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第5章 つかの間の休息
第68話 副騎士団長の憤り
しおりを挟む度々夢に見るあの屈辱的な光景。いつも俺はあの執事に挑んでいる、何度も何度も何度も!だが、一度たりとも勝つ事どころか傷一つ与える事が出来ず、俺はいつも地面に倒れる。
そんな俺を虫を見るような眼差しで見る執事と、軽蔑したような呆れたような目で見下ろすカレナ様。
「お前は弱いな。所詮、お前には副騎士団長の任は重かったか」
そんな事は無い!俺は騎士団の中ではあんたの次に強い!俺以外に適任者はいない!
「いや、いるだろう。そこの執事が」
「やめろぉぉっ!!」
荒い息遣い、身体中に纏わり付く汗。俺は何も無い天井に手を伸ばしていた。
未だ落ち着かぬ心臓のある胸を押さえつつ、身を起こす。何度も見た悪夢を頭から取り除けるようにゆっくりと息を吐く。
「………くそっ」
俺は歯を食いしばりつつ、質の良いベットに拳を振り下ろす。…悔しい事にあの悪夢は間違っていない。俺は負けた。カレナ様以外に地面に伏せさせられた事の無い俺がいとも簡単に倒れた。
あの執事を倒す。その為に任務に明け暮れた。だが、執事は前よりも強くなっていた。それに、『闇夜の暗殺者』の精鋭部隊の一つ、『10の刀舞』を一人で倒したらしい。
それだけでも腹ただしいが、加えて他の勇者も俺を超える域まで至っていたという事がなお俺を追い詰めた。
「……勇者、勇者勇者勇者。どいつもこいつも、いつの時代もすぐに勇者に頼りやがって……!」
過去の資料を隠れて漁ったところ、10回も異界から勇者を召喚していた。だが、どれも魔王打倒には至らず、他の勇者は逃げ、勇者の職業を持つ奴は誰一人として帰って来ていないと言う。
さらに、あのミスラ様が降臨され、助力をされたという記録も残っていた。
……神でさえも、結局勇者に期待していて、俺たちのような奴には何も期待していない。国民も他種族の連中も。
「見返してやる、この世界は俺たちの世界だ。俺たちで魔王を倒して、勇者なんて必要無いと証明してやる」
カレナ様の助けは借りるだろうが、勇者の助けは一人として借りずに魔王を討伐する。それが俺が幼い頃からあったたった一つの夢。
そのために今回の任務は俺一人で………。
拳を握り締め、部屋にある窓の外を見る。心地良い朝の日差しが室内に入って来ていて、空には鳥たちが会話をするようにさえずりをしていた………。
「"フレイアロー"!」
お嬢様から放たれた、50は下らない炎の矢が雨のように俺に降り注いでくる。それを刀で払いながら、お嬢様に接近していく。
「"グランドランスロット"!」
今度は土の槍が俺の手前の地面から、5本生えて俺に襲いかかってくる。土の槍は強度は鉄の槍と大差無く、刀で斬れるか危ういところだ。
なら、避ければいい。俺は足裏に"ブレスト"を発動させて飛び跳ね、2mくらい伸びた土の槍の頭上を通る。
「甘いよ!"アイスーー」
「お嬢様が、です」
俺に右手を向けて魔法を発動しようとしたお嬢様にめがけて、刀をなおした後に作り出した弓を引き絞って矢を放つ。
お嬢様は少し顔をしかめつつ、その場から飛び退き、矢を躱す。だが、それだけでは足りない。
「もうっ!そのスキル!ズルイ!!」
置換転移でさっきまでお嬢様がいた地面に突き刺さった矢と入れ替わった俺がお嬢様に接近する。それを見たお嬢様は吐き捨てるように声を上げた後、距離を取るのを諦め、空手の構えを見せる。
お嬢様は空手の大会で全国1位を取った事もあるほどの実力者だ。本来なら刀を取り出した方が良いんだろうが、敢えてお嬢様と同じ土俵に立つ為に拳を握り締める。
