憂いの空と欠けた太陽

弟切 湊

文字の大きさ
79 / 142

遊園地の話Ⅰ(有栖視点)

しおりを挟む
「アンタ、ただでさえ目立つんだからもっとマシな格好出来なかったのか?」

俺に向かってそう言ったのは、癖のある灰髪の男。その口調から何から完璧なまでに不貞不貞しいそいつは、俺がこの世で一番会いたくない男だった。出来ることなら今すぐこの場を離れたい。そして遊沙と一緒にいたい。

恐らくそれは相手も同じだろう。

それが何故こんなことになっているかというと、それは少し前に遡る。



『遊園地?』

俺と遊沙が同時に首を傾げているのを面白そうに見ながら、冴木が頷く。

『そう、遊園地。遊沙くんはどうか分からないけど、有栖は行ったことがないだろう? ここ最近、あの騒動でバタバタしていたし、心的にも疲れたと思うんだ。そこで、遊園地で遊ぶのはどうかなって』

彼は柔らかく微笑んでそう提案してきた。これは遊沙と俺とのデートという訳ではなく、あくまで家族旅行的なものらしい。こういう所は人数が多いほど楽しいので、誰でも誘って良いとのことだ。
もちろん俺には誘う人間などいないので、遊沙と合法的にデート出来るということに浮かれ、その遊沙の方に誘う人間がいる可能性を考えもしなかった。

『もし行くなら、冴木さんは誰か誘うんですか?』

遊沙の質問に、冴木は、

『ああ、一人ね』

と何処か嬉しそうに言った。彼が時たま連絡を取っていた誰かを誘うつもりなのだろう。冴木が誰か連れてくるなら、それはもはやダブルデートと言っても過言ではない。ちょっとした口実で彼らと二手に分かれれば、互いに幸せというものだ。

『良いんじゃないか?』

当日の算段をしっかりと立てた俺は、行く気満々なのがバレないように返事をした。遊沙も冴木も異論はない様なので、平日で行ける日を探して各々のスケジュールを調整する。
せっかく行くのだし、完璧に楽しんで帰りたい。下調べは入念にしなければ。水族館でも喜んでもらえたし、今度もちゃんと楽しんでもらいたい。
俺は万全を期すため、行きつけの美容院に行って髪を黒く染めてもらった。髪型は変えずに色だけを変えたのだが、それだけでかなり目立たなくなる。髪の長さだけでなく、色まで遊沙とお揃いなのは心が躍った。
遊園地は平日でも人が多いようなので、万が一面倒なことになったり、遊沙との時間を邪魔されたりしないように目立たない感じで行きたい。

そんなこんなで上から下まで真っ黒の、オフの日の韓国アイドルみたいな、なおかつ遊沙と兄弟っぽい服装で当日を迎えたのだが。

そんな俺を待っていたのは、一生会いたくないと思っていた男だった。遊沙の手前双方にこやかに過ごしているが、影で足を引っ張り合っているのは言うまでもない。
遊沙に悪気がないのは分かっているが、やはりこういうことをしてしまうのは彼に恋愛感情がないからだろうか。もし俺に恋愛感情を抱いているなら、その他の男なんて眼中にないはずだし、誘おうとも思わないだろう。

冴木が誰かを誘っても良いよと言ったので、友達とワイワイしたいと思って呼んだのだろうが俺としては複雑だ。俺とあの男がモデルとファンとして仲が良いと勘違いしているのもあるかもしれない。実際は逆なのだが。
一方のあいつは「意図せずデートを邪魔してやったぜ」と勝ち誇ったような笑みを浮かべている。実に腹立たしい。

冴木が連れてきたのは何処かで見たことがある男で、連絡していた相手は女性ではなかったのかと少し驚いた。冴木の紹介で、彼がいつか遊沙を診てくれた医者であり、今では冴木の良き相談相手であることを知った。名前は可香谷というらしい。
可香谷は俺や遊沙をちらちらと見ていたが、特に何も言うことなく冴木の近くに留まった。

そして現在、遊沙はトイレに行き、冴木はチケットを買いに行き、可香谷は何処かへ姿を消し――。
結果的に俺とこの不貞不貞しい男だけが取り残される羽目になってしまったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました

キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。 けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。 そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。 なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」 それが、すべての始まりだった。 あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。 僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。 だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。 過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。 これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。 全8話。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

今日も、社会科準備室で

下井理佐
BL
内気で弱気な高校生・鈴山夏芽(すずやまなつめ)は、昼休みになると誰もいない社会科準備室でこっそりと絵を描いていた。 夏芽はいつものように社会科準備室を開ける。そこには今年赴任してきた社会科教室・高山秋次(あきつぐ)がいた。 新任式で黄色い声を受けていた高山がいることに戸惑い退室しようとするが、高山に引き止められる。 萎縮しながらも絵を描く夏芽に高山は興味を持ち出し、次第に昼休みが密かな楽しみになる。

天の求婚

紅林
BL
太平天帝国では5年ほど前から第一天子と第二天子によって帝位継承争いが勃発していた。 主人公、新田大貴子爵は第二天子派として広く活動していた亡き父の跡を継いで一年前に子爵家を継いだ。しかし、フィラデルフィア合衆国との講和条約を取り付けた第一天子の功績が認められ次期帝位継承者は第一天子となり、派閥争いに負けた第二天子派は継承順位を下げられ、それに付き従った者の中には爵位剥奪のうえ、帝都江流波から追放された華族もいた そして大貴もその例に漏れず、邸宅にて謹慎を申し付けられ現在は華族用の豪華な護送車で大天族の居城へと向かっていた 即位したての政権が安定していない君主と没落寸前の血筋だけは立派な純血華族の複雑な結婚事情を描いた物語

【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。

キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、 ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。 国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚―― だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。 顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。 過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、 気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。 「それでも俺は、あなたがいいんです」 だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。 切なさとすれ違い、 それでも惹かれ合う二人の、 優しくて不器用な恋の物語。 全8話。

どうしてこんな拍手喝采

ソラ
BL
ヤクザ×高校生

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

契約満了につき

makase
BL
仮初めの恋人として契約を結んだ二人の、最後の夜。

処理中です...