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第4章 帰り道が騒がしい
第63話 譲れぬ戦い
しおりを挟むーキン!キン!
刀と剣がぶつかり合い、炎が、氷が手助けをするように割り込んで来る。
身体強化魔法もかけた、限界突破も使用している。なのにーー
「チィッ!」
「理解してください。私とあなたとでは差がありすぎる」
「ぐがぁっ!!」
全て最善の防御をしているのに、まるでレベルが違うとでも言うように、上段から来た剣を受け止めようとする前に腹を蹴られて吹き飛ばされ、地面を転がる。
「陸人っ!」
蹴りの威力がありすぎて、全く止まらず転がり続ける俺を氷の坂で少しずつ勢いを殺してくれたお嬢様が未だ勢いのある俺を抱き締める。
一緒に転がったがすぐに止まった。すぐさま立ち上がってお嬢様を見ると、少し辛そうだが、問題は無いみたいだ。
「……大人しくしてください、朱音さん、陸人さん」
限界突破も切れ、耐え難い疲労感を感じながら何とか問題無いように立っている俺と、魔法の連続使用で疲労が目に見えているお嬢様にゆっくりとカレナさんが近づいて来る。
「私が……いや、人族が何故他の種族より圧倒的に劣るのに、この大陸に堂々と生活出来ているのか分かりますか?答えは私のような歴代の『宝剣』使いが他の種族の『宝剣』使いより圧倒的に優れていたからです」
「人族は矮小で、脆弱で、非力な種族ですが、『宝剣』との相性は他種族の比ではありません。恐らく森で会ったであろうカミラなんて……私からすれば雑魚です」
威圧的に俺たちの精神を折るような話をされ、心では理解してないが、頭では理解してしまった。俺たちではカレナさんに勝てないと。
力もスピードも技量も、全てが規格外のカレナさんに傷一つ付けるのも無理な気がして来ている。
………これが全種族最強と謳われる『瞬斬』の本気。…なるほど、城内で見た新聞の記事に嘘偽りは無かったらしい。
俺に勝ち目は無いのかもしれない。だが、ここで倒れたら、俺はあの日の俺を殺す事になる!
軋む体に鞭を打ち、揺れる視界に喝を入れ、刀を構える。
「…それが……どうしたんだ」
「…………」
「……圧倒的な力の差は…知ってるっ……。だがなっ、ここで引くのは死んだのも同然なんだよっ!!」
スキル ー非常時発動型
・起死回生 (執事たる者、状況をひっくり返す手を用意すべし)
を獲得しました。
叫んだ瞬間、スキルの獲得を知らせる無機質な音声と共に刀を持っていない左手によく分からない、魔法陣のようなものが展開した。
淡い黄色の光を放つ魔法陣は、俺を強化する訳でも、何を出す訳でもなくただそこにあるだけ。
スキルの名の通り、どうやら俺の左手に起死回生の一手が現れたらしい。
「………あなたは勇者でも無いのに、まるでお伽話の勇者のように倒れないんですね」
霞む視界にうっすらと映るカレナさんは呆れたような顔で俺を見た後、騎士団長として、目の前の敵を倒す戦士の顔で剣を構えた。
「……確かに、俺は勇者では無いですが…救いの手を知っている、弱者ですから」
チラッとお嬢様に視線を移すと、顔を青白くしながらも俺をじっと見つめるお嬢様が居た。
「…ごめんね、結局陸人頼みになっちゃって」
「構いませんよ……執事ですから」
この会話だけで満ち足りた。視線を前に戻すと、剣に薄っすら光を纏わせて剣先を俺に向けて構えているカレナさんが居た。
「……では、行きます」
「……………」
律儀に宣言したカレナさんに頷きで返す。……少しの静寂が訪れたが、それをぶち壊すように突風が俺に吹き荒れ、カレナさんが消えた。
次の瞬間には俺の体に剣が突き刺さっているかもしれない恐怖を忘れ、俺はただ左手にある魔法陣を地面に叩きつけた。
「加重化魔法、起動っ!!」
宣言を受けた魔法陣は一気に大きくなり、輝きを放った。それと同時にカレナさんが片膝をついて現れる。俺のすぐそばまで迫っていたらしいが、何とか間に合ったらしい。
加重化魔法は対象の重量、つまり重力を上げる魔法だ。魔力消費量の割には決定打に欠けるこの魔法は戦場で使われる事はほぼ無い。強いて使うなら敵に投げつける石や岩の重量を上げる程度だ。
カレナさんの『宝剣』の強さはあの尋常じゃないスピードを生み出す事だ。動体視力は身体強化魔法ぐらいじゃないと上げられないし、直接補う事も出来ない。
力が強かったら技量で勝てば良い。技量が高かったら力で勝てば良い。どっちも俺より上なら……精神力で勝てば良い。
補う事の出来ないスピードを封じた今、精神力が強い俺が勝つ!
