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キス
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(前書き)
タイトルで分かるかと思いますがキスシーンがありますので苦手な方は慎重に読んでください。
―――――――――†
小さいときは平気だったのに、大きくなった今では怖くなってしまった高所。きっと落ちたらどうなるかとか余計な想像しちゃうから怖いんだろうな。小さいときは何も考えないで行動するから平気だったんだろうけど。
怖がる僕を心配して、有栖が後ろから抱きしめてくれた。おかげで恐怖心よりも安堵感の方が強くなる。
ありがとうという気持ちを込めて有栖の頭をそっと撫でる。絹糸みたいな桜色の髪は(今は黒だけど)、何度触っても触り心地が良い。
有栖が僕のうなじに顔を埋めてきて、少しくすぐったかった。これはいつものことといえばいつもの事なので、若干慣れてはきているが、それでもくすぐったいものはくすぐったい。
それを彼に言うと、彼は渋々といった感じで顔を上げた。上げたが、代わりに体を猛烈な力で締め上げられた。
「お、折れる……し、内臓出る……」
冗談じゃなく本当に。体が大きいからかプレス機みたいに力が強いんだから。
「わ、悪い……」
有栖ははっとした様子で腕を緩めた。呼吸すらも一瞬止まった僕は、有栖にバレないように静かに深呼吸する。これ以上気を遣わせたくはない。
僕を離した有栖はそれからしばらくそわそわして、決意したように切り出した。
「なあ、遊沙」
「ん、どうしたの?」
「その……キ、キ、キスして良いか?」
「え」
僕が有栖の膝の上で身を捩って彼の顔を見ると、彼は耳まで真っ赤にしてそっぽを向いていた。さっきから挙動が怪しいのは、これをいつ言おうかどうしようかともだもだしていたからだろうか。
きっと僕が嫌がるからと思って切り出すのを躊躇していたのだろう。
ここは上空にある密室で、連絡手段はポケットの中のスマホしかない。キスよりもっと上のこともしようと思えば出来るし、僕が嫌がったって無理矢理することだって出来る。何をしたって逃げられないし助けも呼べないのだから。
だから、キスなんて許可を取らなくてもすることが出来るのに、わざわざ僕に聞いて僕が嫌なことはしないようにしてくれている。そこまで僕のことを考えてくれている人の小さな願いを無下にすることは、僕には到底出来なかった。それに、有栖と一緒にいる内にいろいろなことにも慣れてきたし、”キスくらいならいいんじゃないか”と僕自身も驚くような考えも出てきている。
もちろん相手が有栖だからだけれど。
「何処に?」
僕は有栖に聞いてみた。有栖はしばらく悩んだ後、
「頬に」
と答えた。
頬か。頬だったら断る理由もないかな。人生で初めてのキスが口というのはちょっとハードルが高いから。
「うん、良いよ」
「…………本当か? 無理してないか?」
「大丈夫。有栖だったら……大丈夫」
「!」
有栖は短く息を吸って、驚いたような顔をした。眼球を左右に揺らして動揺している。
それから目を閉じて呼吸を落ち着かせようとした。
僕が良いよって言ったことが意外だったのかな。断られると思っていたのかもしれない。前の僕だったら断ってしまっていただろうし。
やっと落ち着いたらしい彼は、その綺麗な顔を僕の方に寄せてきた。長い睫毛に縁取られた切れ長の瞳や染み一つない肌を間近で見るのがいたたまれなくなって、僕はぎゅっと目を瞑る。
そんな僕の頬に、何か柔らかい物がこつんと当たる。それが啄むように少し動いたかと思うと、有栖の顔が離れていった。
「した?」
「した」
思っていたよりもずっと軽くて、僕は拍子抜けしてしまった。これくらいなら、別にいつもして貰っても大丈夫なんじゃないだろうか。そう思っていると、
「なあ、もう一回してもいいか?」
有栖がそんな提案をしてきた。
「また頬?」
「いや、首とかうなじとか」
彼は声を小さくしながら言った。…………今くらいのなら全然大丈夫な気がする。ちょっと考えて、
「今くらいのだったら、有栖が満足するまで何回でもしていいよ。口はちょっとまだ駄目だけど」
そんなことを言った僕を、有栖は押し黙って見た。薄茶の瞳には何かを煮詰めたような暗い感情が渦巻いていて、それを僕から隠すように彼は僕の首に顔を埋めた。
しばらくしてチクリと小さな痛みが走る。驚いた僕は何をしたのか聞いたが、ただキスをしただけと言われた。
