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第6章 正しい歪み
第89話 侵入と対立
しおりを挟む陸人から離れてどれくらい経ったんだろう。空を飛んでコロセウムに着いたけれど、正規の出入り口には見張りが居たので2階の鉄格子の窓から鉄格子を静かに破壊して侵入した。破壊と言ってもただ炎で鉄をドロドロに溶かしただけだけど。
「透明化の魔法は無いし……慎重に行くしかないかな……」
倉庫だったみたいで、多くの物がごった返す部屋の隅で考えていると、ドアの向こうから何やら音が聞こえてきた。
甲冑を着た人が歩いている時になる音のようにも聞こえるし、犬型の魔物の足音のようにも聞こえるよく分からない足音のような音に耳を澄ませて過ぎていくのを待つ。
息を潜める必要は無いかもしれないけど、静かに待っていたおかげか音は離れていく。
「こんな事なら陸人に潜入の仕方とか教われば良かったかな~」
謎の音が過ぎて気が楽になったからか、少し抑えているとはいえ普通に独り言を言いながらドアを開ける。出た先には廊下があり、誰も居ない事にホッとしていた時にそれはやって来た。
ーゴォン……ゴォン……ゴォン……
鐘のような音がどこからか聞こえて来る。この時の私は一旦部屋に戻って息を潜めるという判断が出来ず、辺りを警戒していた。結果的にこの場に留まるという判断は一番最悪だった。
ーバゴォーン!
「きゃっ!?」
突如足元、それも私から割と近い地面が割れた。床は石レンガで出来ていたせいでその破片が飛んで来る。咄嗟に腕で顔を守ったけれど、勢いに負けてほんの少し後ろへ尻餅をつくように飛ばされた。
「何…いったい…!?」
頰から血が出るのにも気付かず立ち上がり、穴の空いた方を見るとそこには巨大な岩があった。これが下から飛んで来たって事ならこれを投げた奴を見つけないと索敵も出来ない私じゃいい的になるだけ。
取り敢えず身体強化魔法をかけて走り抜けてーー
「ギィイィィッ!!」
「ぐっ!?」
岩に背を向けて走り出そうとしたけれど、背中から強い衝撃を受けて前のめりに飛ばされてしまう。もう反射で受け身を取り、すぐさま立ち上がってぶつかって来た方を正面に見据えるとそこには跳ねる先程の岩があった。
「まさか……あの岩自体が魔物!?」
「ギィィリィ!」
驚いたのが嬉しいのか怒ったのか、勢い良く突進してくる岩。鳴き声がする以上、中に声を発せられる器官を持った魔物がいるのは間違いない。なら、岩ごと消し飛ばせば!
「"フレアバースト"!」
右手から爆発的に発生した炎が周りの壁を抉りながら岩へと詰め寄り、岩の突進の勢いなんて無かったかのように一瞬で岩を砕き、中に居た魔物らしき生物を灰にした。それでも炎の勢いは留まる事を知らず、壁を抉り続けて廊下の曲がり角を穿ち消えた。
「………やば」
「火災発生!襲撃者だ!!襲撃者だぁ!!」
どうやら壁を抉られた部屋の中に人が居たらしく、ぞろぞろと人が出て来て、騒ぎを聞きつけた人まで来ているのか遠くからものすごい数の足音が聞こえてくる。
いつも先の事を考えないところを紅葉さんに怒られていたけど、まさか今それを痛感するとは思わなかった。……その事で怒られた時は陸人が居るから大丈夫って返していたけど、この異世界に来てからはそうも言えない事があるって考えておいた方がいいよね。
「居たぞ!女1人だ!必ず捕らえろぉ!」
「うっさいよ、"フレアダスト"」
右手から火の粉が私を捕らえようとする男たちの周囲に舞い散り、右手を握りしめたのを起爆の合図として一気に爆発して外や部屋に吹き飛ばされた人、酷めの火傷を負った者や火だるまになる人など様々だけれど誰一人として先程までの威勢を見せる者は居なくなった。
「ねえ、ここに居る一番偉い人は何処?」
私に最も近くにいたのにも関わらず、一番軽傷の傷で済んでいる男に聞く。一番軽傷と言っても、もう剣を握って冒険をする事は不可能なぐらいだけど。
