神造のヨシツネ

ワナリ

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第2話:源氏の少女

Act-05 初陣

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 苦しい息の中、マサキヨは呆然とするウシワカに構わず、矢継ぎ早に話を進める。もうマサキヨには、時間が残されていないのであった。

「あなた様の父上は、先の『ヘイジの乱』でたいらのキヨモリに討たれた源氏の棟梁――みなもとのヨシトモ様でございます。私はその従者でございました」

「じ、じっちゃん、なにを言ってるの?」

「今、キョウトに向かわれている源氏軍の大将――みなもとのヨリトモ様は、あなた様の姉上でございます」

「…………⁉︎」

 父が先の源氏の棟梁。そして姉が、キョウトに迫る平氏討伐軍を率いている大将。
 これまでの経緯で、自分の出生に何かあると思っていたウシワカだったが、これにはあまりの衝撃に息が詰まり、言葉が出てこなかった。

「この先は……姉上様をお頼りください。ヨリトモ様に、あなた様をこの手でお渡しできなかったのは無念ですが――ううっ!」

「じっちゃん、もういいよ! もういいから、しゃべらないで!」

 傷の痛みに言葉が途切れたマサキヨを制し、ウシワカは頬を寄せ、むせび泣く。
 そばにいるサブローとカイソンも、これまで『祖父と孫娘』として暮らしてきた二人の、あまりに酷く突然すぎる別れに蒼白となっていた。

「ウシワカ様……ご立派になられた……。マサキヨは……あなた様をお育てできて……幸せ……でした」

 万感の思いに微笑むマサキヨ。だがその口から、次の言葉が出てくる事はなかった。
 そしてマサキヨの体はさらに強く光を発すると、先ほど路傍で息絶えた男と同じ様に、砂の様に崩れていく。

 それにウシワカは、「ああっ! ああっ!」と叫びながらその進行を止めようと、祖父の亡骸をかき抱くが――それを止められる訳もなく――やがてマサキヨは大地に吸い込まれ、跡形もなく消えていった。

 こうして初老の武人と少女の十五年の歳月は、あっけなく終わりを迎えた。

「ウシワカ……」

 大地に額を付け、突っ伏したままのウシワカを心配してサブローが声をかける。同時にカイソンも、その肩に手を置こうとした瞬間、

「じっちゃんの……仇を討つ」

 そう言って、ガバッと立ち上がったウシワカの目は、いつも通り切れ長で美しかったが――そこには復讐の炎が燃え上がっていた。

 そして二人の間を無言で通り抜けると、軽やかな足取りでウシワカは奥に進む。その先にあるのは、マサキヨが隠し持っていた機甲武者のある格納庫。

 整備場の破壊が目的であったはずなのに、平氏の攻撃が雑だったおかげで、施設内部の破損は思いの外、軽微なものだった。
 特に強固に作られていたのか、格納庫はほぼ無傷で残っており、その中で偶然扉だけが壊れていた――それは運命だったのか。

「源氏の機甲武者……」

 格納庫の奥に進んだウシワカは、源氏のカラーである白いガシアルと向かい合う。

「じっちゃんは、これに乗っていたんだね……。これでまた……平氏と戦いたかったんだね」

 しゃがんだ姿勢の全長八メートルの機甲武者を見上げ、言葉をかけるウシワカの姿は、まるで祖父に語りかけている様だった。
 そしてしばしの沈黙の後、ウシワカが胸部に跳ぶと、ガシアルはそれに応えてコクピットのハッチを開いた。

 昨夜の再現――太古の天使の亡骸である、大地の霊脈を動力源とする機甲武者を動かす『魔導適性』が、ウシワカには間違いなくあった。

 何もないコクピットのシートに座ると、傍らにジェット型のヘルメットがある事にウシワカは気付く。おそらくマサキヨが使っていたものであろう。
 迷わずそれを被ると、瞬間、そのバイザーに機体のコンディションや、周囲の状況の解析などの様々な情報が表示され、ウシワカは驚く。

 昨夜は手探りで挑んだため分からなかったが――なるほど、これはまさに太古の魔導兵器と、現代の高度科学の融合物であるとウシワカは納得した。

 そして、起動直後のせわしない情報表示の中、ウシワカは耳に飛び込んできた、

『レンジスリーに戦闘車両三台、機甲武者三機! タイプは平氏型――ガシアルH!』

 というアラームメッセージに、全身の血が逆流するような感覚に襲われた。おそらく、ここを襲撃して撤退していく平氏の部隊を捕捉したのであろう。

「平氏……!」

 ウシワカは憎らしげに呟くと、肘掛けの先端にある球体を掴む。
 大地の霊脈とコンタクトする感覚が、昨夜の平氏型ガシアルの時よりも強いのは、この機体が源氏型だから――すなわち自分が源氏の人間だという事を、ウシワカは実感した。

 そのまま無言でハッチを閉じたウシワカの目には、全周囲モニターの中に映るサブローとカイソンの姿さえ、もう見えない。
 ただ目指すのは――マサキヨを殺した平氏の襲撃部隊。

 そして、ガシアルGは頭部の両眼を光らせると、

「逃がすかーっ!」

 というウシワカの叫びに呼応して立ち上がり、格納庫を飛び出すと、レーダーサイトの誘導にそって、平氏の部隊に向けて疾走していった。



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