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第6章 正しい歪み
第87話 前進と振り返って
しおりを挟む魔族、それは魔物が突然昇華され自我を持ったもの。昇華される理由は未だ不明らしいが、魔族は昇華以前の魔物だった時の力を受け継ぎながらも高い身体能力と大きな魔力を有する。
また、魔法では無い特異な術を使う個体も存在し、人類が魔王に対して勇者を頼らざる得ない要因の一つだ。因みに魔王も魔族だという。
そんな魔族は個体数が限りなく少なく、魔王軍との最前線ぐらいにしか現れない。そんな魔族がこの街に居た、その事実に違和感を感じざるをえない。
「で、何でお前は魔族に手を貸した?」
「それはビジネスの為としか申せません」
男はやはりただの道化では無かった。あの魔族に利用されていると知りながらも自身の利益の為に動いていたんだ。なら、魔族によって得るこいつの利益とはなんだ?
「…まさか魔族との戦争をビジネスチャンスとして捉えたのか…!?」
「…………」
男は何も答えずこちらを見るだけ。肯定と見ていいだろう。あり得ない、まさかビジネスの為に人類の滅亡になりえる事に手を貸すとは……。
「私も最初はするつもりはありませんでしたよ。ですが、あなた達を見て確信しました。勇者様が来られたと。なら、もし失敗しても大丈夫ではないかとね……。まあ、そんな事を言ってみましたがそんなのは建前です。
私は商人です。なら、目の前に転がるビジネスチャンスを逃す訳にはいきませんよ。それが例え人類が滅亡するという結果になったとしても……」
……やはり狂っている。この世界は。みんながみんな、自身の職業を全うする事しか考えていない。確かに安定した繁栄は臨めるのかもしれない。だが、こんな生き方が果たして正しいと言えるのか?
「勇者様はこの生き方は間違っていると言うらしいが、あなたは違うようですね」
「……ああ、そうかもしれないな」
そうだ、俺にこの世界の人たちの生き方を否定する資格なんて無い。元の世界ですら執事という仕事に望んで囚われている俺には……。
「ーーという事がありましたのでご報告申し上げます」
「…そう、そんな事が…」
俺の事は省いて屋敷の外で待機していたお嬢様と巧に報告をする。お嬢様と巧には、嵌められた時に外部からの増援に対処する為に外で待機してもらっていたが、まさか魔族が絡んでいたなんて思ってもみなかったようだ。
「で、どうするんだよ。代表に会うきっかけが消えちまったんじゃあねぇのか?」
「……確かにそうだな」
確かに今回で代表と会うキッカケは無くなった。だが、あの情報屋が居る。もし、この世界が日本と変わらないところならあてになんてしていなかっただろう。だが、この世界は誰もが職業の奴隷。なら、情報屋が裏切る可能性は限りなくゼロに近い。大人しく待つことにしよう……。
「ーーこれにてお開きにさせていただきます!またのお越しをお待ちしております!よろしければ少々の褒美を頂けると幸いです!では、これにて!!」
今日の芸も終わり、テントへ転移する。テントからでも歓声が聞こえて来て、どこか心地よい感覚がある。
…代表と会うキッカケを逃してから2日。俺は変わらず芸を続けた。理由は特に無く、ただ資金を集められて情報を少しでも得る機会があればと続けているだけだ。だが、未だに情報は無い。後はあの情報屋からしかーー
「リクトさん、テントの前に誰か居るんですけど…」
「追い払っておいてくれ。どうせまた勧誘しに来ただけだろ」
これまでの2日間だけで数え切れないほどの勧誘を受けた身としてはこれ以上誘いの言葉は聞きたく無かった。また鬱陶しい奴が来たとしか思っていなかったが……
「何でも『知りたいであろう事を持ってきた』って…」
「………通してくれ」
メイカが中に入るように促したのはやはりあの情報屋だった。
「やあ、久しぶり。随分繁盛しているようだけど、やっぱり異なる世界の人は考える事が違うから新鮮だからかな?」
「そんな事はどうでも良いだろ?俺が知りたいのはあんたが調べたものだ」
テントを物珍しく見渡す情報屋に釘をさすように急かすと、肩を竦めてこの街の地図を広げた。
「代表が居るのはここ。街の中心部よりは少しズレたところにある円形の建物、コロセウムに居るよ」
「コロセウムって確か闘技場じゃなかったけ?」
お嬢様が首を傾げる通り、コロセウムは闘技場だ。決して住居でも事務所でも無いはず。何故そんなところに…
「彼はかなり熱心でね、自身が育てた魔物同士を競わせて更なる高みを目指しているんだよ」
「……ちょっと待て。自身が育てた魔物?」
巧の疑問はみんなの疑問だっただろう。てっきり戦士や魔法使いなどの戦闘系の職業だろうと無意識に考えていたからだ。今の話だとまるでくるみと同じーー
「ああ、言ってなかったね。彼はテイマー。Sランク冒険者ただ1人のテイマーなんだよ」
……テイマーでSランク冒険者。一体どれほどの魔物を従えているんだ……?