タイトルで分かるかと思いますがキスシーンがありますので苦手な方は慎重に読んでください。
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小さいときは平気だったのに、大きくなった今では怖くなってしまった高所。きっと落ちたらどうなるかとか余計な想像しちゃうから怖いんだろうな。小さいときは何も考えないで行動するから平気だったんだろうけど。
怖がる僕を心配して、有栖が後ろから抱きしめてくれた。おかげで恐怖心よりも安堵感の方が強くなる。
ありがとうという気持ちを込めて有栖の頭をそっと撫でる。絹糸みたいな桜色の髪は(今は黒だけど)、何度触っても触り心地が良い。
有栖が僕のうなじに顔を埋めてきて、少しくすぐったかった。これはいつものことといえばいつもの事なので、若干慣れてはきているが、それでもくすぐったいものはくすぐったい。
それを彼に言うと、彼は渋々といった感じで顔を上げた。上げたが、代わりに体を猛烈な力で締め上げられた。
「お、折れる……し、内臓出る……」
冗談じゃなく本当に。体が大きいからかプレス機みたいに力が強いんだから。
「わ、悪い……」
有栖ははっとした様子で腕を緩めた。呼吸すらも一瞬止まった僕は、有栖にバレないように静かに深呼吸する。これ以上気を遣わせたくはない。
僕を離した有栖はそれからしばらくそわそわして、決意したように切り出した。
「なあ、遊沙」
「ん、どうしたの?」
「その……キ、キ、キスして良いか?」
「え」
僕が有栖の膝の上で身を捩って彼の顔を見ると、彼は耳まで真っ赤にしてそっぽを向いていた。さっきから挙動が怪しいのは、これをいつ言おうかどうしようかともだもだしていたからだろうか。
きっと僕が嫌がるからと思って切り出すのを躊躇していたのだろう。
ここは上空にある密室で、連絡手段はポケットの中のスマホしかない。キスよりもっと上のこともしようと思えば出来るし、僕が嫌がったって無理矢理することだって出来る。何をしたって逃げられないし助けも呼べないのだから。
だから、キスなんて許可を取らなくてもすることが出来るのに、わざわざ僕に聞いて僕が嫌なことはしないようにしてくれている。そこまで僕のことを考えてくれている人の小さな願いを無下にすることは、僕には到底出来なかった。それに、有栖と一緒にいる内にいろいろなことにも慣れてきたし、”キスくらいならいいんじゃないか”と僕自身も驚くような考えも出てきている。
もちろん相手が有栖だからだけれど。
「何処に?」
僕は有栖に聞いてみた。有栖はしばらく悩んだ後、
「頬に」
と答えた。
頬か。頬だったら断る理由もないかな。人生で初めてのキスが口というのはちょっとハードルが高いから。
「うん、良いよ」
「…………本当か? 無理してないか?」
「大丈夫。有栖だったら……大丈夫」
「!」
有栖は短く息を吸って、驚いたような顔をした。眼球を左右に揺らして動揺している。
それから目を閉じて呼吸を落ち着かせようとした。
僕が良いよって言ったことが意外だったのかな。断られると思っていたのかもしれない。前の僕だったら断ってしまっていただろうし。
やっと落ち着いたらしい彼は、その綺麗な顔を僕の方に寄せてきた。長い睫毛に縁取られた切れ長の瞳や染み一つない肌を間近で見るのがいたたまれなくなって、僕はぎゅっと目を瞑る。
そんな僕の頬に、何か柔らかい物がこつんと当たる。それが啄むように少し動いたかと思うと、有栖の顔が離れていった。
「した?」
「した」
思っていたよりもずっと軽くて、僕は拍子抜けしてしまった。これくらいなら、別にいつもして貰っても大丈夫なんじゃないだろうか。そう思っていると、
「なあ、もう一回してもいいか?」
有栖がそんな提案をしてきた。
「また頬?」
「いや、首とかうなじとか」
彼は声を小さくしながら言った。…………今くらいのなら全然大丈夫な気がする。ちょっと考えて、
「今くらいのだったら、有栖が満足するまで何回でもしていいよ。口はちょっとまだ駄目だけど」
そんなことを言った僕を、有栖は押し黙って見た。薄茶の瞳には何かを煮詰めたような暗い感情が渦巻いていて、それを僕から隠すように彼は僕の首に顔を埋めた。
しばらくしてチクリと小さな痛みが走る。驚いた僕は何をしたのか聞いたが、ただキスをしただけと言われた。
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