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胸に残る感情(御園視点)
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ここ最近、遊沙の様子が変だった。
彼はどうやらオレの知らない人と度々連絡を取っているらしい。
それに彼は生活が困窮しているから、バイトを休むことなんてあの暴行事件以外にはなかったのに、この前の休日は丸々休んだのだ。それがその誰かとのやり取りの後だったのは、きっと偶然ではないだろう。
遊沙にそれとなく聞いてみても、知り合いだとか同級生だとか言われてはぐらかされてしまった。遊沙の知り合いは大体把握しているし、オレの知っている知り合いなら彼もそう言うだろう。
そうじゃないということは、オレの知らない誰かなのは明白だ。
……女の子、なのかな。
胸の奥がずきりと痛む。
遊沙はオレと違って普通だから、きっと女の子を好きになるのだろう。オレにとって遊沙は大事な人だけど、だからといって、いや、だからこそ彼を困らせたくない。告白するのだってオレの勇気が整えばいつでも出来た。でもしなかった。出来なかった。普通の恋愛をしたいのに突然男から告白されて、しかも遊沙は優しいから断りづらくもあるだろう。
オレの我が儘で彼の顔を曇らせるのは気が引けた。
聞いてみようかな、とも思ったけれど、言いたくないことを無理に聞き出そうとするのは印象が悪いだろう。
……はあ、本当嫌になる。オレにもうちょっと勇気があれば、こんなに悩むことなんてないのに。フラれようが何だろうがアタックしただろう。
女の子にはすぐに告白できたし、デートのお誘いとかLINEとか、超積極的だったのになあ。いつの間にこんなに臆病になってしまったのか。
「どしたの、御園」
そんな悩みのタネはこちらの気持ちなど全く気付いていなかった。オレが悩んでいるのが珍しいのか、顔を覗き込んでくる。憎らしいが、オレを心配してくれる彼はとても可愛かった。抱きしめたくなる気持ちをぐっと堪えて、
「何でもなーい」
遊沙に向かって冗談っぽく笑う。絶対叶わないかもしれないこの思いよりも、友人として大切にされる方を優先しよう。
「それより飯食いに行こうぜ。オレの奢りでもいい」
オレが誘うと、遊沙は嬉しそうにした。表情はあまり変わらないが、これだけ一緒にいると見えない感情も分かるようになってくる。
彼は家では碌なものを食べていない。安いもやしを大量に買っては『もやしマジック』とか言ってひたすら料理をかさ増ししている。学食は比較的安い値段で食べられるが、それでも一番安い定食やらラーメンやらを頼んでいる。だからオレは、時々こうやって奢っていた。彼は「御園に利益がない」と気にしているようだが、オレとしては飯を美味しそうに食べる彼を眺められるだけで幸せで、学食代なんて安いものだった。当然彼には言わないが。
「好きなの頼めよ」
一番高いのでも問題ない。そう思っていたオレに、遊沙はそれほど高くないものを頼んだ。一瞬遠慮したのかと思ったが、内容を見てそうではないと分かった。彼が頼んだのは「大根おろし柚子うどん」とトッピングのエビフライだった。遊沙は柑橘系やあっさりしたものが好きで、あまりに脂っこいものは嫌いなのだった。
オレも同じものを注文して、盆を持って席に着く。
遊沙が食べ始めるのを待ってから箸をつけた。
しばらく無言で食べて、それから他愛もない話をする。その合間に、土日にどこに行っていたかだけでも聞いてみることにした。さりげなさを装う。遊沙は少し考えて、「山登り」と答えた。……生活を支えるために必要なバイトも休んで行くほど、大切な山登りだったのだろうか。
やっぱり聞かなきゃ良かった。また暗い気持ちになってしまった。「ふーん」と生返事をして、無言でうどんを啜る。遊沙は先に食べ終わって、鞄をごそごそし始めた。それが止んだと思うと、俯いていたオレの視界に何かが差し出される。
顔を上げると、それは小さな包みだった。
「これ、お礼。心配してくれたり、お見舞い来てくれたり、ありがとう」
「えっ」
そのたった一言で、オレの暗い気持ちは晴れていく。お礼だなんて、想像もしていなかった。開けてみると、中にはかなり前にオレがポツリと欲しいと言った、シンプルながら気品のあるイヤーカフが入っていた。
オレが欲しがっていたの、覚えていてくれたのか。さっきまでの悩みはどこへやら、愛おしさと嬉しさで胸がいっぱいになった。
「御園は買ったらすぐ話してくれるし、絶対着けてくるはずだから、まだ買ってないかなと思って」
確かにまだ買っていなかった。イヤーカフにしてはそれなりの値段がして、買うのを躊躇っている内に忘れてしまっていたからだ。
ただでさえ生活が苦しいのに、オレのためにこれを買ってくれるなんて。申し訳なさもあるけど、遊沙がオレを気にかけてくれているという事実が嬉しくて、その気持ちが勝った。
オレが欲しかったオレ好みのものを、オレの行動を見てオレが買ってないと判断して、自分の少ない財産を割いて買ってくれた。こんなに嬉しいことがあるだろうか。
「うわ、超嬉しい! 大事にする!」
オレは早速耳につけてみた。
「どう? 似合う?」
「うん。銀色と金色があって、迷ったけどそれにして良かった」
遊沙も心なしか嬉しそうだ。なんだこの天使は。
連絡している相手がどんな女性だったとしても、友人としてはオレが一番大事にされているのならそれでもいいか。オレはうどんの残りを啜った。
