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第6章 正しい歪み
第92話 代表と対面
しおりを挟む目の前に迫る槍。避けるには近すぎて厳しい。なら、迎え撃つ。
「はぁっ!」
右足のかかとに"ブレスト"を発動して槍を蹴り上げる。普段の私なら力が足りなくて、この凄まじい威力を持った槍を蹴り上げる事は出来なかった。
「ーーっ!!ならば、繋ぎーー」
門番さんは急激な力の上昇に驚いたようで、より一層私を潰しにかかるみたいだけどーー
「あなたとはこれ以上、戦ってられない!」
私は今自分が立っている床に拳をぶつける。衝撃は何階にも伝わり、床は私を中心として崩壊し始めた。門番さんは衝撃が伝わっていない方まで後ろに飛び退く事で回避した。崩れ落ちる地面、重力に従って落ちていく。門番さんは私を見下ろしていた……。
「"ブレスト"!」
門番さんが見えなくなるまで落ちて、崩壊した瓦礫が見えてきたので、落ちる勢いを殺して着地する。
上を見上げると、どうやら7、8階まで落ちたみたい。外から見るコロシアムは5階建て。侵入したのが4階だったのに、こんだけも落ちたって事はここは地下になるってことか~。
「そういえば、代表さんがどこに居るか知らないや…」
陸人が居たら「あはは~」って言って誤魔化して、陸人にどうにかしてもらうんだけど………陸人が居ないんだよね~。
「うーん……取り敢えず下に行ってみようかな!上は門番さんが居るし!」
深く考えず、取り敢えず出来そうな事からしよう!
階段を探しに歩く。窓も無いけど、ランタンが壁に等間隔についていて明るい。壁や床は外やさっきまでいた階と同じレンガ造りだ。
暫く歩くと下に行く為の階段を見つけた。上に行く為の階段は無く、下に行く為だけ用の。
「このまま一番下にーーあれ?」
階段を降りると下の階に着いた。どうやら直通で降りる事は出来なく、違うところに配置された階段を降りていかなくてはならないみたい。
「あー、面倒くさいな~。こういうのってテレビ局にある占拠される時に時間を稼ぐための造りと同じなのかな~」
誰が答えてくれる訳でも無いのに、言葉をこぼしながら歩く。それにしても、何も無いのに何で地下が?
「まあ、何も無い方が迷わなくてーー………こういう事を言ってるとあるんだね」
さっきの階とは違い、左に壁が開かれていた。真っ直ぐ進む道もあるけれど、左に何があるのか気になる。そぉっと音を立てないように壁が途切れている所まで近づき、恐る恐る開かれている方を覗く。
ーーそこは一つの地獄だった。声も聞こえないけど、涙を流して逃げ惑う人を喰らう魔物が数匹。中には果敢に剣を振り上げる人もいるけれど、恐怖が消え去っていない頼りない剣は魔物の皮膚に阻まれて、次の瞬間には剣の持ち主は血を撒き散らして肉塊になる。
ある魔物はライオンと虎の2つの頭をもった体を持ち、ある魔物は背に翼を生やしてゴリラのような屈強な肉体をもって人をかっさらい食う。他にも様々な魔物が人を食い、踏み潰し、爪で刻む。どの魔物にも共通しているのは、人への殺意だけ。
ただただ広い空間で、音も立てずに虐殺が行われている…!
「何で何も聞こえなーーこれは?」
地獄の光景に目を奪われて見えなかったけれど開けている壁のない部分、私の近くの壁から向こう側の壁へ薄い光の壁があった。魔力を帯びている事からも、これは防音の魔法なのかな?
「………助けなきゃ…。でも、良いのかな?」
門番さんたちに見つかったとはいえ、隠密に代表さんに会わないといけない。ここで助ける為に戦ってバレたら………きっと台無しになっちゃう。でも………………ここで見捨てたら駄目な気がする。あの時……壁の異様な光景の調査の時は私達の存在がバレる可能性があって容赦なく殺したけれど、ここで見捨てるのはーー
「そうか!あそこで鍛えられた人達なんだ!」
服装に統一感があった訳じゃあないけど、ここの人たちはあの人たちと雰囲気が似てる。そもそも、鍛えてる理由が周囲の森の魔物退治の為とか言ってたけど、私たちが街に向かっている間にそんな人たちは見なかった。つまりーー
「あの人が騙されていたのかは分からないけど、魔物退治はここで行われていたんだ……」
そもそも、この魔物たちはコロシアムで飼っている魔物なの?もしそうなら、観客も居ないこんなところで争わせているのは一体どうして……。
「う~ん、分かんない!分かんないから、助けて聞こう!!」
そうした方が後悔も無くてまだ情報を得られる可能性がある!