「……貴様は何者ーーぐっ!?」
「私の正体なんてどうでも良いでしょ?それとも冥土の土産として聞いているなら、答えても良いよ。答えた後でしっかりと教えてくれるなら」
男が一番怪我している場所ーー炭と化している右腕の肘部分を踏みながら淡々と告げる。
痛みで叫びたいはずなのに、歯を食いしばって耐える男。私に弱い所を見せないためだろう。……この男からは情報は取れなさそうか。
「もう適当に探すしかーー」
「こっちから音がしたぞぉぉ!!」
足元の男を蹴り転がし、取り敢えずこの場を離れようと足を踏み出そうとしたが一人の大きな声と複数人の足音が聞こえて足を止める。
普通なら増援が来た時点で逃げた方がいいが、敵のレベルからして脅威でもない相手に逃げる必要もない。堂々とするつもりもないが、背後から聞こえる足音に視線を向ける程度に相手を見た。
「あなたが!隊長………を…」
3列に並んでいる多くの兵の後列から先頭に出て来た若い男。侵入者に対して、見知っている人を殺され深傷を与えた恨みをぶつけるはずだった言葉は驚きによって消えた。
それは私にとっても驚きだった。若い男は初めてこの街に入った時に出会い、宣伝までしてくれたであろう門番だった。
「………どうして…っ!あなたが!!」
「ーーっ」
兵たちの共通装備の先端の尖っている部分のみ鉄が使われた自身の木の槍を投げられた事に気づくのが遅れ、横に避けるのが遅れて右腕にかすって僅かに血が出る。
鋭い痛みに腕を押さえて男を見ると、悲しそうな目で私を見ている。槍を投げた事を後悔しているようだ。それは私のような子供に対する自分の行動による後悔か、私という危険な存在を見逃した事による後悔か。
「……大人しく捕縛されてくれ。何故このような事をしたのかゆっくりと聞かせてもらうから」
「……それは出来ません」
子供に対する憐みのようなものか、大人として子供を守る責任があるのか、ここまでした私に対する甘い処置に顔をしかめる兵もいるが、同じ思いだと同意している人も少なくない。
そんな優しい人たちの慈愛のある表情は私の断りによって曇りを見せた。
「勿論、私のやり方が正しいとは思ってません。ですが、私にも私の正義があり、時間も無い今強行策として今夜強襲しました。………私は私なりの勇者として、この街を救います!」
私の「勇者」という言葉に動揺しているようなざわめきが聞こえて来る。だが、他の兵は動揺しているのに対し、戦士として強い目で見つめる門番さん。
「勇者……様だったんですね。やっぱり。……確かに、この街には何かしらの闇があるのは薄々気付いていました。犯人も分からないまま積み上がる謎の死体に………… 街の居住権を得られなかった人たちの消滅……。あなたはそれらを解決しに来たんですね」
あの異様な光景、あの人たちはこの街に住めなかった人たちだったんだ……。
その事に薄々気付いていたこの人は真面目な人だと分かる。だからこそ………
「だからといって、今この場であなたを逃す訳にはいきません。あなたの正義があるように、自分も自分の正義があります。……捕まえさせてもらいます」
鋭い目で隣にいる兵から槍を受け取り、構える門番さん。他の兵たちも同じ覚悟を持っているようで、通路を塞ぐように横に広がって槍を構える。
「……じゃあ、戦うしかないね」
手に大きな炎を浮かべながら門番さんを正面に見据える。
「一つだけ聞いていい?………私たちの芸……いや、私の自慢の執事の芸はどうだった?」
これから戦闘が始まるのに、世間話のような質問をした私に対して、少し笑いつつも子供の成長を褒めるかのような優しい笑みでーー
「とっても良かった。まるで勇者様が降臨されたかのような、みんなの心に光を照らした良い芸でした」
とびきりの褒め言葉を受け止め、私は手を正面に向けた………。
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