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第6章 正しい歪み
第91話 お嬢様に祈りを
しおりを挟む「"フレアバースト"」
手から発した炎が目の前の兵たちを飲み込もうとする勢いで迫る。飲み込まれてしまえば炭になってしまうのは必然。
魔法の火を防ぐのは難しい。魔法の水ならば消しやすいが、魔法の火は魔力の質や量で勢いや熱量が、自然の法則を用いて付けた火より圧倒的に違う。故に、魔法使いは強く、勇者や並外れた実力者でもない限り、魔法使いの職業に就きたいと思う。
戦士や武闘家といった剣術や体術のような身体能力を用いた技で戦っている者の中でも、魔法を防ぐ術を持つ者は皆無だ。それほど、魔法というものは強い。
ましてや門番などという、特に戦う機会の少ない職業に防ぐ手立ては無いはずなのだがーー
「"流ノ槍繋ぎーー」
私が放った炎は先頭にいる門番さんを飲み込み、さらに後ろの兵たちを焼き尽くすはずだったのだけれど、まるで綿菓子を纏めるかのように、槍の穂先に絡めとられーー
「巻ノ撃"」
恐らく遠心力も乗せられている爆炎を纏った槍が私に振り下ろされる。洗練された足音すら立たない歩法で、いつの間にか槍の間合いに入られていたらしい。
「嘘っ!!」
まさか返されるとは思わず"ブレスト"で距離を取ろうとするけれどうまく距離が取れず、地面に叩きつけられた槍の穂先から破裂した爆炎により、飲まれる事は無かったけれど、吹き飛ばされて地面を転げ回る。
「いてて……ーー危なっ!」
転げ回って痛む体を労わりながら起き上がろうとした時にはもう頭上から槍が落ちて来て、それを避ける為にまた転がる。
「もしかして………武術の心得があるんですか?普通の魔法使いならとっくに串刺しにしているんですが…」
「こっちも殺すつもりで魔法を使ったのもなんだけど、急に殺す気満々ですよね!?」
容赦なく殺そうとする意思しか感じられない猛攻に、若干涙目で訴える。
「冗談ですよ、串刺しなんて……。ちゃんと当たらないようにしてましたから」
「あくまで脅しみたいなものです」と、笑顔で告げる門番さんに恐怖しか感じない……。
私、これでも勇者なんですけど勝てる気が全くしないんですけど………。
「一体……門番さんは何者なんですか?」
「そうですね………、本当の事はまだ言わない方が良さそうなので、ある凄い人に才能を見込まれて育てられた門番さん……としておきましょうか」
………絶対やばい人じゃん。絶対めちゃくちゃ強い人だよ。だって、人族最強のカレナさんと手合わせした事があるから余計に分かるけど……………多分、技の練度だけに限るとカレナさんよりも極めてるよ。
それはまるで、陸人を鍛え上げた紅葉さんが陸人に教えるときに見せていた体のキレというか……体の動きから技の繋ぎの自然さというか……。何とも表現しにくいけど、これだけは言える。絶対門番なんかで収まってはならないような実力者だ。
「………あ~あ、なんでこんな凄い人と戦わないといけないんだろ…」
「今からでも投降しますか?」
私の諦めたような呟きに、今からでも戦わずにいられる可能性を感じたのか、門番さんは投降を勧めてくる。
確かに、陸人もいない状態でこの人に勝つのはほぼ不可能と言っていい。だけどーー
「勝てないとしても!勇者なんだから、簡単に諦めたらいけないよね!」
頬を軽く叩いて自分自身に喝を入れて門番さんに向き合う。
陸人だって、きっと何度も普通だったら勝てないような戦いをして来たはず…!なら、主人である私が!簡単に諦めたらダメだよね!!
