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第12話:決戦ダンノウラ
Act-10 魔導武者ならざる者
しおりを挟む首都キョウト、源氏軍本拠地ロクハラベース――
最果ての西海、ダンノウラで源平が激戦を繰り広げている頃、東王であり源氏棟梁である源ヨリトモは、ここで戦勝の報告を待ち続けていた。
タマモノマエのゴトバ帝としての践祚から、わずか数日で覆された西方戦線。
先帝ゴシラカワは、タマモの復活と同時にヨリトモに東方への帰還を指示したが、彼女はロクハラから動かなかった。
それは西海に派遣した平氏討伐軍の後詰めを果たすという意味もあったが、朝廷に残った今や同志である摂政シンゼイの、
――タマモノマエは、完全に復活はしていない。
という密書が、ヨリトモにキョウトに踏みとどまる事を決意させたのだ。
惑星カラより飛来した天使、タマモノマエ。
もし彼女が完全復活すれば、強大なる神の力により、この星の人類は蹂躙されるはずであった。
だが、ゴシラカワによる封印が解けたとはいえ、ヒノモトに飛来した時点で、異星での争乱により力を弱めていたタマモは、まだ力を取り戻せていない事が判明した。
とはいえ、木曽軍のフクハラ戦で起こした日食や、ヘイアン宮の魔導結界を停止させた神通力は、それでも脅威であった。
加えて源氏軍が苦難の末に落とした西方を、人心を巧みに惑わす情報戦略で朝廷の傘下に収めたその政治力は、『ホウゲンの乱』を起こした時と変わらぬ恐ろしさを持っていた。
――今、キョウトを退去すれば、首都を完全掌握される。
ヨリトモは時局をそう読んだ。
もしタマモが、天使の力にまかせた制圧戦を仕掛けてこないのなら、戦いは政治戦となる。
その証拠にタマモは帝として、ヨリトモにヘイアン宮への参内を要請してきた。
もちろん拒絶したが、闇討ち同然に自身を葬らんと企てた事は明白である。
ならば完全復活まで、まだつけ込む隙はあるはず。
ヨリトモはツクモ神マサコと協議の上、キョウト残留を決めた。
まさにヨリトモにとって、今は二つの正念場であった。
対朝廷戦であるタマモノマエとの睨み合い。そして仇敵、平氏との最終決戦であるダンノウラの戦い。
東王即位の効果でヤシマの戦勝以後、新たに傘下に入った水軍を、ヨリトモは増援としてダンノウラに送り込んだ。
おそらく艦隊規模としては平氏軍と互角、もしくはそれ以上となっているはずである。
朝廷が敵となった今、ヨリトモとしてはここで、平氏の息の根を止めておきたかった。
もはや源平和合の夢は捨てた。彼女が目指すのは源氏一統である。
そして始まった、平氏との乾坤一擲の大勝負。
だが、そのダンノウラの戦況がまったく分からないのであった。
梶原カゲトキ率いる、遠征軍との通信が途絶した。
理由の見当はついている。タマモノマエの神通力による妨害であろう。
「マサコ……ダンノウラは――」
「大丈夫、源氏は勝つわ。それよりも、私たちは次の事を考えましょう」
司令室に二人きりのため、思わず不安を吐露したヨリトモの言葉を遮り、マサコはそう言った。
「次……」
「あなたは源平の次の時代を作る者。平氏を制した後の、次の相手はタマモノマエ――私たちは、神を相手にするのよ」
様々な葛藤の末に、ヨリトモが選んだ道。それをマサコが、教え諭す様に再確認させる。
「マサコ……」
「なあに?」
ひどく決意に満ちたヨリトモの顔。それを察したマサコが、あえて優しい目で次の言葉を促した。
「私は……魔導武者ではない」
今さらの事実。源ヨリトモという女は、天使の直系たる皇帝の支族――源氏の棟梁ながら、魔導適性を持たなかった。
魔導適性がなければ機甲武者は操れない。どころか旧来の魔導攻撃も行えない。
それは武の一門の棟梁としては、致命的な負い目であった。
事実ヨリトモは、これまでそのために受けた様々な屈辱を、ツクモ神マサコに支えられながら耐え抜き、鍛え上げた人間としての胆力で、ここまで上りつめてきた。
「そうね……」
それを痛いほど理解しているからこそ、マサコも短くそう答えた。
「私はタマモノマエ――神の眷属である天使と戦う……『一人の人間』として」
「――――!」
人間として――ヨリトモの言葉に、マサコは目を見張った。
「朝廷、源氏、平氏――始祖アマテラスから続く、天使の力を受け継ぐ魔導武者。だが、それはこのヒノモトに生きる人間の、ほんの一握りに過ぎない」
ヨリトモの言葉は続く。
「この大地に生きる多くの民は、私と同じ『ただの人間』だ。私はその人間を統べる者として――人間として源氏を率いていきたい」
「ヨリトモ……」
主ながらこれまで娘の様に、妹の様に思っていた一人の人間が発した決意に、ツクモ神たるマサコは思わず胸が熱くなった。
「私は魔導武者ではなく、人間の世を作る。そのために非情な決断もした……」
振り絞る様な声で、ヨリトモは言葉を繋いでいく。
「私はウシワカの様に神器を使えない。それでもマサコ……私を『クサナギの剣の主』としてではなく『一人の人間』として、これからも支えてくれないか?」
源氏の始祖が、アマテラスより託された神器クサナギの剣。それに宿りしツクモ神に、新たな世の統率者は、神の器ではなく人の世のために生きてくれと願い出た。
「ウフフッ」
「マサコ?」
突然、笑い声を上げたマサコを、ヨリトモが訝しむ。
「何を言うかと思えば……アタシはクサナギの剣のツクモ神。すなわち源氏のツクモ神よ」
マサコは微笑んだまま、そう言ってヨリトモの目を見つめた。
「ヨシトモ、タメヨシ、その前の棟梁たちも……不器用だったけど皆、民を思い己の信じた『義』を貫いたわ。それが源氏よ」
一族相克の血塗られた歴史を持つ源氏。だがそれでも真摯に生きた歴代棟梁たちを懐かしむ様に、マサコはそう言うと、
「アタシはずっとそれを支えてきた。だからヨリトモ――あなたがそう信じたなら、アタシはその『義』をこれからも支えていくだけよ」
と、ヨリトモの思いを受けとめ、魔導武者ならざる者たちのために生きる事を宣言した。
「ありがとう、マサコ」
そう言うと、不意にヨリトモは西の方角に目をやった。
その視線の先には、見えるはずのない妹の姿が映っていた。
(ウシワカ、私を……お姉ちゃんを許して……)
目を開いたまま、こぼれ落ちる涙。
その涙の理由を知るマサコは、かける言葉が見つからないまま、そっと目を閉じた。
Act-10 魔導武者ならざる者 END
NEXT Act-11 タマモ暗躍
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