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第6章 正しい歪み
第93話 countdown
しおりを挟む「"フレアバースト"!」
両手から炎が溢れ出て、魔物たちを呑み込んでいく。炎に耐性が無さそうな魔物は苦しみながら倒れていくが、一部の魔物は平気そうにこっちに向かってくる。
炎が効かないのならーー
炎の出力を徐々に落としつつ、魔物が近寄って来るのを待つ。10mもないところまで近づいてきたところで、腕を引きつつ両手を握りしめるのと同時に、手から溢れた炎をも凍てつかせるほどの氷を炎をガイドラインとして魔物たちに向かわせる。
「"フリージングアウト"!」
炎と氷という温度差により、炎をも阻んでいた硬い皮膚や鱗を持っていた魔物をまるで氷を叩き割ったかのように粉々にする。
「……強いんですね、これは予想外です」
ナハリヤは怒りを堪えながらなお、大蛇から見下ろしてくる。
もう残っているのはナハリヤと大蛇のみ。確かナハリヤの職業はテイマー。魔物を使役する職業だから、操る魔物が居なかったら無力化できるはず。
「もう抵抗せずに、死んで」
両手から"フレイガスト"を発生させて、大蛇ごとナハリヤを包み込む。私が手を握れば起爆する。もうこれでおしまい。
「じゃあね、あなたの事は許さない」
ーバゴォーン!
両手を握りしめ、起爆した。ナハリヤの言葉を聞かずに。これで……終わった。この街のゴミを殺したからこれでこの街もまだマシにーー
ーシュルルルゥ
「え!?うっ!!」
背を向けて歩き出そうとした時、未だ炎が燃え盛る場所、起爆した場所から蛇の尻尾が突然炎を突き破って現れて私を締め付ける。しかも胴体だけでなく、尻尾の細くなっている先が首に絡みついて首をへし折ろうとしてきている。
「甘く見ないでほしいですね、この私を」
「うっ!ーーぁっあああぁっ!!」
首に凄まじいほどの力が入り、息も苦しくなってくる。今は身体強化魔法で何とか耐えているけど、呼吸もままならなくなったらいつ解けるか分からない。
大蛇は軽く頭を振って炎をかき消し、その頭の上にナハリヤは飛び上がっていたのか、着地する。両者共に無傷だった。
……流石にそこまで簡単にいかない…か。
「もう死んでください。次の実験体を呼んでこないといけないので」
「あっ……!かぁっ!!」
駄目だ、いくら筋肉が強くても首はーー
「ーー"撫ノ切"」
ーシィィィッ!!
誰かが大蛇の尻尾を斬り落とし、私は尻尾の力がなくなったお陰で息を吸える。むせながら顔を上げると、涙で潤んだ視界には痛みに悶える大蛇と槍を持ってナハリヤと向かい合う男の人が居た。
「…………あなたは確か、門番では?」
「自分のような末端の門番の顔を覚えて頂いて光栄ですが………、あなたを捕まえます。私の正義のために」
その男の人はとても強くて正義感の溢れる人だった。
「門番さんっ!」
「すみません、遅れました。あなたの正義を知るために、ナハリヤ様の職務室に向かっている最中にあなたとナハリヤ様の会話が聞こえまして。今はあなたの味方として、戦います」
どうやら、私が行こうとしていた道の先に職務室があったらしい。そのおかげで道中に私を見つけてもらって助けてもらえた。
「コホッ!コホッ!…………はぁ、はぁ。助かります、門番さんが居れば百人力です」
身体強化魔法を全身にかけつつ、門番さんの隣に立つ。門番さんの強さは折り紙付き。陸人と一緒に戦うくらいの安心感がある。
「どっちにしろ、死んでもらうだけです!」
ナハリヤが腕をこちらに向けると、大蛇が大きな口を開けて襲いかかってくる。
「ここは私が。"壁ノ槍"」
槍が地面を突き刺し、その衝撃で地面が割れて壁のように地面の石レンガが立ち上がる。それを槍でさらに押さえると、大蛇の突進を難なく受け止めた。衝撃も伝わってこないほど静かに受け止めた技に感動してくるけど、今はそんな時間がない。
