73 / 104
第6章 正しい歪み
第72話 Sランクの魔物
しおりを挟む朝日が昇り、気持ちの良い朝を迎え、いつも通り俺が食事を作り、メサとメイカが馬車を動かす。巧はしっかりとした朝飯を食えた事と思った以上に良かったらしいメサとメイカの運転に感激していた。……昨日から馬車はメサとメイカが動かしていたんだけどな。
何も問題は起きず、馬車の中でオセロをしたり、しりとりをしたり、ポカポカした中で昼寝をしたりして穏やかに過ごしていた。
やっぱりあの時がおかしかったんだ。あんな問題が立て続けに起こる筈がない。筈は無い……と思いたかった。
「リクトさん!また魔物が!!」
城を出てから3日目、あと4日で着く距離になってからやたらと魔物が現れ始めた。それは雑魚の《ゴブリン》から、中々強いレベルの中型のドラゴン《ロックドラゴン》まで幅広いレパートリで、1日に5回も出くわしている。
今回は《スライム》の大群だ。《スライム》はゲームなどでは雑魚とされているが、物理攻撃がほとんど効かない、何ともまあウザい魔物。しかも、人間を取り込んで消化するというのだから、魔法を持たない人からしたら、身近な最大の脅威と言える。
「"フレイショット"!!」
まあ、魔法使いのお嬢様が居るから一瞬で片付いたが。
焼けた大地と抉れた地面、そこらに飛び散る《スライム》だった一部をメイカに避けるように地面に降りて指示する。
それにしても、街に近づくにつれて魔物が増えていっているのはおかしくないか普通?まるで、外部からの人を避けているみたいじゃないか。
「リクトさんっ!後ろっ!!」
「あ?」「グルガァァァ!!」
俺が振り向くのと同時に威嚇したであろう、魔物が空気を震わす叫びを上げる。耳を塞ぎながら魔物の姿を直視すると……それはゲームなどでは王道で、同時に中ボスのような存在である巨大な大狼《グランドウルフ》がそこに居た。
《グランドウルフ》とは黒い体毛に所々に血のような赤い体毛がある、人を簡単に噛み砕けそうな鋭い牙と家も切り裂けそうな爪を持つ、全ての狼型の魔物の頂点とされている、Sランクの魔物。常人がいくら集まっても、Aランク冒険者がいくら集まっても、羽虫のように蹴散らす規格外の存在。そんな奴がここに居る。何故、こんな魔物がいる!?
「ヒッ!!リクト!取り敢えず逃げーー馬が!?」
メイカの叫び声を聞き、振り返ると馬が完全に怯えきって動けずにいた。手綱を握っているメイカが必死に馬を動かそうとするが、馬は本能的な恐怖でもう駄目だ。
異常事態にお嬢様と巧は馬車から飛び降りて俺の傍に来る。
「陸人!ここで迎え撃つ!?」
「駄目です、やるならここから離さないとメサとメイカが危ない!」
「なら、誰かが注意を惹きつつ、残りで攻撃をしたら良くね?」
巧が馬車に積んでいた、刀身が1.5mはありそうで柄は包帯で巻かれ、黒っぽい群青色の片刃の大剣を肩に担いで視線は狼から離さず呟く。
お嬢様も巧も、冷や汗を滲ませているところから焦っているに違いない。だが、焦りは何も生まない。今はーー
「グガァッ!」
「うおっ!?」
俺が武器作成で刀を作り出し、1歩踏み出した2人から少し前に出た一瞬で、《グランドウルフ》は俺を邪魔だと言わんばかりに、前足を振るう。5mはありそうな《グランドウルフ》の前足の振りは俺の身長とほぼ同じで、何とか反射的に反応して刀を盾にするが、刀は簡単に砕けて地面へ吹っ飛ぶ。
「陸人っ!!」「このクソ狼がぁっ!!」
揺れる視界の中、鈍い痛みがある頭を押さえつつ起き上がると、お嬢様が俺の傍にやって来て傷の様子を確認し、巧は大剣を《グランドウルフ》へ振り下ろしているが、かなり浅い傷しか出来ず、俺のように吹き飛ばされていた。
「今からでも遅くないから撤退しよ!?あんな魔物に勝てないよ!!」
お嬢様は俺を庇うように立ち、視線は真っ直ぐ前に向けたまま告げる。確かに、今の俺たちには早い相手なのかもしれない。
だが、今やらなければメサとメイカが死ぬ。それだけはどうしても容認出来ない。
「お嬢様、今から全力を出します。お嬢様は俺が下がった瞬間に今使える最大の魔法をお願いします」
「良いけど……、それで無理ならすぐに陸人を連れて逃げるからねっ!!」
お嬢様は両手を突き出し、魔法陣のようなものを浮かべた。どうやら魔法の準備を始めたらしい。
なら、俺はまず全力で戦う為の武器を作るか。
スキル武器作成は俺のイメージ力で武器を作り上げるスキル。今みでは少し強い鉄をイメージして武器を作っていたが、それだけではあの魔物には足りない。
もっと!もっと強い素材。そのために城に居る頃にこっそり鉱物について調べておいた。
この世界で一番硬い鉱物は"古代石。大部分は真っ黒だが、所々にダイアモンドのような白い輝きを放つ鉱物。その鉱石は巨大なドラゴンの一撃も強大な神の一撃も3度は受け止めたという。
……硬い刀、黒い刀、壊れない刀、鋭い斬れ味を持った……刀!
