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第6章 正しい歪み
第94話 起源を知れ
しおりを挟む暗い………重い……苦しい…何かが纏わりついている…………全身に絡みついて…思うように体が動かせない。
沈んでいくような感覚。これが死後の世界…なのか?何も……何も思い出せない。自分が何者なのか、何故こんな場所にいるのか……。
「それは大変だね」
一人の少年が俺を見下ろしている。背から落ちている俺とは対照的に正面から落ちている少年はまるで俺の合わせ鏡のようだ。
「なら、探しに行こう。自分が何者なのか、何を為すべき存在なのか」
一体そんな事をして何になると言うんだ。もう疲れたんだ、足掻くのにも。今更現れて「探しに行こう」とか言われても…………
「まあそう言わないで。いつかは帰らなくてはならない、どんだけ難しい事でも」
どこに帰るんだ?俺の帰る場所はーー
「抗えない運命。全ては帰ってみたら分かる、元の場所にね」
運命?そんな曖昧なモノのために帰らなくてはならないのか?
「そう、僕は本来、元の場所での役割がある。それを無視してもいいけど、必ず変えることは出来ない」
分かったから………なら教えてくれよ。俺自身の事。
「長くなるけど、時間はたっぷりある。確実にーー」
きっと、俺は逃れる事が出来なかったんだ。だから、今その時が来たと思って諦めよう。
「自分の役目を確認しよう」
黒い泥のような風景が一気に真っ白なキャンパスのような空間に反転していく。何処か見たことのある空間はグラデーションのように色付いていく。
青い空、白い雲。緑の芝生に佇む男。服装は弥生時代を思わせる貫頭衣。勾玉の装飾を身につけ、手に紙垂を下げた槍を持っている。
誰か、男より身分の低そうな老若男女が男を囲ってまるで崇めているかのように各々頭を下げたり、祈りを捧げる。
男はそれを悲しげに見つめ、歩き出した。風景は素早く移り変わり、それと同時に男は膝をつき血塗れになっていた。辺りは燃え盛り、地面はえぐれ、地獄絵図と化していた。
男の前に立つ者は、光り輝き過ぎて体の輪郭しか見えない。
男は目の前の人物に何かを尋ねる。それを聞いたであろう謎の光り輝く存在は首を傾げ、考え込む素振りを見せた。そして、何か思いついたかのように男に近づき手をかざした。
手をかざされた男は光を身に纏った。それを見て満足そうに光り輝く存在は消えた………。
「これが運命の始まり」
いつの間にか隣にいた少年は憎んでいるような鋭い目で俺と同じく不思議な光景を見ていた。
隣の少年の目が気になって見ている間に風景が変わっていく。男は立ち上がり、足を引きずりながら歩く。その間に移り変わっていく風景は自然や周囲を映しているのではなく、男の心の中を映しているようだった。
真っ赤に燃えゆく炎と黒い雨。燃え上がる炎と炎の間に気味の悪い笑みを浮かべる人たちが見える。
そんな暗い風景とは裏腹に、男はまるであの光り輝く存在のように光を帯びていく。
「……なんか…悲しいな。これが俺の過去か?」
「そんな絶望はないよ。これはご先祖様」
確かにこれは絶望に等しい。男の声は聞こえないし、泣いている様子も見えないけれどこの男が周りに利用されているのは分かる。最初は慕われているという感じだったのにどうして………。
「今からその答えが分かるよ」
当然のように心を読んでくる少年が怖いが、この不思議な景色を見ている今は心を読まれるくらいは大した事のないと思える。
風景はまた移り変わり、あの光り輝く存在の時のように燃え盛る火、焼けて崩れた木造の家がある悲惨な風景へと変わり、男の正面には腕が四本ある槍や剣を持った屈強な男が立っている。肌は火のように赤黒く、目は白く輝いている。
「彼は戦っているんだ、強大な存在………神という存在に」
「神!?……そんなのが居たとは…」
俺の記憶には神という存在は基本的には居ないという考えて………この考えは一体何だ?
