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朝が来て
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僕が目を覚ますと、もう冴木さんと有栖は起きて自分たちの布団を片付けていた。2人とも流石の目覚めの良さだ。
昨日は何だか暑苦しかった気がするけど、疲れていたせいかあまりよく覚えていない。
「あ、おはよう遊紗くん」
冴木さんがにこやかに話しかけてきた。この人は朝から爽やかだ。心做しかいつもより元気に見える。僕は布団から出て片付けを始めつつ、挨拶を返した。
有栖にも挨拶をすると、
「……お、おはよ」
僕の顔を見るなり真っ赤になってそっぽを向いてしまった。
「?」
何か照れさせるようなことをしただろうか。それか、もしや自分の格好がおかしいのでは、と体を見下ろした。しかし、別に何ということもなく、ただ少し胸元がはだけていただけだった。
これで赤くなったのだとしたら、有栖は案外ウブなのかもしれない。
僕が言えたことじゃないけど、彼は忙しいから恋愛経験なさそうだし。
浴衣をそっと着直してから布団を片付け終えると、顔を洗うために洗面台に向かった。顔を洗って拭いて、変なところがないか鏡を見る。
…………。
わぁ……なんかすごい歯型付いてる……。
それに、虫刺されみたいなのもいっぱいある。前の僕だったらこれだけ刺されたのに痒くないんだなとか思ったんだろうけど、有栖にキスされるようになってからはこれがどういうものなのか一目で分かってしまった。
なるほど、それで赤面してたのか。それ以外に変わったところはないし、それ以上の事はされてないと思うけど。
部屋に戻ると未だにほんのり赤い有栖が、そわそわと落ち着きなさそうに座っていた。そっと有栖の横に座ると、彼がより一層わたわたする。冴木さんはそれを見て可笑しそうに笑いつつ、僕の首にさりげなくタオルをかけてくれた。
落ち着かない有栖から色んな跡を隠そうとしているのかと思ったけど、違った。
部屋の外から「失礼します」と声が聞こえて、旅館の人達が入ってきた。朝ご飯を持ってきてくれたらしい。
冴木さんはこの人たちから隠そうとしてくれたみたいだ。
……確かに男しかいない部屋でそんな跡付いてたら変な想像をされかねない。何も言わないだけで旅館の人は有栖のこと知ってるかもしれないし、僕や有栖の名誉のために隠してくれたのだろう。本当は彼がそこまで気を遣わなくてもいい時代になれば喜ばしいのだけど。
いつものことながら気遣いの鬼だなと思う。マネージャーっていうのもあるけど、こればかりは冴木さんの根っからの性格な気がする。
用意された朝ご飯は小ぶりな川魚の塩焼きと、きのこの味噌汁と山菜炊き込みご飯だった。量も多すぎず少なすぎず、器も綺麗で全てにおいて品が良い。
この美味しいご飯を食べて落ち着いたのか、有栖の顔色も正常に戻っている。
昨日のご飯は鹿肉を味噌に漬けて大葉で包んで焼いたものがメインだったけど、あれも本当に美味しかった。
暇があれば、ご飯だけでも食べにまたここに来たいくらいだ。
「美味いか?」
有栖が僕の顔を見てくくっと笑いながら聞いてきた。口元を隠しながらにやにやしている。顔にご飯粒とか付いているのかもしれないと思って口元を拭いたけれど、有栖はその表情のままだった。
「うん。……有栖は?」
「こんなの美味いに決まってる。まあ、俺は遊沙の作る飯の方が――」
彼は言いかけて、冴木さんがにこにこしているのを見てはっと口をつぐんだ。先程の余裕の表情は何処へやら、顔がみるみる赤くなっていく。親代わりの人の前でそんなことを言ってしまって恥ずかしかったのだろう。僕は素直に嬉しいけれど。
冴木さんはクスクスと笑いつつ食事を堪能している。
「遊沙くんは食事をとても美味しそうに食べるから、一緒に食べると倍美味しいね。ね? 有栖」
「そ、そうだな」
ああ、有栖がにやにやしていたのは僕の表情のせいか。よほど幸せそうな顔をしてしまっていたのだろう。
