神造のヨシツネ

ワナリ

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第10話:イチノタニの空

Act-02 動乱前史

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「封印されたと聞いておったが……そうか、今はトキワの子と一緒におるのか」

「まあ色々あってね。あなたも元気そうで良かったわ、ナガナリ」

 出会ったばかりの老人をナガナリと呼び、親しげに言葉をかわすベンケイに、ウシワカは目を丸くする。
 もちろんウシワカは、この時点ではこの温和そうな老人が、母の育ての親など知る由もなく、その反応で無理もなかった。

 だが老人は、かつて聞かされた『ベンケイ封印の過去』まで知っているらしく、母の事だけでなく、そこも気になったウシワカは、

「ねえベンケイ、この人誰なの?」

 と、まだ自分を羽交い締めにしたままのツクモ神に、首だけを回して問いかけた。

 その探る様な目付きに、さて何から話すべきかと、少し思案顔になるベンケイを見て、

「ここでは、なんじゃろう。さあさあ、中に入るがよい」

 一条ナガナリは、その気品ある顔立ちに温和な微笑を浮かべ、背後にある自分の屋敷を指差しながら、そう言って助け舟を出した。

 そして、一行がナガナリ邸の客間に落ち着くと――

「うむ。本当にトキワの生き写しのようじゃ……歳は、歳はいくつになった?」

 と、ナガナリは前のめりになりながら、ウシワカの顔をまじまじと見つめると、好々爺そのままに、いきなりそう問いかけた。

「じゅ、十五です」

 勢いに押され、少し困惑気味にウシワカが答えると、

「十五か……」

 ナガナリは感慨深げな呟きを漏らした後、

「トキワがヨシトモ殿と出会った時と、同じ歳じゃな。そうか、そうか……」

 と、ウシワカの父母のなれそめに触れると、一人で納得した様に何度も頷いた。

 母だけでなく父の名まで出て、聞きたい事がさらに増えたにもかかわらず――ナガナリにペースを乱され――まったく先が見えない展開に、ウシワカはたまらず、

「もう、勝手にしゃべってないで、ちゃんと説明してよ!」

 と、ナガナリとベンケイを交互に見ながら、ふくれっ面で率直に抗議した。

 
 その頃、ヘイアン宮の皇帝御座所でも――

「この際だから、ちゃんと説明してくれるかしら? アタシたちには、それを知る権利があるはずよ」

 と、自身の出自を告白した女帝ゴシラカワに向かって、ヨリトモの背後に浮くツクモ神マサコが――自分たち源氏が巻き込まれた――その真相についての説明を要求していた。

 それに不安の色を浮かべる摂政シンゼイを、チラリと見た後、

「いいだろう――」

 と、薄い笑いを浮かべてから、

「私が産まれてすぐ、一条ナガナリのところに捨てられた時……私には双子の弟であるタカクラの他に兄がいた。先々代の帝であるストクだ――」

 ゴシラカワは遠い目をしながら己の、そして惑星ヒノモトの秘事について語り始めた。
 
 ――その内容はこうだ。
 
 時はトバ帝の御代――朝廷はその父である、上皇シラカワの牛耳るところであった。
 シラカワは、トバに皇太子ストクへの譲位を命じ、自身は上皇の上に君臨する者――大上皇を名乗り、幼帝の後見としてさらなる権力の高みへ上りつめようとしていた。

 ここまでなら人の世であれば、さほど珍しい事ではないが、彼らには『いびつな秘密』があった。
 皇帝ストクは、上皇トバの子ではなく――トバの父、大上皇シラカワの種だったのである。

 大政治家であると同時に、大艶福家でもあったシラカワは、息子トバへの譲位に際し、その皇后に自身の愛妾をねじ込んだ――その時すでに、彼女の腹にはストクが宿っていたのであった。

 そしてストクは名目上、皇帝トバの皇太子として育ち、その後トバの種であるトキワとタカクラの双子が誕生しても、ストクの地位は変わらず――やがてシラカワは自身の実子であるストクを即位させ、大上皇となった。

 それに鬱々たる不満を抱いていたトバは、シラカワの崩御により、ようやく上皇として政権を掌握しようとした矢先――なんと自身も病に倒れ、余命いくばくもない状況となった。

 父を同じくする弟を、息子としなければならなかった無念――できる事なら自身の真の息子である、タカクラに皇位を継がせたい。
 その思いを誰よりも理解していたのが――誰あろう、今この御座所にいるシンゼイであった。

 若年よりトバの側近として仕えていたシンゼイは、その崩御後――権力の空白期を突き――朝廷内で『公然の秘事』となっていたストクの出生を弾劾し、皇弟タカクラを擁し武装蜂起した。
 これが、惑星ヒノモトの動乱の幕開けとなる『ホウゲンの乱』であった。

 ここでシンゼイは、ようやく実戦配備が可能になった新型兵器『機甲武者』の開発者、大江おおえのマサフサを取り込み、『太古の天使の魔導兵器』をすべて自陣営に収める事に成功した。

 そして朝廷を取り巻く諸勢力――特に皇帝の支族である源氏と平氏の二大勢力――も、親兄弟、一族が両陣営に分かれ、首都キョウトを舞台に激突した。

 その結果は、全長八メートルの『オーバーテクノロジーロボット』ともいえる機甲武者が戦場を圧倒し、タカクラ陣営の圧勝に終わった。
 そして皇帝ストクは廃位され、新帝タカクラの摂政となったシンゼイが、亡きトバの遺志を継ぎ、惑星ヒノモトに再び安寧をもたらす――はずであった。

 だが――

 朝廷は、新たな権力者となったシンゼイと、それに反感を持つ守旧派が対立。
 平氏は、のちに機甲武者の力で朝廷に代わり、ヒノモトを制圧する事になるたいらのキヨモリが、乱を契機に台頭。
 そして源氏は、ストク陣営についた父タメヨシと弟ヨシカタを討った、みなもとのヨシトモが相対的にその勢力を弱めていた。

 こうして『ホウゲンの乱』は、ヒノモトに動乱の火種を残すだけの結果となったが――実はそこには、乱を裏から動かした黒幕の存在があった。

 それは、大上皇シラカワの寵愛を受け不義の子ストクを宿し、皇帝トバの皇后になってからトキワとタカクラの双子を世に産み落とした者――

 
「ちょっと待って、それって⁉︎」

 女帝の一人語りに、きな臭さを感じたマサコがたまらず口を挟む。

「フフフッ」

 それにもゴシラカワは薄笑いを浮かべた後、

「そうだ……それは私の母であり、トバ帝の皇后にして、すべての動乱の元凶となった女――それがこいつだ!」

 そう言うなり立ち上がると、自身の上にかかった御簾を力まかせに引きずり落とした。

「――――!」

 あらわになる玉座の上のはり――そこに埋め込まれた『異形の怪物』を目にしたヨリトモとマサコは、驚きのあまり声を失った。

 そしてヨリトモを守護するべく、すかさずマサコが前に出ようとすると、

「案ずるな……今はまだ封印されている」

 と、ゴシラカワはやつれた顔に苦笑を浮かべながら、それを制した。

 美しい顔立ちながら、狐の耳と九本の尾を携え、裸形の全身から怨嗟を放つ、彫像のごとき女体。

 その異形を指差しながら、

「ヨリトモ……心して聞け。忌まわしき我が母『タマモノマエ』――こ奴こそが、我らが倒すべき真の敵だ!」

 ゴシラカワはそう言って、ヨリトモの目を真っすぐ見つめた。



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