「神は当たり前に居た、神話に出てくる神のほとんどが」
少年は男と神とされる男が戦っているのを見つめながら続ける。
「だけど、人は神を否定した。神に従う世界よりも人が支配する世界を良しとした。その実現の為に神を抹殺する役目を与えられたのが彼」
男は神を槍で貫き、念入りに首を切り落とした。神聖な紙垂は血に塗れて禍々しさを感じさせるようになってしまっている。
「全て、日本全ての神を。全て………世界中の神を。次々と現れる神を殺し続け、時には海をも越えて神を殺しにいった」
男の風景は様々な国の、激しい戦いの跡が分かる光景を映し続けた。変わるたびに何者かの死体が男の背後に積み上がっていく。
「呪いは強靭な肉体と神をも殺せる力を与え、あらゆる世界で唯一、神が存在しない世界になった」
男は遂に神を殺し切ったのか、前のめりに倒れたが、子供を作っていたのか男の体が薄れていくのと共に幼さの残る青年が現れた。男の面影のある青年は歩き出し、歩むたびに歳を取り、倒れる。
また青年の体が薄れて、青年の子供らしき青年が歩き始める。
「彼の血は途絶えなかった。もともと長寿であった肉体に、彼らの境遇を知っても共に歩んでくれるパートナーに出会えたのは、幸か不幸か。決して途絶えなかった血は今も受け継がれている、僕に」
映像は消えて、少年は俺と向き合う。心なしか成長している気がする。
「祖先の事は分かったが、肝心の自分自身の事がわかってないんだが…」
俺の祖先はとんでもない存在だと分かったが、俺は一体何者なのかという疑問は解消されていない。
「………そう…だね。教える、教えるけど。一つ聞かせてほしい」
少年は無表情で問う。無表情に努めているのか、本当に何も感じてないのかは分からない。
「僕はーー」
言いかけた少年は突如として消えた。代わりに足に何かが絡みついて下に引き摺り込まれる。いつの間にか周りも感覚も真っ黒な海に居る時に戻っている。
何となく分かる。俺は自分を取り戻す事が出来なかったんだ。間に合わなかったのか、何かの力が働いたのかは分からないが、少年をも押し除けて戻って来てしまったんだ。
何も出てこない、怒りも悲しみも。俺は流されるままに目を瞑って眠るように何か変化が起きるまで待つ。
「ハハハッ!素晴らしい!素晴らしい力!」
私はただ見ていた。高笑いするナハリヤに、傷だらけでもう意識をもなさそうに倒れるドラゴン。対して何も無かったかのように佇む陸人。
「約束の刻は近い!もはやここまで早いとは!!」
「対象排除」
陸人は高笑いを続けるナハリヤの頭を飛ばした。それをただ見つめる事しか出来なかった。
「陸人……ねぇ、陸人なんだよね……?」
いつもの事務的ではありつつも、優しさのある声で話してくれると思っていた陸人はーー
「肯定、次の指示を」
全く感情のこもっていない声に、その場にへたり込んでしまった。自然と涙が溢れてくる。もう何も考えられない……。
「…………指示をーーいえ、結構です。危機を察知、…………脅威度…撤退推奨」
陸人が何かを呟いているけど、もう何も頭に入って来ない。陸人は私に近づいてくる。
「じゃあーー始めましょう」
私でも、陸人でもない。もちろん門番さんでもない。あまり良い思い出での無い聞いたことのある声。
辺り一体に強い光が陸人が突き破って来たところから差し込み、陸人が来たときのように降りてくる人。
透き通るような青い髪を腰まで伸ばし、胸や膝、肘に金の装飾があるアーマーを付け、右手に光り輝く槍、左手に女神のイラストのような盾を持って、背に光の翼を生やして現れたーー
「ミ……スラ…様?」
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