神造のヨシツネ

ワナリ

文字の大きさ
20 / 97
第4話:殺意と殺意

Act-05 鬼畜の一撃

しおりを挟む

 一方、シャナオウが転げ回った土煙のせいで、周囲の視界が塞がれた事にトキタダは、宙に浮いたまま焦りを覚えていた。

 ウシワカの反撃を恐れての事ではない――保護対象である、皇女アントクの姿が見えなくなったのである。
 自身の一撃が想像以上の威力で、アントクのいる周辺にまでシャナオウが吹き飛ぶなど、想定外の事態であった。

 そして土煙が晴れる――その中に、トキタダは信じられない光景を見た。
 それは、片膝をついて体勢を立て直したシャナオウが、立ち尽くすアントクを殴打せんと、その拳を振り上げている姿だった。

「アントク!」

 あれほど自信に満ちあふれていたトキタダが、絶望に顔を歪め絶叫する。

 機甲武者で子供を殴り殺そうとは、なんたる非道、卑劣、外道、極悪――と、込み上げる、あらゆる憎しみの感情を胸に、トキタダは急ぎアントクのもとへと飛んだ。
 それを視界に捉えたウシワカは、ニヤリと微笑む。

 ――やはりそうか、奴の『足枷』はこの小娘か。

 それを見抜いたウシワカのその時の顔は――およそ可憐な美貌に似合わない――まさに戦術家の本能だけに突き動かされた、『鬼畜』の顔をしていた。
 それに一瞬、背筋を寒くしたベンケイだったが、

 ――だが、この圧倒的実力差を覆すには、この手しかない!

 と、己の腕に抱かれた少女の苛烈な選択を、すぐに良しとした。

 ベンケイはこの様に、良識だけにとらわれない、事態に対する柔軟な発想力が備わっており、この点においてウシワカとベンケイという組み合わせは、ある意味、機能的な理想のパイロットとナビゲーターであった。その証拠に、

「ウシワカ、まともに斬り込んではダメ! ハチヨウでからめ捕って!」

 とベンケイは、色を失い突っ込んでくるトキタダに、反転攻撃を仕掛けようとするウシワカの狙いを理解して、すかさずその攻略法を指示した。

 ウシワカの方も、すぐにそれに応じると――その具体的方法を聞く事もなく――ハチヨウをセイバーから元の団扇状に戻すと、ベンケイの意図するところを汲み取って、その八枚羽をトキタダに向け、鋭く放った。

 柄から離れたワイヤー付きの八本の刃が、トキタダに向けて飛んでいく。だがそれだけでは、あまりにシンプルな攻撃すぎて、トキタダに通じるはずはなかったが、ウシワカに迷いはなかった。

 彼女は信じていた――己のパートナーを。ツクモ神ベンケイが起こす奇跡を。

「フン、こんなものが当たると思ったのかい」

 加速を重視するため、魔法陣で受けるのではなく、回避しながらの前進を選択したトキタダが、八本の刃の間を難なくすり抜けていく。
 その瞬間、シャナオウのコクピットでベンケイは、ウシワカの前に回した両手を合わせ、『九字』の様な印を宙に結んだ。

 すると――ハチヨウの刃についたワイヤーが、ベンケイの神通力で光り輝き、続けて蛇のごとくうねり反転すると、次々とトキタダの体に絡みついていく。

「なにいーっ⁉︎」

 それに動揺の声を上げるトキタダ。同時にウシワカは、

った!」

 と言うなりシャナオウで、捕らえたトキタダを――いったんハチヨウを振り上げ、勢いをつけてから――ムチを落とす様に、力まかせに地面に叩きつけた。

 ドーンという轟音とともに、今度はトキタダの周辺に土煙が舞い、人々が逃げまどう。
 半ば常軌を逸しながらも、非道を共有したウシワカとベンケイが見せた、圧倒的実力差を覆す奇跡の一撃であった。

 だが、これだけでトキタダが沈黙するとは到底思えない。
 ハチヨウ以外に固定武装を持たないシャナオウとしては、今の攻撃を繰り返すのが最善であるので、ウシワカは再度トキタダを地面に叩きつけるべく、シャナオウの腕を振り上げようとするが――その腕が鎖に繋がれた様に動かなかった。