石レンガを超えるほど飛び上がり、右手に高密度の炎、左手にカチカチと音が鳴るほど圧縮している氷を持ち、右手を上に氷を下にして構える。今の私ならこの衝撃にも耐えられる。
「吹き飛んで!"ブリザードバーニング"!!」
右手と左手をくっつけて炎と氷が暴れるのを抑えつつ、大蛇に放つ。開き手どうしを合わせて少し指先だけを開けて放った炎と氷の混ざった砲撃とも言える魔法は、大蛇の頭を貫き、それでも勢いが止まらず、真っ直ぐになっていた体を真っ直ぐに両断した。
「はぁ、はぁ…………。これが私の全力…」
魔力を消費し過ぎて頭がクラクラするのを何とか悟られないようにしたいけど、倦怠感が凄くて手を膝につけて何とか立ち続ける。
「これはまた………」
流石の門番さんも驚いているみたい。とっておきなんだから、これで倒せなかったらもうどうしようもーー
「化け物じみた相手だね」
門番さんの言葉を聞き、信じたくもないけど顔を上げて正面を見る。そこには両断されたはずの大蛇の姿は無く、代わりに何かの肉片が球体になってグチャグチャと音を立てて蠢いている。
「これだけは使いたくありませんでしたが………あなたがたを確実に消すためと思えば致し方ありません」
ナハリヤはそう言うと何か飴玉ぐらいのものを肉片の塊に投げた。それを取り込むと、急激に動きが激しくなっていく。
「門番さん……、なんかヤバイの出てきません?」
「…………これは私たちで手に負える相手かどうか…」
門番さんも冷や汗を流しながら徐々に強くなっていく強者の圧力を感じているみたい。その圧力はもちろん、目の前の肉片から出ている。
「目覚めなさい、あなたの供物は目の前にある」
ーーパチンッ
ナハリヤの指パッチンをキッカケに、肉片から大きな脚が出てくる。爬虫類を思わせる皮膚に鋭く尖った爪、そしてーー
「ギィギャァァァァア!!」
大きな歯を持ち、全ての動物を飲み込んでしまいそうな大きな口。くるみちゃんのとは比べ物にならない、伝説上の生き物であるドラゴンが現れた。4足歩行で翼もあり、長い尻尾をなびかせながら体と同じ赤い炎を口から溢れ出しながらこちらを見つめている。
「私の槍術は人間相手のものだけど……そうも言ってられませんね!」
本能的な恐怖で動けない私に叱咤するかのように、勢いよく門番さんはドラゴンに向かっていく。
「"穿ノ槍"!」
私の魔法を簡単に貫通した槍は………まるで爪楊枝と鉄が勝負しているかのように、簡単に受け止められた。
「ガァッ!!」
「危ないっ!!」
門番さんに迫っていたドラゴンの炎を氷の壁で防ぐけど、簡単に溶かされてしまう。けれど、門番さんはその僅かな時間で避ける事ができた。
「こうなったらーー」
陸人っ!お願い!助けに来て!!
スキル意思疎通で訴えかける。………でも返事が無い。
「…も、もしかしてしーー」
ードゴォーン!!
私の危惧した事を否定するかのように天井を突き破って現れた陸人は……酷く変わっていた。
「…ひっ…」
私は現れた陸人の姿を見て声が掠れ、体も震えてくる。その震えを抑えるように体を抱きしめて陸人を見る。
陸人の首は両側から斬り裂かれた跡があり、黒いモヤが何とか首を繋いでいて、体全体にモヤを纏わせて、さらにそのモヤがまるで羽根のような形を背中から形取っている。陸人の目は生気も感じられない無機質な目でドラゴンを見つめている。
「……ぐるぅぅぅぅっ……!」
「まさかっ!そんなっ!!」
ドラゴンは怯えるかのように息を鳴らし、ナハリヤはあり得ないとでも言うかのように驚いた顔でたじろいている。
「まだ早いはずです!!その段階に至るのはーー」
ナハリヤは酷く変わってしまっている陸人を知っているかのように言葉を溢す。
「世界に呑まれた異界の御身がもう降臨なされるとは!!!」
ナハリヤは明らかに歓喜の表情で陸人を見つめていた………。
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