憂いの空と欠けた太陽

弟切 湊

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一緒にいると(有栖視点)

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眠れない脳内で勝手に開催された、遊紗だけが色んな格好でランウェイを歩く遊紗コレクションを楽しんでいるうちに、俺は安らかな眠りについていた。
……結局寝られたのは明け方だったが。

夢の中にも遊紗が出てきて、具体的にどんな内容だったかは忘れたが、何とも幸せな気分だった。俺の想像の産物に過ぎないのに、遊沙はやっぱり可愛くて癒やされる。

そう思うと、つくづく俺って幸せ者だなあと思う。
遊沙に出会うまでは、普通の暮らしをさせてくれなかった両親を恨んだこともあったし、自由がないからイライラして冴木にあたってしまうこともあった。他の奴らは好きなことを出来て人生楽しそうなのに、なんで俺だけこんな目に遭わなくちゃいけないんだとも思った。

今考えると贅沢な悩みだ。

望んだ仕事ではないとはいえ自分で稼げる場所があって、本当の親ではないのに愛して育ててくれる人がいて、世間では俺を必要としてくれる人がいる。それなのに、一体何が不満だったのだろうか。……と、過去の自分が我が儘すぎて嫌になる。
そして、そんな自分にそれを気付かせてくれたのは遊沙だった。感情は薄いのに実は分かりやすかったり、優しいのに無意識にこちらの気を揉ませるようなことをしたり、細っこいのに妙に神経が図太かったり、クールなのに可愛かったり。とにかく目が離せなくて、あれよあれよと最愛の人になってしまった。
イライラがハラハラに変わり、次第にソワソワに変わった。両親のいない遊紗がくよくよせずに生きているのを見て、俺も勝手に恨むのはやめた。

もし、彼が俺に「気持ち悪い」とか言って拒絶していたら、俺は立ち直れなかったかもしれない。彼にやんわりと一度断られただけで血の気が引いたのだ、断固として受け入れて貰えなかったら冗談ではなく死んでいた気がする。

受け入れてくれた彼と自分の運命に感謝しないとな。


ふと、目の前が眩しくなって、そっと目を開けた。
……ああ、朝か。
大きく欠伸をして顔を上げると、こちらを見ている誰かが見えた。逆光で誰か分からないし、寝起きで思考力がないのでしばし眺めてしまってから、それが冴木であることに気付いた。
まあ、よく考えなくても冴木じゃなかったら大変だが。

そういえば遊紗は? と周囲を見回して、彼は寝た時のまま、まだ自分の腕の中にいることがわかった。そして同時に、

「!?!」

自分の手が遊紗の胸元に吸い込まれて、素肌を触っていることを認識した。もう片方の手はというと、彼の細い太腿に乗っている。おまけに体のあちこちには俺の噛み跡とかキスマークとかめっちゃ付いていて、頭が爆発しそうになる。
この状態だけでもやってしまった感があるのに、それを冴木に見られるとか最悪過ぎる。
必死に弁明しようとする俺を、奴は可笑しそうに見ていた。「そういうことをするなら2人きりで」とかいうことを恥ずかしげもなく言ってくる。
なんでこの人は意外と乗り気なんだ。
くそっ、なんか負けた気分だ。

結局、その後起きた遊紗の顔もまともに見れなかったし、美味い朝飯食って落ち着いた頃には幸せそうな遊紗に油断して、勝手に自爆した。
まだ起きて数時間も経ってないのに、何回顔を熱くしたことか。

本当、遊紗といると予想外のことばっかりだ。

恥ずかしさはずっと後を引いて、旅館を出て家まで帰ってきてもまだ顔から熱が引かなかった。
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