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第4話:殺意と殺意
Act-04 ツクモ神トキタダ
しおりを挟む交錯する殺意と殺意。そして、
「ベンケイ、シャナオウを出そう!」
と、ウシワカは迷わず、神造の機甲武者でトキタダを迎撃する事を主張した。
「…………分かったわ」
それに一瞬、躊躇を見せながらも、ベンケイも覚悟を決めると、ウシワカを抱いてシャナオウのコクピットに飛び込んだ。
ハッチが閉じると、シート肘掛けの先端に付いた球体を握りしめ、機甲武者の動力源である『大地の霊脈』とコンタクトするウシワカ。
その彼女を、シート後方からベンケイが抱きしめると、それが合図の様にシャナオウの目に光が灯り、薄緑の機甲武者はその膝を上げ、雄々しく立ち上がった。
「ふふん。機甲武者で来ようってかい。それでアタシに勝てる気なのかい?」
ツクモ神とはいえ、背丈は人間と同じ。それに対し、全長八メートルの機甲武者が向かってこようとも、トキタダはまったく動じなかった。
むしろシャナオウの中の方が、
「ねえ、あのトキタダって女、強いの⁉︎」
「ええ、強いわよ。今のあなたじゃ、シャナオウでも互角に戦えるかどうか……」
「みくびらないでよ! いくぞ、シャナオウ!」
「ウシワカ、無理に突っ込まないで!」
と、頭に血をのぼらせるウシワカと、それを抑えるベンケイとの足並みが乱れていた。
もうシャナオウを己の五体と同じく動かせるウシワカは、機体の左腕から団扇状の八枚羽のセイバー『ハチヨウ』を引き抜き、すぐにその羽をたたんで一本刃の光刃に変形させると、それを大上段に振りかぶった状態でトキタダに向け突撃していく。
「いきがった源氏の小娘が……。思い知らせてくれるよ」
シャナオウの頭部センサーカメラと同じ高さで浮いているトキタダも、不敵にそう呟くと左手の魔法陣をさらに大きく展開させ、それを待ち受ける。
その姿がコクピットモニターの真正面に見えるウシワカは、さらに怒りを増幅させて、
「こんのー、叩っ斬ってやる!」
と、シャナオウのセイバーを振り下ろし、本気でトキタダを一刀両断する気合で斬り込んでいった。
だが、飛び散る閃光の中、ウシワカ渾身の一撃は、
「ふふん、こんなものかい。やっぱり『ヤサカニの勾玉』――『鎧の神器』じゃ、攻撃はチョロいもんだねー」
と、せせら笑うトキタダが展開する、左手一本の魔導シールドに、いとも簡単に受け止められていた。
同じツクモ神のベンケイも、機甲武者が放つ機関砲をシールドで弾き返していたが、二十ミリ弾のそれと機甲武者の剛力で打ち込む、刃渡り三メートル近いセイバーの威力はケタ違いであり、それを受けとめたトキタダの魔導力もまた、まさにケタ違いであった。
それを知っていたベンケイは――これしか方法がなかったとはいえ――シャナオウでトキタダに立ち向かった決断に思わず舌打ちするが、それでもウシワカは、
「いいやああーっ!」
という、その独特な気合いのかけ声と共に――大地の霊脈とのコンタクトを強め――シャナオウに一層の魔導力をそそぎ込み、トキタダの魔導シールドを切り裂かんと、果敢に挑み続けていた。
そしてシャナオウのセイバーと、トキタダの魔導シールドが押し合うスパークの火花がさらに激しくなる中、ナビゲーターであるベンケイも思考をめぐらせる。
ここは一旦、セイバーを引かせるべきか――いや、引けばその瞬間にトキタダの反撃の一打が繰り出されてくる。
しかし、このまま鍔迫り合いの様な展開を続けていても、いずれ魔導力の差で必ず押し負ける――なら、どうする⁉︎
適切な方策が見出せないベンケイの心を見透かした様に、
「それじゃあ、『ヤタの鏡』――『魔導力の神器』の格の違いを見せてやるよ!」
トキタダはニヤリと笑うと、空いた右手に力を込めていく。そこに集中していく魔導の光彩は、やがて一個の生物の様に成長していき、その正体が判明するとウシワカは、我が目を疑い息を呑んだ。
なぜなら、トキタダの右腕だけが機甲武者と同じくらいの大きさになり――その拳がまっすぐモニター越しの自分に向けられていたのだから。
同じものを見ていたベンケイは、
「まずい!」
と叫ぶと、シート越しにウシワカを抱く腕に、ギュッと力を込めた。
もはや回避は不可能と判断したベンケイは、次に来る衝撃からウシワカを守るべく、対ショック姿勢を取ったのであった。
「食らいな!」
叫ぶトキタダの巨大な右腕が、ロケットパンチのごとく前に飛び出し、シャナオウの顔面をクリーンヒットする。
「うわーーーっ!」
吹き飛ばされ、ヘイアン宮の庭園を転がるシャナオウの中で、絶叫するウシワカ。
ベンケイの人間シートベルトがあったとはいえ、シャナオウに乗ってから初めて受けた被弾は、凄まじい衝撃であった。
「ウシワカ、大丈夫⁉︎」
「くっそーっ……」
安否を気遣うベンケイに、ウシワカは消えない闘争本能むき出しに気丈な声を上げる。
だがベンケイが懸念した通り、シャナオウをもってしても、トキタダというツクモ神の強さは、やはりケタ違いであった。
そんなパートナーの心配をよそに――昨夜、平氏屈指の機甲武者の使い手である、平シゲヒラを破ったみせた天才戦術家――ウシワカは、たとえ相手が『神の領域』でも、
――何か、何か手があるはずだ!
と、横たわったままのシャナオウのコクピットで、その武装、天候、相手との距離、周囲の状況について――状況打開の糸口はないかと、忙しく頭脳を働かせていた。
すると、ふと前方のモニターに映る逃げまどう人々の中に、美々しい装束に身を包んだ少女――皇女アントクが呆然と立ち尽くしているのを、ウシワカは発見した。
――そういえば、あのトキタダというツクモ神は、自分がこのアントクに危害を加えた直後に襲ってきた。
それを思い出した瞬間――ウシワカの心にドス黒い感情が湧き上がった。
Act-04 ツクモ神トキタダ END
NEXT Act-05 鬼畜の一撃
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