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第5章 つかの間の休息
第67話 新しい任務
しおりを挟む「ああ……どうしようか」
目の前に転がる死体の数々。どうしようもない衝動を抑えられず、もうすぐ日が真上に来る時間帯にも関わらず、殺してしまった。
あまり殺してはいけないと言われていたというのに、いつも衝動を抑える事が出来ず、現在のような状況によくなる。
「…まあ、いいか。…さて、次に仕留める相手は…」
暗黙から時間帯に相応しい日差しのある、賑やかな景色へと移り変わるその瞬間を一瞥しつつ、フードを被って大通りへと出る。
何知らぬ顔で歩きつつ、楽しく会話をする人たちを見て、またも衝動が込み上げて来たのを感じ、足早に去る事にした………。
「皆、揃ったか」
朝ご飯を終えてすぐに集められたのは、修復の目処が立っておらず、そのままになっている王の間。
玉座に座る国王とそのそばに佇むカレナさんとお姫様。その表情からして、またも任務の話らしい。
「今回の任務は少し人員が必要だ。よって、陸人、朱音、巧の3人態勢で挑む事にする。悠と加奈は《スクード》へ戻って引き続き、護衛任務をしてもらう」
「よっしっ!護衛なんて、暇だったからラッキー!」
いつの間にか全員の名前を知っていた国王が告げた任務の内わけに、巧は大層喜んでいる。俺からしたら、少し面倒な奴が居るからもう怠いのだが。
「んんっ!!任務の内容を説明する。ここから1週間で着く《ナサーハ》にて、殺人鬼を仕留めてもらいたい」
「……殺人鬼…ですか?」
殺人鬼という単語に思わず反応してしまう。暗殺者と幾度となく出くわした身としては、少し気になってしまう。
「ああ、『闇夜の暗殺者』と呼ばれる組織の中でも精鋭と呼ばれている『暗転』だ」
「『闇夜の暗殺者』か…」
どうも俺には暗殺者ととことん縁があるらしい。それも、あの奴らと同じ精鋭部隊。
……あの時はスキル職業適性極みが発動したから何とかなったが、その発動条件はかなり厳しいものだ。それはカレナさんとの戦闘で一度も発動しなかった事から明らかだ。
「あのー……私は?」
気まずそうに手を挙げたのは、唯一何も言われていないリーナだ。
「あなたは使者であり客人です。その様な方にしてもらう訳にはいきません」
「……私は植人族と人族との関係をより良いものにする為に来た者です。なら、この国の汚点なども見ておきたいと思うのは、あなた方にとって不都合ですか?」
初対面した時のような差別的な事は言っていないが、そこそこ威圧的にリーナはカレナさんに尋ねる。
少し顔をしかめた国王がカレナさんに耳打ちをし、それを聞いたカレナさんは困った表情を隠さずに言った。
「…今回の任務は恐らく誰かしら死者が出る任務です。私がついて行きたいのはやまやまですが、近々控えている『大陸会議』へ警戒や用意をしなくてはならないので」
「……我々植人族は朱音さんの意思に賛同してそちらに歩み寄る事を検討しました。その朱音さんが居なくなる可能性がある任務を私が見逃すと…?」
確かに、リーナの言う事はもっともだ。俺もお嬢様が危険な任務に行くのは賛同出来ない。あのカレナさんが死者が出ると言ったんだ、それに精鋭の強さは身に染みている。
一番この中で任務を達成出来る可能性があるのは……
「自分が行きます」「私が行きます」
……俺が言ったのとほぼ同時に誰かが同じく名乗りを上げた。声でもう誰だが分かっているのだが、信じたくなくて、恐る恐る声のした方である隣を見る。
すると、お嬢様と目が合った。まるで、全く同じ動きをして出くわしたように。
「……お嬢様が自ら危険なところへ向かってどうするのですか?ここは自分一人で構いません」
「陸人こそ、前に戦ってボロボロだったじゃん。もう陸人が傷つくところは見たくないの。……だから、私が行く」
何を言っているんだお嬢様は。お嬢様が危険な目に遭うのが良くないとリーナが言ったばかりじゃないか。それを、俺なんかを気にしてついて行く?本末転倒もいいところだ。
「お嬢様、自分は執事です。なら、お嬢様の危険を全て取り除くのが使命であり、義務です」
「いつもそんな事言って、心配するこっちの身になってよ。前だって精鋭部隊の一つと戦ってギリギリだったんでしょ?今度も生き残れる保証は全く無いじゃん」
「え?陸人さん、前に戦った事が?」とカレナさんが信じられないと言いたげに呟くが、そんな事なんてどうでもいい。今はお嬢様を説得するのが先だ。
「ですから、一度経験がある自分が行くんです。お嬢様は下っ端とでさえも一度も戦った事が無いんですから、危険過ぎます」
「私なら魔法の知識もあるし、いっぱい対抗策がある。陸人みたいに刀一つで戦う必要も無いし」
「刀だけではありません」
気付けば俺とお嬢様は喧嘩腰でお互いの額をくっ付けて言葉の銃弾を撃ち合っていた。
「そもそも、お嬢様は自分の事を気にしすぎです。俺は執事なんですから、何ら心配される事は無いです」
「陸人が危なっかしいから気にしちゃうの!それに、私が陸人を心配して何か不都合でもあるの?」
だんだんとヒートアップしてきた言い合いで薄っすらと青筋が浮かんできた。それはお嬢様も同じで、まるでお互い譲らない子供のようだった。
「鎮まれぇ!」
「「………っ!!」」
まだ続けようとしていた言い争いは、国王の年季が入った怒声によって落ち着きを得た。
……あまりにも絶え間無く言い合っていたせいで、お互いに少し息が荒い。
「……では、ガレトを連れて行きましょう」
呆れた様子のカレナさんが呼んだのは、俺がカレナさんと初めて戦う前に倒したあの副騎士団長さんだった。
「……団長、どうして俺が?」
「相手はあの『暗転』だ。万全を期したい」
副団長さんは『暗転』という名前を聞いて、さっきまでの面倒そうな表情から一転、カレナさんに劣らずの鋭い目つきになる。
「いよいよ『闇夜の暗殺者』を掃討する時が……」
「ああ。『大陸会議』が控えている今、首国としてのメンツを保っておきたい」
さっきも出た『大陸会議』。恐らく色んな国や街の代表者が集まって会議でもするんだろう。確かに、そんな時に『闇夜の暗殺者』が乱入でもしてきたら、会議どころでは無いだろう。
「分かりました、心して任務にあたります」
「頼んだぞ。では、そういう事だ。リーナさん、我が国の副騎士団長を信じてもらえませんか?」
「……分かりました」
お嬢様とついて行きたいというリーナの魂胆は見事に覆され、リーナは肩を落として項垂れた。
「……陸人、特訓しよ」
「ええ、構いませんよ」
お嬢様は少し怒っているようで、右手に炎、左手に氷を纏わせたまま立ち去った。
「……前に戦ったという精鋭部隊って、もしかして10人構成の?」
「そうですが、何か?」
カレナさんは心底あり得ないとでも言いたげな顔で驚き、どうやって勝ったのかを真剣に考え始めた。
まあ、カレナさんはスキル職業適性極みを使った時の俺を知らないから無理も無いだろう。
「……陸人さん、本当に勝ったんですか?」
「本当ですよ、カレナさんと戦った時には見せる事が出来なかっただけで」
少ししつこいカレナさんから離れる為に、足早に王の間を出ようとした時、話を聞いていたらしいガレトが鋭い目で俺を睨んでいたが、早く出て行きたかったのでそのまま扉を開けた………。
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