婚約破棄された聖女は、真実の愛に目覚めた二人に一生離れられない祝福を授ける

弥生

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5.聖女教育(笑)

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 マリーナ男爵令嬢の王太子妃教育は学園卒業まで猶予があるが、いつ結界が消えるか分からない状況のため、聖女の仕事の引き継ぎは急ピッチで行わなければならなかった。

 しかしマリーナ男爵令嬢の聖女の修行は難航を極めていた。
 彼女は字は読めた、しかし読めるだけで理解は出来なかったのだ。


「やはりカミラ婦人に頼んで、講師をしてもらってはどうでしょうか?」

 マリーナの教育係として雇われた伯爵夫人の言葉に、王妃は渋い表情をする。

『マリーナ嬢が聖女の役割についての基礎知識を身に付けてからなら、いつでも講師を致しますよ』

 最初にマリーナを新たな聖女として紹介すると言う名目で、カミラを王宮に呼び出した時の彼女の言葉を思い出す。

 聖女の役割についての基礎知識を身に付けてからなら、講師をする。
 逆を言えばそれが出来ていないうちは、引き受けないと言う事だ。
 それはつまり『学ぶ意識もない頭空っぽ令嬢の子守りはさせるなよ』と言うカミラの意思表示でもあった。

 聖女の役割についての基礎知識は、聖職者でなくても上位貴族なら幼い頃に教育のひとつとして学ぶもので内容も難しいものではない。
 王妃いわくチンパンジーにも劣る王太子は、習った内容を綺麗サッパリ忘れていたが…

「男爵令嬢だから習っていなくても不思議ではありませんが、当時六歳だったリゼットは一週間で覚えたと言うのに…」

 マリーナ男爵令嬢が聖女の修行を始めてから、もうかれこれ二ヶ月が経過していた。
 それなのにまだスタートラインにも立っていない状態なのだ。
 心なしかリゼットが残した結界も弱まっている気がする。

 ちなみにリゼットは引き継ぎ用のマニュアルにこの内容も書いていた。
 必要ないかとも思ったが一応記載しておいたのだ、ついでに言うと同年代の令嬢にも分かりやすい文章で記している。

 しかしリゼットはマリーナの頭脳を逆の意味で侮っていた。
 そう二桁の掛け算の筆算も怪しい脳ミソのマリーナだ。リゼットとマリーナは同じ十四歳だが、十四歳に分かりやすい文章にしたところで、理解出来るわけがなかったのだ。

 数分会話しただけの相手の頭の出来など、リゼットには判断出来るわけがないので仕方ないと言ってしまえばそれまでなのだが。

「…男爵家では一体どのような教育をしていたのかしら?」

 十四歳の令嬢相手に、まさか絵本や人形劇で教える事になるとは思わなかった教育係の伯爵夫人は、やつれた表情でこう呟いた。
 その事を知るのは偶然同じ部屋にいた侍従だけだった。
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