職業通りの世界

ヒロ

文字の大きさ
81 / 104
第6章 正しい歪み

第80話 くだらない事はやめてほしい…

しおりを挟む

 メイカと話をしてから大して時間もかからずにお嬢様たちが帰って来た。それに伴い、操縦席から馬車の中へと移る。メサにはもう出れるように準備してもらっている。

「ただいま~」
「お帰りなさいませ。どうでしたか?」

 次々とお嬢様、メサ、巧と入ってくるのを見ながら聞いてみると、どうやら滞りなく上手くいったみたいだ。それは分かっていたのだが、スキル空間把握に少しおかしな反応があった。
 1人の男性らしき人がお嬢様に話しかけてそのまま進んだのだが、すぐにその男がスキルの効果範囲内から姿を消したのだ。文字通り跡形も無く。

「お嬢様、何か変な事はありませんでしたか?」
「変な事ね~。無かったと思うけど」

 お嬢様は本当に関心が無いのか、それともその事を忘れたのかは分からないが、何も無いと言う。本音を言えば追及したいが、嫌な空気になっても困るので聞かないでおこう。







 あれから馬車も置ける馬小屋も宿屋も、幸い良い所を見つけられたので一安心して、馬を置いてから宿屋に身を寄せた。
 部屋は何故か一部屋しか借りてない。最初は男女別に借りる予定だったのだが、俺以外みんな一部屋でいいと聞かなくて折れてしまった。

 因みに巧は今部屋の隅にロープぐるぐる巻きの状態で転がされている。メサに少ししつこいぐらいに好み等を聞き出しているところをメイカに見られて、縛り付けられたというしょうもない理由で。

 そんなどうでもいい事は置いといて、現在、巧を除いた全員でポスター作りに勤しんでいた。もちろん、そのポスターというのも巧が勝手につけた『執事の戯れ』とか言う恥ずかしい名前が書かれたもの。
 デザインはお嬢様とメサが考え、中央に執事がジャグリングをしている絵を描いて他の部分に日時等を書いたもので、凝ってはいないものの、売り出すには充分な出来ではある。

「これあと何枚作るの~?」
「少なくても50部かな?」

 メイカがダルそうにしながらも手を進めていたが、メサの言葉を聞いて机に突っ放してしまった。それも仕方ない。今の今まで約100部以上も作っているんだ。疲れるのも無理はない。
 因みに、紙から絵を描くペンに至るまで全ての道具も材料も俺のスキル道具作成で作り出している。本当にこのスキルは便利過ぎる。経済を揺るがしかねないとメサに忠告されるほどだ。

「あ~!やっと終わった~!!」
「疲れたね~」

 そうして、一つ一つにばらつきはありつつもそこそこ良い出来のポスターを作り終えた。この世界の住人であるメサとメイカが太鼓判を押す完成度ならきっと客も来るだろう。

 場所は宿屋を探す時に見繕っておいた広場。しっかり許可も取っておいたので問題はない。
 日時は明後日の昼頃にしてある。一応、俺たちはこの街に調査をしに来たので、明日は怪しいところの調査をする予定だ。

「それじゃあもう遅いし寝よっか」
「なら、自分は入り口の近くで寝ます」

 お嬢様が誰がどこで寝るかを話し合おうとする前に入り口近くに座り込む。座って寝るのは昔から得意だったので何の問題も無かったのでそのまま寝ようとしたら……

「陸人は明日、明後日と大変なんだからしっかり寝てよ!」
「いや、座った状態でも寝れますが…」
「それでは疲れは取れないですよっ?」
「そうそう!しっかり寝転んで体を休ませないと!」

 座った状態でも充分と寝れるのだが、お嬢様たちは一向に寝させてくれない。なんか必死な様子で3人で結託して俺を強制的に寝転ばせようとしているような……

「分かりましたから、これでいいですか?」

 少し呆れつつも、お嬢様のご希望なので部屋に用意された人数分の敷布団を取り出して並べる。部屋がそこまで大きくないので全体を埋め尽くすように並べるしか無かったので、机を立てて隅に追いやったりと何気に時間がかかった。