有栖は冴木さんのフォローに頷きつつ、咳払いして食事を再開した。
昨日は何だか暑苦しかった気がするけど、疲れていたせいかあまりよく覚えていない。
「あ、おはよう遊紗くん」
冴木さんがにこやかに話しかけてきた。この人は朝から爽やかだ。心做しかいつもより元気に見える。僕は布団から出て片付けを始めつつ、挨拶を返した。
有栖にも挨拶をすると、
「……お、おはよ」
僕の顔を見るなり真っ赤になってそっぽを向いてしまった。
「?」
何か照れさせるようなことをしただろうか。それか、もしや自分の格好がおかしいのでは、と体を見下ろした。しかし、別に何ということもなく、ただ少し胸元がはだけていただけだった。
これで赤くなったのだとしたら、有栖は案外ウブなのかもしれない。
僕が言えたことじゃないけど、彼は忙しいから恋愛経験なさそうだし。
浴衣をそっと着直してから布団を片付け終えると、顔を洗うために洗面台に向かった。顔を洗って拭いて、変なところがないか鏡を見る。
…………。
わぁ……なんかすごい歯型付いてる……。
それに、虫刺されみたいなのもいっぱいある。前の僕だったらこれだけ刺されたのに痒くないんだなとか思ったんだろうけど、有栖にキスされるようになってからはこれがどういうものなのか一目で分かってしまった。
なるほど、それで赤面してたのか。それ以外に変わったところはないし、それ以上の事はされてないと思うけど。
部屋に戻ると未だにほんのり赤い有栖が、そわそわと落ち着きなさそうに座っていた。そっと有栖の横に座ると、彼がより一層わたわたする。冴木さんはそれを見て可笑しそうに笑いつつ、僕の首にさりげなくタオルをかけてくれた。
落ち着かない有栖から色んな跡を隠そうとしているのかと思ったけど、違った。
部屋の外から「失礼します」と声が聞こえて、旅館の人達が入ってきた。朝ご飯を持ってきてくれたらしい。
冴木さんはこの人たちから隠そうとしてくれたみたいだ。
……確かに男しかいない部屋でそんな跡付いてたら変な想像をされかねない。何も言わないだけで旅館の人は有栖のこと知ってるかもしれないし、僕や有栖の名誉のために隠してくれたのだろう。本当は彼がそこまで気を遣わなくてもいい時代になれば喜ばしいのだけど。
いつものことながら気遣いの鬼だなと思う。マネージャーっていうのもあるけど、こればかりは冴木さんの根っからの性格な気がする。
用意された朝ご飯は小ぶりな川魚の塩焼きと、きのこの味噌汁と山菜炊き込みご飯だった。量も多すぎず少なすぎず、器も綺麗で全てにおいて品が良い。
この美味しいご飯を食べて落ち着いたのか、有栖の顔色も正常に戻っている。
昨日のご飯は鹿肉を味噌に漬けて大葉で包んで焼いたものがメインだったけど、あれも本当に美味しかった。
暇があれば、ご飯だけでも食べにまたここに来たいくらいだ。
「美味いか?」
有栖が僕の顔を見てくくっと笑いながら聞いてきた。口元を隠しながらにやにやしている。顔にご飯粒とか付いているのかもしれないと思って口元を拭いたけれど、有栖はその表情のままだった。
「うん。……有栖は?」
「こんなの美味いに決まってる。まあ、俺は遊沙の作る飯の方が――」
彼は言いかけて、冴木さんがにこにこしているのを見てはっと口をつぐんだ。先程の余裕の表情は何処へやら、顔がみるみる赤くなっていく。親代わりの人の前でそんなことを言ってしまって恥ずかしかったのだろう。僕は素直に嬉しいけれど。
冴木さんはクスクスと笑いつつ食事を堪能している。
「遊沙くんは食事をとても美味しそうに食べるから、一緒に食べると倍美味しいね。ね? 有栖」
「そ、そうだな」
ああ、有栖がにやにやしていたのは僕の表情のせいか。よほど幸せそうな顔をしてしまっていたのだろう。
有栖は冴木さんのフォローに頷きつつ、咳払いして食事を再開した。
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