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第3話:シャナオウ現界
Act-05 神造兵器
「――――⁉︎」
それは、ガシアルと同じ人型の機甲武者ながら、見る者に――今となっては伝説となっている――太古の天使の姿を想像させる、何か神々しさの様なものを放ちながら、この世界に現界した。
全長もガシアルと同じく約八メートル。だがそのボディは華奢で、およそ肉弾戦に向いていないフォルムであったが、その頭部に付いた両眼は異様な眼光を放っており、間違いなく『シャナオウ』と呼ばれた機甲武者は戦闘兵器であった。
「いくわよ、ウシワカ」
そしてベンケイは、ウシワカをそのコクピットへと誘う。
全身が薄緑色のシャナオウの胴部まで下降すると、まるで待っていたかの様に開かれたハッチの中に、ウシワカを抱いたままベンケイは飛び込む。
「なに、一緒に乗るの?」
まずその事に驚いたウシワカだったが、押し込む様にシートに座らされ、ハッチが閉じてから、さらにそのコクピット内が異様な事に驚いた。
ガシアルのコクピットは、足元を除く三百六十度の全周囲モニターだったが、シャナオウは上下前後左右のすべてがモニターになっており――言うなれば、モニターという球体の中心にシートが浮いている様な構造なのだが、足は地につく感覚があり、手を伸ばせば壁らしきものに当たる。
太古の魔導兵器を高度科学の力で運用可能にした機甲武者は、そもそも奇妙極まりないものであるが、このシャナオウはさらにその上をいく奇妙さであった。
何よりもウシワカが違和感を覚えたのが、シート後方からベンケイが自分を抱きしめている事である。構造上狭いコクピット内にもかかわらず、ベンケイは全身を見せながら半身を浮遊させており、まるで彼女だけが何か別の空間を保有しているかの様だった。
だが相手はこれまで数々の魔導を見せてきたツクモ神。元々の性格のせいもあるが、ウシワカはもう特に細かい事を気にするのをやめた。
「なんだ、あの機甲武者は……!」
一方シゲヒラの方では、突然ゴジョウ大橋から出現したシャナオウに動揺を隠せずにいた。
頭部に付いた二本の触角の様な前立て。源氏の白でも、平氏の赤でもない薄緑色の機体色。痩せ型だが背中に巨大なバックパックを背負った、アンバランスな仕様。
それは、今まで見たどの機体とも異なり、ナビゲートシステムにも登録が見当たらない。
――新たに発掘された新型か?
そう思ったシゲヒラであったが、あの少女がそれに乗り込むのをこの目で見た。ならば新型であろうとなかろうと、己が為すべき事はただひとつ――平氏の敵を討ち取るのみ。
雑念を振り払ったシゲヒラが、十分な射程圏内から機関砲をシャナオウに放つ。
それに五感で反応したウシワカが、シート肘掛けの先端に付いた球体を握りしめる。源氏型のガシアルに乗った時も相性の良さを感じたが、このシャナオウはそういうレベルではなかった。
両手どころか、五体すべてから霊気が流れ込む感覚。それは機甲武者の動力源である大地の霊脈と自分が完全に一体化して、ウシワカはシャナオウそのものになった様な錯覚さえ覚えた。
そして気がつけば、シャナオウはシゲヒラからの射撃をかわし、そのまま橋上を疾走して敵陣へ乗り込み、あっという間に三機のガシアルHを拳で殴り倒していた。ウシワカの秘められていた戦闘センスは、シャナオウを得た事でさらなる高みに達したのであった。
「慌てるな、セイバーで応戦しろ!」
シゲヒラが全軍に素早く指示を飛ばす。とりあえず機先を制した突撃は成功したが、数の上で圧倒的に不利なシャナオウは、敵に落ち着いて陣形を組まれると、うかつに近付く事はできない。
近接戦での同士討ちを避けるため機関砲を捨て、手に手にセイバーを構える平氏のガシアル。それに対して、
「ベンケイ、武器は? 武器はないの⁉︎」
ウシワカは、自分を後ろから抱くツクモ神に問いかけた。
無意識のうちにだが、ウシワカはシャナオウに科学技術式のナビゲートシステムが一切ない事を見抜いており――おそらくはそれを、ベンケイが担当するのだろうと思ったのだ。
それが正解である証拠に、
「フフン、あるよー」
と、ベンケイはニヤリとすると、頼られた事が嬉しいのか、さらに強く、ギュッとウシワカを抱きしめた。
「もったいぶってないで早くしてよ!」
「そうね」
敵機が迫っている状況に、ウシワカの言い分がもっともと、ベンケイは表情をあらためると、
「左腕にセイバー――」
と言い終わらないうちに、ウシワカはシャナオウの左腕に格納されているセイバーを引き抜いた。
だが、それはセイバーではなく――柄の先端から、ガシャンという音とともに八枚の羽が開いた団扇状の物体であった。
「なにさこれ⁉︎ セイバーじゃないじゃん!」
すかさずウシワカは、団扇でどう機甲武者と戦えというのだ、と抗議の声を上げるが、
「もう話は最後まで聞きなさいよ! 『セイバーより強力な武器』って言おうとしたんじゃない!」
と、ベンケイは逆ギレ気味に、耳元で怒鳴りつける。良くも悪くも、このパイロットとナビは、奇妙にかみ合っている様子であった。
その証拠に、不毛な会話をしたかと思えば、真近に敵機が迫ると、
「ウシワカ、『ハチヨウ(八葉)』を前に振って!」
「分かった!」
と、二人は一瞬でモードを切りかえ、ウシワカはベンケイが『ハチヨウ』と言った武器を、ガシアルに狙いをつけてシャナオウに振らせた。
すると、ハチヨウの八枚羽は矢の様に前方に飛んでいき、機甲武者の胴体をいとも簡単に刺し貫いてしまった。ベンケイの『セイバーよりも強力』という言葉に偽りなしであった。
そしてハチヨウの羽の後部にワイヤーが付いている事に気付くと、この初動だけでその勝手をつかんだウシワカは、素早く羽を引き戻し、再びハチヨウを元の団扇状の形に戻した。
「うまい、うまい!」
頬をすりよせ褒めるベンケイ。それにウシワカもまんざらでもないといった笑顔を見せると、続けて第二撃、三撃を放ち、次々とガシアルを撃破していった。
機関砲ほどではないが、五十メートル近い射程範囲のあるハチヨウに、平氏軍は手を焼くが、
「距離を詰めるのだ! 近付けば、あれの威力は発揮できなくなる」
というシゲヒラの的確な指示で、シャナオウの周りにガシアルが押し寄せると、ハチヨウの強みは封じられ、今度はウシワカ側が受け身に回る番となった。
だがベンケイは、状況の変化にも慌てる事なく、
「相手の指揮官、なかなかやるわね。じゃあウシワカ、斬り合いよ!」
と言うと、シャナオウの手にあるハチヨウの八枚羽が中央にたたまれ、そこから光刃が伸び、一瞬でセイバーに変化した。
「いいやああーっ!」
ウシワカも、もう詳細を問う事もなく、阿吽の呼吸でセイバーでガシアルに斬りかかる。打ち合いの勝負なら、旧式のガシアルでシゲヒラと互角に渡り合ったウシワカが、圧倒的に有利であった。
離れても近付いても、まったく歯が立たない――突如現れた新型機甲武者の強さに、平氏軍の動揺はさらに広がっていく。それを見越して、ベンケイは頃合いよしと判断した。
「じゃあ仕上げよ。ウシワカ、飛ぶわよ!」
Act-05 神造兵器 END
NEXT Act-06 千本の刃(サウザンドソード)
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