覚悟を決めて、光の壁が体を透けることを確認して中に入る。
「ぎゃぁぁぁあ!!」「嫌だ!死にたくない!」「助けて!助けてくれぇぇっ!」「せっかく!ここまで!生き残ったのにぃぃ!こんな終わりはーー」
断末魔が辺り一帯に響いている。魔物はそれを心地よく聞いているかのように、人に襲い掛かるのをやめない。
多くいる魔物を速やかに殲滅するためにも、まずは魔力で感覚を広げて魔物を数を把握する!
魔力を薄く、広く辺り一面に放つ。人の魔力と禍々しい魔物の魔力を区別して位置を把握していく…。
「数は24体!いっけぇ!!"アイスレイン"!」
私を中心として鋭利な氷の柱が降り注ぎ、魔物の胴や頭を貫いていく。突然現れた氷の柱に戸惑いつつも、私を味方と判断してくれたようで、みんな安堵して魔物から離れつつも私のところに寄ってきた。
「ありがとうございます!助かりました!!」「ありがとうございます!あなたは天使だ!」「ありがとう!ありがとう!」
みんな口々に感謝の言葉を口にする。無理やり戦わせられていたようで、みんな脅威が無くなってホッとしているみたい。
「私は勇者の一人です。この街の代表に話があって来ました。誰か代表がどこに居るかしりませんか?」
もう勇者という事を隠す必要も無いと思って、勇者であると伝えて情報を得られないか聞いてみた。
けれど、みんなそれぞれ指導が終わり、任務としてここに連れてこられ、戦わせられたようで、代表がどこに居るかも知らないみたい。一応、代表が上には居ない事の確認は出来たけど。
「分かりました、皆さんは上に上がってここから逃げてください。私は下に下がって代表を探します」
力になれなかった事に悔やみながらも、ここから逃げられる事が分かって皆意気揚々と私が来た方へ向かっていく。私も真っ直ぐ行く道の方へ行こうかな。
ひとまず助けることができた事に満足しながら歩こうとした時、目の前を走っていた人たちが止まり、右と左に整列して道を開けた。
何故そんな事をしているのか、聞こうとした時その男は現れた。私が向かおうとしていた道から来たのか、大蛇の上に足を組んで現れたその男は明らかに凄まじい魔力を帯びていた。
「やめてほしいですね、私の貴重な卵を逃すのは」
心優しい、しっとりとした声とは裏腹に怒っているのを隠しもせず、鋭い目つきで睨んでくる。物腰柔らかそうな30代くらいの、見た目は若さがまだ残っていそうな男は真っ白なスーツのような服を着ている。大蛇がトグロを巻いて頭を上げている間に足を組み替えて膝に肘を立てて手に顎を乗せる。
「全く………そろそろ見られると思った楽しいショーが台無しですね。…………イライラしますよ、予定を崩されるのは…」
「あなたがこの街の代表……ですか?」
私が質問をすると、なお視線が厳しくなるが答えるつもりらしい。
「ええ、そうです。私はナハリヤ。Sランク冒険者であり、この街の代表として管理をしています」
「…管理?」
「ええ、人のね!使える人は勿論、使いますが使えない人でも見放さず、使い道を与えています。この街全ての人の完璧な管理をね」
ーパチンッ
…………管理?これも管理だって言うの?
代表の指パッチンによって整列していた人たちの体から魔物が体を打ち破って出てくる。中には口から魔物の前足が飛び出て来た人もいる。魔物たちは人から出てきたとは思えないほど、5メートルはありそうな巨大な体躯。
「……決めた、あなたは勇者として私が……殺す」
「やれるものならやってみてよ、勇者様っ」
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