「はぁっ!」「ふっ!」
お嬢様はスカートだという事を気にせず、遠心力がしっかりついた回し蹴りを放ってきたので、その足に合わせるように俺も助走が付いた蹴りをぶつける。
遠心力と助走。本来なら助走がある方が勝つのだが、相手はお嬢様。空手だけでなく、俺と同じくらい格闘術を身につけているのと、恐らく俺よりも強い身体強化魔法をかけているので、結果は俺が負け、さっきまで走っていた方へ吹き飛ばされる。
「前なら身体能力的に負けていたけど、この世界なら、魔法で補える私の方が身体能力は……高いよ!」
追い討ちをかけるように、地面に倒れた俺にめがけてかかと落としをしてきたので、その場から転がって避ける。
「……確かにそうですが、経験があるのは自分です!」
転がった体勢からすぐに起き上がり、真っ直ぐ拳を振り抜く。それを受けてたったお嬢様が、俺の拳に合わせるように拳を放つ。
2つの拳がぶつかる直前、置換転移を使い、俺は転がった時に地面に仕込んでいた針と入れ替わる。そこは丁度お嬢様の背後。
完全に決まった。そう思い、拳を広げて首に狙いをつけて腕を振るおうとしたが、腹に強烈な蹴りがめり込み、俺はその場に倒れた。
「……カハッ!……はぁ、はぁ……流石お嬢様ですね」
口から空気が出て、激しい痛みがある腹を押さえながら顔をあげると、武人のような顔で俺を見つめるお嬢様が見えた。
……思えば、拳での戦いに持ち込んだ時点で、俺の敗北は決定していたのかもしれない。なんせ、力も技術も俺よりも上になっているお嬢様に対して、俺は虚を突くしかなかったのだが、あの時にお嬢様は置換転移されても、されなくても、充分に対応出来る力量がお嬢様にはあった。
素直に刀で立ち向かえばいいものの、万が一お嬢様を傷つけたらと思うと刀で接近戦をする事が出来ない。
「陸人は確かに何でも出来るけど、一つを極めた人と同じもので戦ったら負けるのは分かってたでしょ?」
「……相手がお嬢様でなかったら、こうならなかったのかもしれませんね」
お嬢様はそれを聞いて呆れたような顔になり、いつもの表情に戻って倒れている俺の頭の下に膝を通した。お嬢様は意外と膝枕をするのが好きなのか?
「……もう、昨日もそんな感じだったよね」
「……すみません、気づいてらしたんですね」
「当たり前だよっ!」と言いつつ、お嬢様はそっぽを向いた。だが、手は俺の頭を撫でている。
「だって、陸人が私なんかに負ける訳ないもん。陸人は……私よりずっと凄いんだから」
「…そんな事はありませんよ。俺は……ただ人より多くの事が平均以上に出来るだけで」
そうだ、俺は凄くない。俺は所詮、一を極める事も、全を極める事も出来ない半端者だ。せいぜい、出来る事が多いだけの。
「陸人は自分を卑下にし過ぎなんだよ。もっと、自分を大事にしてよ…」
「……善処します」
お嬢様は頬を膨らませて納得していない様子だが、怒って来ないところ、一応話は終わりにしてくれるらしい。
そろそろ、執事として腹を切りたくなる状況から離れようと頭を上げようとした時、一人の足音が聞こえてきた。
ここは城近くの修練場。こんなところに来る奴は自然と俺の知っている奴に限られて来る。
お嬢様も気づいたようで、背後へ振り向いたのと同時に俺も体を起こして足音のする方を見る。
「…リクトさん、どこかに行くんですよね?」
その背丈の小さい子は、俺たちが任務へ行く事を聞きつけたようで、年相応の不安そうな表情をしていた。
「……カトラ」
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