イメージが固まり、右手を開き、スキル武器作成を使う。すると、一瞬地面を焦がすほどの雷のようなものが手から出て、普段の目にも見えないほどの構築ではなく、ゆっくりと俺の望み通りの刀へと形取っていく。
5分程でそれは完成した。刀身は真っ黒で、所々にダイアモンドのような白い輝きを放ち、柄も丸みを帯びているが刀身と同じものだ。
スキル
・武器作成
が消滅しました。
……………は?スキルが消えた?
「陸人ぉっ!まだかぁ~~!?ーーぐっ!?」
「グルゴォォォッ!!」
スキルの事で周りに目が行かず、気付けば巧が全身太い大剣で斬られたような有り様になっていた。今の今まで巧一人で《グランドウルフ》の気を惹かせられたのは、巧の技量だろう。
この際、スキルの事なんてどうでもいい。今はただあの狼をねじ伏せる!
「限界突破!身体強化!」
全身に身体強化魔法をかけ、スキル限界突破も全力で使い、《グランドウルフ》に肉薄する。今のスピードはカレナさんほどでは無いが、かなりの速度で迫ったというのに、獣らしからぬ洞察力と獣らしい動体視力、反射神経で俺に爪を振り抜いてくる。
「お~っらぁっ!!」
迫って来た俺の半身はある爪に、踏み込みを加えて思いっきり刀を振り抜くと、少しの衝突の後に爪を紙のように斬り飛ばした。
「グルゥッ!!」
自身の爪が思いのほか簡単に斬られた事に驚いたのか、瞬時に飛び退いて距離を取って来た。本当に魔物かと疑いたくなる判断力だ。
「次で仕留める!」
クラウチングスタートの姿勢を取り、足の裏に"ブレスト"を発動して加速力をあげ、タイミングを見計らう。
それが一発で決めるものだと理解したらしい《グランドウルフ》は自身も姿勢を低くして、勢い良く飛びかかる構えを取る。
スキル限界突破は時間が経てば経つほど不利になる。なので、俺は思い切って俺から足を出した。
瞬間的な加速と自身の圧倒的な身体能力で、あっという間に《グランドウルフ》の目と鼻の先まで近づき、逆手に持った刀を《グランドウルフ》の体を斬りながら通り過ぎるように振り抜いた………。
============================================
0
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
犬の散歩中に異世界召喚されました
おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。
何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。
カミサマの許可はもらいました。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
転生貴族の領地経営〜現代知識で領地を豊かにして成り上がる
初
ファンタジー
ネーデル王国の北のリーディア辺境伯家には天才的な少年レイトがいた。しかしその少年の正体は現代日本から転生してきた転生者だった。
レイトが洗礼を受けた際、圧倒的な量の魔力やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のレイトを辺境伯領の北の異種族の住むハーデミア領を治める領主とした。しかしハーデミア領は貧困に喘いだ貧乏領地だった。
これはそんなレイトが異世界の領地を経営し、領地を豊かにして成り上がる物語である。
【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています
きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる