ままごとのような恋だった

弥生

文字の大きさ
1 / 4

1.肉食男爵令嬢ライラ

しおりを挟む
 ここは数ある異世界のひとつの、よくある貴族の通う学園の話。

 貴族学園の高等科の入学式の日、母親の再婚で貴族の仲間入りをした元平民の少女が、期待に胸を躍らせながら門をくぐる姿がそこにある。

 彼女の名前は「ライラ」貴族になったばかりで上流階級に染まりきっていない無邪気な令嬢…と言えば聞こえは良いが、他に婚約者のいる男性にもお構い無しに密着しまくり、美人の女性には横柄な態度をとり「学園内では上位貴族も下位貴族も皆平等」と言う言葉を履き違える。

 世界は自分中心に回っていると信じて疑わない、これまたテンプレ通りのクソ男爵令嬢であった。


「いい加減にして下さいライラ様!また私の婚約者にちょっかいを出しましたね」

「地味な貴女より私のような可愛い娘が良いのですって、悔しかったら自分を磨く事ですわ」

「なっ何ですって!!」

 このような調子なので特に女子生徒との衝突が絶えず、騒がしい場所には必ず彼女が居ると言っても過言では無かった。

 そんなある日、次の授業に遅刻しそうで廊下を走っていたライラは偶然(と言う事にしておく)この学園に通う王太子に出会い頭にぶつかり(突進したように見えるが)運命的(強引)な出会いを果たした。

 学園内とは言えこのような事案王太子の護衛の責任問題だが、誰もそれを問題とは思っていない。
 この娘が暗殺者だった場合護衛の首だけでは済ませられないのだが、ここはそのような世界観なのだ。


「そこの貴女、少しお話をよろしいかしら?」

「…私ですか?何でしょうか」

 今日も男あさりに励むライラを、金髪縦ロールで少しキツい眼の美女が呼び止めた。

「ライラ様でよろしいですね?私はセドリック殿下の婚約者、エリザベート」

「そのエリザベート様が私に何の用事でしょうか?」

 狙っているイケメン権力者の婚約者(しかも美人)に遭遇して、あからさまに嫌そうな顔をするライラ。

「貴女、最近複数の殿方に親しげに話しかけボディータッチ等もされているようですね?」

「それが何か?」

「その多くの殿方には婚約者がおられるのですが、平民の男女ではどうであったかは私には分かりませんが誉められた行為ではありませんよ?」

「何それ?私が元平民だからって差別する気!未来の国母がそんな事して良いわけ?」

 マナーのなっていない令嬢に注意しているだけで、別に差別しているわけではないのだが。
 ついでに言うと他に婚約者のいる異性にボディータッチなど、平民でもトラブルのもとだ。

「平民?貴女は今は貴族のご令嬢ですよね、不慣れでも少しずつ貴族の常識を身に付けていくべきでしょう」

 王太子の婚約者で公爵令嬢のエリザベートが、生真面目な顔でライラに告げる。

「何よ偉そうに!貴女に関係ないでしょう?」

 エリザベートの婚約者である王太子にまとわりついている時点で関係大ありなのだが、自分が中心のライラは癇癪を起こす。

「…ひとつだけ忠告させていただきます。セドリック殿下に言い寄るのは、おやめになって下さい。貴女も平穏な学園生活をおくりたいでしょう?」

「それは脅し?公爵家の権力を笠に着てサイテー」

「私はどうなっても知りませんからね…」 

 エリザベートはひとつため息をつき、そう告げてからその場を去った。


「フンッ調子に乗るんじゃないわよエリザベート、今にあんたからセドリック様を奪ってやるんだから!」

 ライラはエリザベートの忠告を聞かなかった事を激しく後悔する事になるのだが、そんな事はまだ知らない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~

朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。 婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」 静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。 夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。 「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」 彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

寵愛の花嫁は毒を愛でる~いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります~

紅葉山参
恋愛
アエナは貧しい子爵家から、国の英雄と名高いルーカス公爵の元へと嫁いだ。彼との政略結婚は、彼の底なしの優しさと、情熱的な寵愛によって、アエナにとってかけがえのない幸福となった。しかし、その幸福を妬み、毎日のように粘着質ないじめを繰り返す者が一人、それは夫の継母であるユーカ夫人である。 「たかが子爵の娘が、公爵家の奥様面など」 ユーカ様はそう言って、私に次から次へと理不尽な嫌がらせを仕掛けてくる。大切な食器を隠したり、ルーカス様に嘘の告げ口をしたり、社交界で恥をかかせようとしたり。 だが、私は決して挫けない。愛する公爵様との穏やかな日々を守るため、そして何より、彼が大切な家族と信じているユーカ様を悲しませないためにも、私はこの毒を静かに受け流すことに決めたのだ。 誰も気づかないほど巧妙に、いじめを優雅にスルーするアエナ。公爵であるあなたに心配をかけまいと、彼女は今日も微笑みを絶やさない。しかし、毒は徐々に、確実に、その濃度を増していく。ついに義母は、アエナの命に関わるような、取り返しのつかない大罪に手を染めてしまう。 愛と策略、そして運命の結末。この溺愛系ヒロインが、華麗なるスルー術で、最愛の公爵様との未来を掴み取る、痛快でロマンティックな物語の幕開けです。

愛に死に、愛に生きる

玉響なつめ
恋愛
とある王国で、国王の側室が一人、下賜された。 その側室は嫁ぐ前から国王に恋い焦がれ、苛烈なまでの一途な愛を捧げていた。 下賜された男は、そんな彼女を国王の傍らで見てきた。 そんな夫婦の物語。 ※夫視点・妻視点となりますが温度差が激しいです。 ※小説家になろうとカクヨムにも掲載しています。

【完結】 嘘と後悔、そして愛

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
伯爵令嬢ソニアは15歳。親に勝手に決められて、一度も会ったことのない10歳離れた侯爵リカルドに嫁ぐために辺境の地に一人でやってきた。新婚初夜、ソニアは夫に「夜のお務めが怖いのです」と言って涙をこぼす。その言葉を信じたリカルドは妻の気持ちを尊重し、寝室を別にすることを提案する。しかしソニアのその言葉には「嘘」が隠れていた……

婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました

ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!  フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!  ※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』  ……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。  彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。  しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!? ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

好きな人ができたなら仕方ない、お別れしましょう

四季
恋愛
フルエリーゼとハインツは婚約者同士。 親同士は知り合いで、年が近いということもあってそこそこ親しくしていた。最初のうちは良かったのだ。 しかし、ハインツが段々、心ここに在らずのような目をするようになって……。

処理中です...