伸びてしまったうどんは、何故だかさっきよりずっと美味しい味がした。
彼はどうやらオレの知らない人と度々連絡を取っているらしい。
それに彼は生活が困窮しているから、バイトを休むことなんてあの暴行事件以外にはなかったのに、この前の休日は丸々休んだのだ。それがその誰かとのやり取りの後だったのは、きっと偶然ではないだろう。
遊沙にそれとなく聞いてみても、知り合いだとか同級生だとか言われてはぐらかされてしまった。遊沙の知り合いは大体把握しているし、オレの知っている知り合いなら彼もそう言うだろう。
そうじゃないということは、オレの知らない誰かなのは明白だ。
……女の子、なのかな。
胸の奥がずきりと痛む。
遊沙はオレと違って普通だから、きっと女の子を好きになるのだろう。オレにとって遊沙は大事な人だけど、だからといって、いや、だからこそ彼を困らせたくない。告白するのだってオレの勇気が整えばいつでも出来た。でもしなかった。出来なかった。普通の恋愛をしたいのに突然男から告白されて、しかも遊沙は優しいから断りづらくもあるだろう。
オレの我が儘で彼の顔を曇らせるのは気が引けた。
聞いてみようかな、とも思ったけれど、言いたくないことを無理に聞き出そうとするのは印象が悪いだろう。
……はあ、本当嫌になる。オレにもうちょっと勇気があれば、こんなに悩むことなんてないのに。フラれようが何だろうがアタックしただろう。
女の子にはすぐに告白できたし、デートのお誘いとかLINEとか、超積極的だったのになあ。いつの間にこんなに臆病になってしまったのか。
「どしたの、御園」
そんな悩みのタネはこちらの気持ちなど全く気付いていなかった。オレが悩んでいるのが珍しいのか、顔を覗き込んでくる。憎らしいが、オレを心配してくれる彼はとても可愛かった。抱きしめたくなる気持ちをぐっと堪えて、
「何でもなーい」
遊沙に向かって冗談っぽく笑う。絶対叶わないかもしれないこの思いよりも、友人として大切にされる方を優先しよう。
「それより飯食いに行こうぜ。オレの奢りでもいい」
オレが誘うと、遊沙は嬉しそうにした。表情はあまり変わらないが、これだけ一緒にいると見えない感情も分かるようになってくる。
彼は家では碌なものを食べていない。安いもやしを大量に買っては『もやしマジック』とか言ってひたすら料理をかさ増ししている。学食は比較的安い値段で食べられるが、それでも一番安い定食やらラーメンやらを頼んでいる。だからオレは、時々こうやって奢っていた。彼は「御園に利益がない」と気にしているようだが、オレとしては飯を美味しそうに食べる彼を眺められるだけで幸せで、学食代なんて安いものだった。当然彼には言わないが。
「好きなの頼めよ」
一番高いのでも問題ない。そう思っていたオレに、遊沙はそれほど高くないものを頼んだ。一瞬遠慮したのかと思ったが、内容を見てそうではないと分かった。彼が頼んだのは「大根おろし柚子うどん」とトッピングのエビフライだった。遊沙は柑橘系やあっさりしたものが好きで、あまりに脂っこいものは嫌いなのだった。
オレも同じものを注文して、盆を持って席に着く。
遊沙が食べ始めるのを待ってから箸をつけた。
しばらく無言で食べて、それから他愛もない話をする。その合間に、土日にどこに行っていたかだけでも聞いてみることにした。さりげなさを装う。遊沙は少し考えて、「山登り」と答えた。……生活を支えるために必要なバイトも休んで行くほど、大切な山登りだったのだろうか。
やっぱり聞かなきゃ良かった。また暗い気持ちになってしまった。「ふーん」と生返事をして、無言でうどんを啜る。遊沙は先に食べ終わって、鞄をごそごそし始めた。それが止んだと思うと、俯いていたオレの視界に何かが差し出される。
顔を上げると、それは小さな包みだった。
「これ、お礼。心配してくれたり、お見舞い来てくれたり、ありがとう」
「えっ」
そのたった一言で、オレの暗い気持ちは晴れていく。お礼だなんて、想像もしていなかった。開けてみると、中にはかなり前にオレがポツリと欲しいと言った、シンプルながら気品のあるイヤーカフが入っていた。
オレが欲しがっていたの、覚えていてくれたのか。さっきまでの悩みはどこへやら、愛おしさと嬉しさで胸がいっぱいになった。
「御園は買ったらすぐ話してくれるし、絶対着けてくるはずだから、まだ買ってないかなと思って」
確かにまだ買っていなかった。イヤーカフにしてはそれなりの値段がして、買うのを躊躇っている内に忘れてしまっていたからだ。
ただでさえ生活が苦しいのに、オレのためにこれを買ってくれるなんて。申し訳なさもあるけど、遊沙がオレを気にかけてくれているという事実が嬉しくて、その気持ちが勝った。
オレが欲しかったオレ好みのものを、オレの行動を見てオレが買ってないと判断して、自分の少ない財産を割いて買ってくれた。こんなに嬉しいことがあるだろうか。
「うわ、超嬉しい! 大事にする!」
オレは早速耳につけてみた。
「どう? 似合う?」
「うん。銀色と金色があって、迷ったけどそれにして良かった」
遊沙も心なしか嬉しそうだ。なんだこの天使は。
連絡している相手がどんな女性だったとしても、友人としてはオレが一番大事にされているのならそれでもいいか。オレはうどんの残りを啜った。
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