「――――⁉︎」

 好機を逸する事に焦り、ウシワカが急ぎモニターを確認すると、そこに映るシャナオウの右腕は、本当に鎖にからめ捕られていた――しかも魔導による光の鎖で。

「な……なにこれ⁉︎」

 その出どころを全周囲モニターの中に探ると――鎖を放っていたのは、美々しい装束に身を包んだまだ幼い少女であった。
 その正体が、皇女アントクであると分かると、ウシワカは愕然とした。

 トキタダを釣るための餌――そう思っていたアントクが、大魔法陣を両手の先に展開して、そこから放たれた光の鎖でシャナオウを拘束してくるなど、まったくの想定外であった。

 ヒノモトにおける大地の霊脈の元となった『太古の天使』――その直系子孫である『皇族』は、今も強い魔導力を保持している。それはアントクが手をかざしただけで、シャナオウが反応した事でも明らかであった。

 だが、わずか十一歳で――ツクモ神であるトキタダにも劣らぬ――大魔法陣を展開している事実は驚愕に値し、それはアントクの底知れぬ魔導力と魔導適性を裏付けていた。

 そして、モニター越しにウシワカは、アントクの顔を見つめる。
 それは幼い子供のものでありながら、いたいけさが消え失せ、そこには正義に突き動かされた毅然とした怒りが満ちていた。

 その目が――アントクが、こちらを睨みつけている。

 独善的な正義を押し付けられた様な不快感が、ウシワカを包み込む。
 加えて、そもそもアントクの事は生理的に気に食わなかった。


 やはり、こいつは敵だ――ここで殺す!


 そう決意したウシワカが、シャナオウにさらなる魔導力を注ぎ込もうとした瞬間、

「何をやっている! やめい、みな静まれい!」

 と、ヘイアン宮の庭園に、水入りの大音声が響き渡った。
 一同がその方向に注目すると――そこには多くの衛兵を従えた僧形の摂政、シンゼイが怒りの形相で立っていた。

「源平で争うなら戦場でやれ! いったい御所をなんだと思っておるのだ!」

 続けて放たれた一喝で、戦闘に幕が下ろされた。その直後、シンゼイの側に文官が駆け寄り、重大事を耳打ちする――

「なに……トキタダが、め置いている平氏の使者に接触しただと?」

「はい、この騒ぎの直前に衛兵が、客殿に忍び込むトキタダ殿の姿を見たと申しております」

「おのれ、トキタダ。アントク様の守護といって、朝廷に入り込んでおきながら……やはり平氏の犬だったか」

 吐き捨てる様に、そう言ったシンゼイの視線の先には、安否を気づかい駆け寄ってきたアントクを抱きしめるトキタダの姿があった。

「トキタダ、トキタダ……」

「大丈夫だよ、アントク。怪我はないかい?」

 自分を心配して頬を濡らす皇女に、トキタダは優しく微笑みながら涙を拭ってやる。
 そこにはシンゼイが思う様な、打算的な感情は一切見受けられず、まるで本当の母娘の様な温かさだけがあり――ウシワカとベンケイとはまた異質な、人とツクモ神の結びつきがあった。

 その光景を、シャナオウのコクピットから降りたウシワカが、苦々しく見つめる。そんな彼女の感情を理解しているベンケイは何も言わずに、ただいつもの様に傍らに、そっと寄り添ってやった。



 殺しておかなくては――とまで思った、ウシワカがアントクに抱いた警戒心。

 それは単に少女の気まぐれなどではなく、やがてウシワカとアントクは、共に源平を代表する魔導武者として雌雄を決する事になる――その未来をウシワカは、本能で感じ取っていたのであった。

 それに繋がる、憎しみが憎しみの連鎖となる源平の争い――そのひとつである『平氏都落ち』の時は、ついに明日へと迫っていた。



Act-05 鬼畜の一撃END

NEXT  第5話:白の軍団
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。 スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、 ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。 弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、 満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。 そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは―― 拾ってきた野良の黒猫“クロ”。 だが命の灯が消えかけた夜、 その黒猫は正体を現す。 クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在―― しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。 力を失われ、語ることすら封じられたクロは、 復讐を果たすための契約者を探していた。 クロは瀕死のソラと契約し、 彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。 唯一のスキル《アイテムボックス》。 そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、 弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。 だがその裏で、 クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、 復讐の道を静かに歩み始めていた。 これは―― “最弱”と“最凶”が手を取り合い、 未来をやり直す物語

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

処理中です...