「そう…ですか…。なら、多少痛い目を見てもらいます」
槍をまるで自分の体の一部かのように、難なく右に左と回し、言い終えるのと同時に腰を落として構える。胸を右に向けて左足と左腕を前に突き出し、右足は下げて、右腕にある槍は頭より上の位置から斜めに向けられ、穂先辺りに左手を添えている。
急に回転を止めたことにより、風が穂先辺りから吹き荒れ、僅かに私の前髪が視界に入ったところにーー
「"穿ノ槍"」
「"アイシングウォール"!」
門番さんは私の心臓を狙って、槍を突き出す。槍の間合いに入るために飛び出して来たけど、その速さ自体はそこまでだったので、氷の壁で防ぐのが間に合うけど、身を背後に反らして氷の壁を貫いて来た槍を躱す。
……身体を柔らかくしておいてよかった~…………。
「ーー繋ぎ"撫ノ切"」
「やばっ!!」
槍の穂先だけでなく木の棒の部分である持ち手の場所が、まるで刃物かのように氷の壁を音も無く滑らかに切りながら私に振り下ろして来たので、無理に身をよじって地面に転がりながらも躱す。
「このっ!」
さっきから後手に回っているので、このままでは押される。私は苦し紛れの"ファイアボール"を5つ、門番さんに撃つ。それらはあまり強くない魔法だけど、少しでも強い魔法を準備するための時間稼ぎを出来たらと。
「ーー繋ぎ"穿ノ槍"」
「ーーあ」
そんな甘い考えに叱咤するかのように5つの"ファイアボール"をもろともせず、槍が迫ってくる。自分で撃った"ファイアボール"が視界から門番さんを隠していたので、いきなり現れた槍に対して防御魔法が間に合わない…。
…このままじゃ死ぬ。………嫌だ、私はまだ陸人に伝えてない。何も、何も。これは走馬灯というものなのか、ある記憶がフラッシュバックした……。
「え~、なんで私が空手をやらないといけないの~!」
小さい頃、陸人に出会う前。紅葉さんに空手を身につけろと言われて、ただでさえその頃の私は紅葉さんが好きじゃあ無かったのに、ただでさえ習い事や勉強でほとんどない遊ぶ時間を削るような事を言われて不満を零す。
「お嬢様に必要だからです。別に空手でなくて構いません。護身術を身につけてもらわなくてはならないのです。お嬢様が将来、信頼に足る従者を見つけるまでに身を自身で守らなくてはなりません」
「大丈夫だよ~、私男の子よりも強いよ~」
私は数ヶ月だけど保育園に通った事がある。その時に喧嘩をした事があったけれど、私は同年代の男の子に喧嘩で負けた事がない。そもそも喧嘩自体があまり起こらないが、金持ちというだけでよく思われていない事が多く、捻くれた男の子に暴力を振るわれることもあった。
けれど対して痛くもないし、わざわざ時間が潰れるのが嫌だったのでほどほどに痛めたり、逃げて先生に言いつけたりしていた。
「確かにお嬢様はご主人様と同じく、類い稀ない筋肉があります。常人の10倍もあるありえない密度の筋肉が。ですが、それだけに頼ってはダメです。元が素晴らしいからこそ、それを使いこなす技が必要です」
堅苦しい紅葉さんに褒められたのが嬉しかったけれど、今思えば筋肉って…。
「空手って難しいんでしょ?出来るかな~」
褒められて気分が良くなった私は上機嫌になって空手を習うのに前向きになる。
「お嬢様なら簡単に出来ます。ですが、技よりも重要なのが心です」
「こころ?」
完璧超人の紅葉さんが心が大事というのが当時の私にも疑問に感じて、聞く。
「そうです、心は技を極めた肉体を制御するための重要な装置です。力で解決するのは簡単ですが、最適な答えではありません。ご主人様や奥様のような、温かな心とその心を穢されないような自衛としての技を持ちましょう」
「?よくわかんないけど、パパやママみたいになる!!」
難しい言葉があって、理解がしにくかったけれど、お父さんとお母さんが凄いって事は分かったので、元から尊敬していたこともあって私もそうなりたいと思った。
「では、始めに力を抑える特訓をしましょう」
「はーい」
そう、これから私は空手を習って徐々に空手にハマってーー
「お嬢様、何をされているのですか?」
「え?」
さっきまで近くで見ていた私に気付いていなかったのに、紅葉さんが幼い私を無視して私を見ている。
「何って……」
「お嬢様、私は確かにあの日にあなたに制御をかけました」
紅葉さんは幼い頃の私の頭を撫でながら話を続ける。
「ですが、今はその制御は入りませんよね。陸人がいない今、お嬢様は自身の身を護らなくてはなりません」
「ねぇ!さっきから何を言ってるの?制御って何!?」
紅葉さんは一体私に何をーー
「日本では不要でしたが、そちらの過酷な世界では必要なようです。制御は外しておきますので、どうかご無事で」
私の質問に答える事なく、紅葉さんと幼い頃の私は徐々に姿を薄くしていく。
「私は…………いや、ご主人様も奥様も…そして私も、貴方様のご無事を祈っています」
私に微笑み、そして幼い頃の私の目の前に屈んで何かをーー呟いた………。
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