「終わりだっ!」
「…………『疾光』」
カレナさんのうなじに峰を向けた刀を振り下ろしたが、手に手応えは無く、代わりに腹に拳のようなものがめり込む感覚がある。
「ぐぶっ!」
「……素晴らしい一手でした、流石に能力を使ってしまいました」
口から血が吹き出す。どうやらどこかの内臓が潰れたみたいだ。
「陸人っ!」
閉じていく霞んだ視界に苦しいのを我慢しているのか、顔を苦痛に歪めているお嬢様が近づいて来るのが見える。
……もう無理だ、意識が落ちる。……申し訳ありません、お嬢様。そして……ゴメンな、俺。俺は救う事がーー
『充分やったんじゃない?』
黒に染まった視界に現れた、幼き頃の俺が慰めるように微笑んだ。随分と違和感のある俺に失笑でもしようかと思ったが、意識がシャットダウンした………。
「……さて、後は朱音さんの説得をーー」
ーガチッ
カレナに倒れかかった陸人を地面に降ろそうとした時、後頭部に何かを突き付けられた。
朱音はまだこっちに来ていない。だが、朱音は安心したような表情を浮かべた。カレナがその表情に違和感を覚えたが、すぐに答え合わせが出来た。
「カレナさん、一体どういうことですかね。一ヶ月も帰ってこなかった陸人と朱音さんをこんな目にしたんですか?」
「本当だよなっ、せっかく帰って来たのを聞いて急いで来たというのにな」
「血反吐を吐いたって事は怪我してるんでしょっ!?早く陸人くんをこっちにっ」
カレナの後頭部に突き付けられたのは陸人が護身用にと渡した片手銃。偶然か陸人が渡した片手銃が2人を護ったと言える。
他の任務で別行動を取っていた悠、巧、加奈が騒ぎを聞きつけてこの場に集結した。
「良いですか、僕たちは勇者ではありますが、その前に2人の友達です。僕たちは2人とあなたたちの国、どっちかを取れと言われたら迷わず2人を取りますよ」
「そうそう。可愛い朱音さんはもちろん、我が親友であり、俺の目標である陸人を助けるのは当然なんだよな~」
「そんな事言っている暇があるなら陸人を早く私に渡してよっ!もしも重傷ならどうするの!?」
余裕を持って立っている3人にカレナは僅かに苛立ちを覚えた。それが引き金になったのか、
「邪魔しないでもらえますか、わたしは国王の命を受けてーー」
言葉を繋ごうとしたが、カレナは言葉を繋げなかった。背後に凄まじい魔力を感じたからだ。
量も質も今のカレナには遠く及ばない、恐るるに足らない魔力だったが、本格的に任務を受けてたった一ヶ月でここまで成長している3人と……2人に圧倒されたのだ。
自分が1年かけて至った領域に一ヶ月で至っている5人に言い知れぬ恐怖を感じてしまったのだ。
いつ自分が抜かされるか、修羅場を与えてしまったら急成長してしまうのだろうか。
勇者というものは成長に終わりも行き詰まりも無い、それに気付いてしまったカレナは自然と剣を手放していた………。
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投稿が遅れて申し訳ありません!でも、毎日投稿とは言ってませんので、セーフですかねwww。
最後のカレナが何故勇者の成長度合いに恐怖したのかは、のちのちわかります。
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