「それでは、巧は一番隅でいいですよね」
「「うん」」「はい」

 心底興味無さそうに頷いたお嬢様たちの声を聞いて、タオルを噛まされて声が出ないようにされている巧が悲しそうに呻き声を出す。正直、柄にも無く取ってやりたいと思うが、お嬢様に手を出さないという保証も無いので今は我慢してもらおう。

「悪いがここで寝といてくれ」

 ロープで引きずって隅の方の布団まで来たのでうなじ部分をチョップして気絶させる。この状態でぐっすり寝れる訳がないだろうし、巧の為だと理解してもらおう。
 それにしても、意外に疲れたな。気張ってない状態でそこそこの重労働をすると眠くなって来た。さっさと寝る事にしよう。

「……では、俺はここで。おやすみなさい」
「「「え!?」」」

 俺は予定通り入り口に最も近い布団に潜り込むとそのまま意識を落とした。……深い眠りへと誘われていく中、お嬢様たちが何やら言っているみたいだが、遠くから聞こえてくるようで全く眠気を妨げる事は無く、俺は無事に深い眠りにありつけた……。








 顔に陽の光が差したからなのか、重い瞼をゆっくりと開ける。予想通りに陽の光が顔に直撃していたようで眩しい。普段なら体を起こしてトレーニングにでも行っていたのだろうが、何故かやけに体が重い。俺は陽の光から逃げるように寝返りをうつと、そこには美少女が居た…。

「~~!?」

 一瞬大声を出しそうになったが、お嬢様たちが寝ている筈なので悟られないように声を押し殺す。……一旦落ち着く為に深呼吸をして再び視線を向けると、そこにはお嬢様が居た。
 ……あ~、寝起きだったからお嬢様と認識する前にお嬢様の特徴だけを捉えてしまったという訳か。

「……って!何してるーーうおっ!?」

 俺の布団に潜り込んで来たであろうお嬢様を起こそうとしたが、背後から手を伸ばされて強制的にそっちの方へ振り向かされる。
 振り向いた先にはむにゃむにゃと心地よく寝ているメサが待ち構えていた。……なんでメサまで居るの?

 メサまで居て、寝起きからの多くの情報に戸惑っていると下半身部分の布団がモゾモゾと動き出した。もちろん、俺ではない。何が出て来るのか頭の中では予想出来ていても心が認められずに居る。

「しっ。みんな起きちゃうでしょ」
「おっ、おまっ!なんて所から……!」

 予想通りの想定外。布団から頭を覗かせたのはメイカだった。一応小声で事の顛末てんまつを聞くと、頬を少し赤らめながらも答えてくれた。それはもうくだらない話を。








「あ~、本当に寝ちゃったよ」
「予定では真ん中で寝てもらうはずだったのに…」
「どうします?」

 男2人が寝静まった中、女3人は眠気など皆無な様子で陸人を囲んで座り込んでいた。当の本人は全く気づかず、寝息を立てているのだが、それが余計に彼女たちに火を付けた。

「じゃあ、これから陸人の隣は誰かジャンケンをするよ」
「はいっ」「私は興味無いんだけど、一応ねっ」

 朱音が掛け声をかけて各々が拳を振るう。朱音はパー、メサはチョキ、メイカはグー。あいこだ。

「あいこで、しょ!」

 この掛け声が複数回行われた後、歓喜の声を上げる者が2人、絶望したように肩を落とす者が1人という結果になった。








「……で、反省していますか?」
「「「……はい」」」

 巧が血涙を流しながら運ばれた朝食の硬いパンをかじりながらこっちを見ているのを気にも留めず、俺はお嬢様たちに正座をさせて説教をしていた………。


============================================
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

転生貴族の領地経営〜現代知識で領地を豊かにして成り上がる

ファンタジー
ネーデル王国の北のリーディア辺境伯家には天才的な少年レイトがいた。しかしその少年の正体は現代日本から転生してきた転生者だった。 レイトが洗礼を受けた際、圧倒的な量の魔力やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のレイトを辺境伯領の北の異種族の住むハーデミア領を治める領主とした。しかしハーデミア領は貧困に喘いだ貧乏領地だった。 これはそんなレイトが異世界の領地を経営し、領地を豊かにして成り上がる物語である。

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

処理中です...