「ーーま、ざっとこんな感じかな?」
代表がどのような行動パターンか、この街で代表をしている目的まで、合っているかどうかは判断つかないが、少なくとも納得は出来る内容だった。巧もお嬢様も真剣に聞いた話を頭で巡らせてこれからの事を考えているように見える。
「あと、奴が過去に何をやったのかは分かったのか?」
「もっちろん♪僕は優秀な情報屋だからね!」
無い胸を(本当に無いのかもしれないが)張って得意げに微笑む情報屋は本当に子供のようだ。
「彼はこの街に来て様々な事をやっていたみたいだよ。手始めとして周囲の森の魔物の掃討。それが認められて権力がついてからは商人へアドバイスをしたり、ホームレスの人たちに役割を与えたり、身分を問わない街だと他の街に宣伝したりね」
ホームレスの事を言う時にチラリと俺を見た。どうやら俺たちがあの異様な光景について疑問を抱いている事も知っていたようだ。
「で、何がキッカケで代表にまで上り詰めたんだ?」
「それがね……、はっきりしないんだよ。どこを調べてもいつの間にかなっていたとしか…。資料も漁ったけど、彼の名前は彼がこの街にやってきてから徐々に名前が増えていたからハッキリとしてないんだよね~」
情報屋は『お手上げ』とも言いたげに両手を万歳のように挙げた。…それにしても、この情報屋は一体どこまで調べたんだ?さっき資料とか言ってたからかなり深いところまで調べたんだろうが…。
「……因みに、あんたは神についてどう思う?」
俺は単なる興味本意……いや、俺たちをこんな世界に連れ込んだ神について弱点でも知っているのでは無いかと思って聞いた。この情報屋は絶対に他の情報屋とはレベルが違う。きっとこいつにしか知らない事があるはずだと思った。だが、帰って来たのはーー
「神?……はっ、あんな醜い生き物の事なんて知りたくも無いね」
情報屋は忌々しそうに憎悪がこもった目で呟いた後、さっきまでのおちゃらけた表情に戻り、
「以上で報告を終わりまーす!ご利用ありがとうございました!縁あればまた会えます、その時はよろしくお願いしまーす!」
活発な男の子のように笑顔でテントを出て行った。……あいつと神との間に何があったのだろう…。………なあ、神であるミスラ様なら知ってるのだろうか?それとも……奴があいつに何かをしたのだろうか?
案外、魔王や『闇夜の暗殺者』よりも神ミスラの方がよっぽど得体の知れない敵…なのかもしれない。
俺たちは一体誰と戦うべきなのだろうか?人類の敵である魔物と魔族を従えた魔王か?神出鬼没な恐ろしい暗殺者集団の『闇夜の暗殺者』か?それとも俺らをこんな世界に飛ばした力を持っているほどの……神なのか………?
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恐らく全てのファイルシリーズに言える事かもしれませんが、神とはなんなのか?そういった問いに対して各ファイルの主人公は考え、そして答えを導いていく。陸人はどんな答えを出すのか楽しみですね!
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