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第6章 正しい歪み
第90話 restart
しおりを挟む真っ黒ながらも宝石が散りばめられたように煌く刀は、左手からスキル起死回生によって生まれた光と反射して目がチカチカする。
『暗転』は子供がおもちゃを見つけたような目をして、俺を見ている。
「……いや~、それなりに強いと思ってたけどまさか勇者だったんだね」
「は?俺は勇者じゃないぞ?」
何故か俺の事を勇者と勘違いする。思えばこの世界のやつは力を見せるとみんな俺の事を勇者という。こんなにも分かりやすく執事の格好をしているというのに…。
「とぼけないでよ。その光、まさしく闇を照らす勇者じゃないか!………あぁあ!遂に勇者を殺せる日が来るなんて…!」
『暗転』は喜びに満ち満ちた顔をして、震えた肩を両腕で抱きしめ、喜びが溢れ出ないようにしているようだ。
「勇者ってこことは違う世界から来ているんでしょ?………どんなふうに血が出るのかなぁ?血が赤いのは同じっぽいし、後はどこがいっぱい血が出る場所なのか調べたいな~?ねぇ、やっぱり戦わずに大人しく捕まってくれないかな?色々調べたいから殺さないようにするからさ?」
饒舌な『暗転』の一人語りの中、勿論隙が出たら迷わず殺していたが、流石に隙を見せなかった。足元を僅かに影に染み込ませるかのように同期していて、恐らく襲われてもすぐ避けられるようにしていたのだろう。
「……はっ、お前のクソみたいな趣味に付き合うわけねぇだろ?」
手の光をより一層輝かせながら、足に力を入れる。ほんの僅かな隙を見せた瞬間に決める準備として。
だが、それはやつの言葉によって乱れた。
「じゃあ、あの向かっていった女の子にしよっかな?君と一緒にいたって事はあの子もきっと勇者じゃーー」
ーズガァァァッ!
俺が勢いよく、殺意を乗せた刀の突きは虚空を突き、激しい風と大きな音を立てる。
完全なる無防備な俺の足元の影が揺らめき、『暗転』が手に握ったナイフと共に俺の心臓めがけて突き刺してくる。俺を殺さないと言っておきながら真っ先に急所を狙ってくる。
俺は全力で突きをしたので、すぐには動けず、やつのナイフは俺の心臓のすぐ近くまで来て、上半身が出ている。
この状況は正しく絶対絶命だが、だからこそこの手を打つ!
ーキィィィッ!
「がぁっ!!」
俺の起死回生の手を受け『暗転』は血反吐を吐き、ナイフを心臓に突き刺す子事も出来ずに倒れる。
この隙を逃さず、すぐさまその場から飛び退く。
『暗転』の周りには血が溢れ出て、血の水溜りのようになっている。その血は上半身のみになった『暗転』の地面に面している腹の断面から出ていた。
「……俺の勝ちだな」
奴を見下ろしながら告げる。『暗転』は笑みを浮かべながらも、楽しみきったはずなのに物足りなさを感じている子供のような雰囲気で笑う。
「まさか……こんな方法で…って分かりやすい攻略法もでもあるか……」
ずっと疑問に思っていた。影を移動する影魔法は体をどのように保存しているのか…。そこで、影は違う時間軸の別の空間ではないかと俺は考えた。そう考えると影で高速移動も出来るし、影から見るこちらの空間は遅くなっているので隙を突きやすい。
だから、スキル起死回生で強い光を灯して、辺りが暗くなっても影が完全に消え去るほどの光量で奴の体を両断する事にした。
もし、強制的に体が出たりするような安全性のある魔法なら面倒だったな。
「…………あ~あ、死にたくない……なぁ」
「お前が殺しまくった人もそう思ってただろうよ」
「そうだろうね…………がぁっ!……はぁはぁ……………最期に忠告しとくよ」
『暗転』は赤みの無くなっていく顔で精一杯笑みを作ってーー
「今から僕に傷を与えた奴が来るよ」
「は?傷ってなんのーー」
どうでもいいことを言ったかのように思ったが、ある記憶がフラッシュバックする。
血塗れになっていたメサとメイカ。だが、2人は血が出るような傷は受けてなかった。なら、あれは『暗転』か全く別の人になる。そして、傷を与えた奴が来るという事は『暗転』が一方的にやられた奴が来るって事じゃーー
「闇夜に消えよ」「全ては闇が支配する」
「ーーっ!?誰だーー」
背後から聞こえた声に寒気を感じ、刀を背後に振りながら振り返ったがーー
ーブシャャャャ!
「…………あーー」
左右から首を切り裂かれて血を吹き出し、倒れる。普通ならほぼ即死だが、この世界に来て強くなったせいか意識だけある。
霞んだ視界には真っ黒にしか見えない2人が『暗転』に同じようにトドメを刺していた。
薄れていく意識……こんなあっさり死ぬのか……………お嬢様を残して…………?そ…ソれは…だメダ……………………………………執事として!……デモ……からダガ動かナイ。………すキルもはつ動しテイルかワカラナイ…。動け!動けよ!!執事ナンダロウ!オレハ!!!お嬢様をノコシテ………………オジョウサマって誰だ?
「ありゃりゃ~、そうなちったか~」
遠くで倒れているあの強い目を持った青年を見つめながら頭を掻く。あの2人は既にここから離れている。もともとあの2人は『暗転』がキッカケを与えられて来た、いわば装置みたいなもの。あの2人が真に動くのはまだ先の話だ。
「うーん…助けに行くべきかな?今後とも贔屓にしてくれそうなお客さんだしな~」
腕に自信はあるのに、子供らしい見た目もあって全く相手にされない事がほとんどだった。そんな中、あの青年は僕の腕を見極めて依頼してくれた。……あの歳で見ただけで人の技量を見極められる域に達しているなんて……一体どんな生活を送って来たんだろう?
まだ青年は伸びる。成長段階としては漸く成長が始まった程度だ。何より僕の目的の為にもうちょっと頑張ってもらおーー
打算まみれの行動を起こそうとしたけど、立ち上がった青年を見てやめることにした。
「そうか………君は破綻しているんだ……ね」
その歪な心の持ち方はこの世界において最も危険だ。何がキッカケでトリガーになるかわからない。それこそ、ミスラが介入してくる可能性もある。
「でも、その歪さは歴代勇者とは違う道を切り拓くかもしれないし…………もっと酷い現実を突きつけるかもしれない」
歴代勇者については調べた程度で、実際に目の当たりにしていないのでどこまで●●があったのか分からない。けれどまあ、変化があるのは間違いない。
「願わくば君たちの代で終わって欲しいね………この茶番をね」
僕は黒い雲がひらけていく空を見ながら………いやその先にいるであろう存在に敵意を示すように、睨みつけた………。
「ーーーーーーーー観測ー」
「そう、今回は早いわね。対象は?」
無機質な真っ白な空間で、両手を広げて顔を真上に上げて青くて透明感のある球体を浮かべている部下の報告を待つ。
「ーーーカラー●●●●ーーー」
「へぇ…やっぱりね……」
部下の報告を聞いて用は済んだので、部下のいる空間からいつもいる自身の空間に戻る為に門をつくり、くぐる。
いつも居る空間も先ほどの空間とはあまり変わらないが、こちらの方が落ち着く。だが、それとは別に高揚感がきてる。理由は簡単だ。順調に私の計画が動き出したからだ。
「あの男にバレる前に!必ず成し遂げる!!」
前に来たあの絶望の象徴たるバランサーを出し抜ける可能性が出た事に私は高揚感を抑えきれずに、一人で高笑いをした………。
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