――もし儂が武運拙く討死した時は……あの子の事を頼む」
マサキヨは落ち着きを取り戻した声で、深々と頭を下げてきた。
「男はいつも……最後は女にすべてを託すのね」
それに振り返らないベンケイは、長い黒髪のかかった背中で、男の勝手を非難する。マサキヨもそれに返す言葉がなかったが、
「いいわ。あの子も私も、女同士だしね」
顔を半分だけ後ろに向けてそう言うと、ベンケイは目で――ご武運を――と、惜別の微笑みを残し、外に向けて飛んでいった。
そして外には連れ出されたウシワカがおり、その横を通り過ぎる時に、
「ウシワカ――何かあったら、ゴジョウ大橋にいらっしゃい」
ベンケイは謎のメッセージを残し、南に向けて飛び去っていった。それが皇帝のいるヘイアン宮の方角だとは、まだ放心状態のウシワカには気付く由もなかった。
そのウシワカを、マサキヨの整備場の陰から見つめる別の目があった。
赤黒い迷彩服に身を包み、ギョロギョロと目だけを動かしながら、完全に気配を消し去っているそれは――『カムロ』と呼ばれる平氏の密偵部隊。
そのカムロが誰にも気付かれずに消えた。そして悲劇の幕は切って落とされたのであった。
Act-03 祖父の秘密 END
NEXT Act-04 クラマ襲撃
0
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う
なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。
スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、
ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。
弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、
満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。
そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは――
拾ってきた野良の黒猫“クロ”。
だが命の灯が消えかけた夜、
その黒猫は正体を現す。
クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在――
しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。
力を失われ、語ることすら封じられたクロは、
復讐を果たすための契約者を探していた。
クロは瀕死のソラと契約し、
彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。
唯一のスキル《アイテムボックス》。
そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、
弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。
だがその裏で、
クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、
復讐の道を静かに歩み始めていた。
これは――
“最弱”と“最凶”が手を取り合い、
未来をやり直す物語
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる