職業通りの世界

ヒロ

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第6章 正しい歪み

第96話 思わぬ介入

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「ーーカハッ!」

 僕の渾身の一撃をまとった槍を砕かれ、胸を変わったミスラの槍に貫かれた。その胸から何かが侵食してくる。

「じゃあね、名も知らない勇者さん」

 槍は僕の何かを吸い取り、引き抜かれた。………多分、勇者としての力を引き抜かれたんだろう。…僕にはその力を引き出す事が出来なかったけれど、何かを吸い取られた感覚は、明らかに僕の中の大事なモノを吸い取っていったように感じた。

 意識が…………薄れていく。…これが…死。…………孤独感が支配していく…、でも……誰か…呼んでる。………懐かしい声がーー








「これで漸く元の勇者ナチュラルに与えた力は回収しつくした。後は……まだ少しは時間がある。急げば間に合う可能性もーー」
「それはまた、楽しそうな事を考えているな」

ーコツンッコツンッ

 今まで全く聞こえて来なかった声、足音が近づいて来る。それと同時に絶望的な神気もーー

「なぁ、なんで戦乙女たるあんたがここにいるんだ?まだーー救いの手を差し伸ばすのには早い気もするし……何よりこれは救いの手ではなく、私欲の手だ」
「ヒッ!」

 思わず後ずさる。こんな、ところに!なんで!なんでいるの!!あなたがーー『世界の守護者 バランサー』が!

 ………ダメ、今じゃ全く勝てない。殺される……っ!今吸い取った力はもちろん、これまで積み上げてきた全ての力を用いてこの場から逃げないと!!

「擬似神器"ヒルドゲイラ"起動!最大出力っ!!」

 本来想定されていないほどのエネルギーを充填してさせていく。擬似神器である"ヒルドゲイラ"は裁定の槍。人から分不相応な力を抜き取り、その力を担い手に相応しいか試す。

 本来なら私じゃ不充分かもしれないけれど、戦乙女には人に力を貸し与える側面がある。それを利用して、力の本来の使い手が見つかるまでの繋ぎとして限定的に力を行使出来る。

「どっか行って!」

 槍を勢い良く投げつける。槍は真っ直ぐに『世界の守護者バランサー』の心臓へと突き進みーー

ーバリィン!

 ーー簡単に握りつぶされた。

「えっーー」
「弱いな、まるでなっていない」

ーブシュウゥ!!

 槍が砕かれて唖然としていたら、今度は私の胸から血が吹き出した。……よく見ると、まるで刃物で斬られたかのようにバツ印になるように胸が斬られていた。

 『世界の守護者バランサー』の手を見ても刃物は持っていない。代わりに手に血がついていた。………という事は、これだけ離れていながらも手刀で斬られたって事?

 私と『世界の守護者バランサー』の間には決して遠くはないが近くはない。戦闘においてはないような距離かもしれないけれど、それにしたって彼は退屈そうにしている!片手間にでも私を斬れるっていう事!?

「本当はもう少し調べる予定だったが……、現行犯を見たらもう調べなんて必要ない」

 『世界の守護者バランサー』の表情はよく見えないけれど、空気が冷えていくのは分かる。私を殺す気だ。……嫌だ、まだ何も出来ていないのに!

「ーーっ、誰だ!」

 突然爆音が轟き、彼の声と何かが落ちる音がした。爆音はどうやら矢が飛んできたからのようで、何かが落ちる音はその矢を射た者が落ちた音だった。

 ………よく見れば『世界の守護者バランサー』の足元にヒビが入っている。そして、倒れている矢を射ったであろう人物の頭を貫通している矢はまるで正面から貫かれたかのように後頭部に矢の先が出ている。

 この男は咄嗟に自分に射られた矢を掴み、そのまま投げ返したというの!?全く予想外の事態だったはずなのに、正確に頭に矢を返すなんて…………化け物にもほどがある!

「いやはや、やはりあなたはお強い。我々では手も足も出ませんな」

 いつの間にか隣に立っていた初老の男はキッチリとしたタキシードのような格好で、『世界の守護者バランサー』と向き合っていた。

「そうか?そういうあんたは………あ~あ、今日はツイてる。殺すべき神をもう1人見つけられるとは…」

 『世界の守護者バランサー』は嬉しそうにぼやくと、真っ黒な大剣を取り出す。片刃のその大剣は身の丈に迫ろうかというぐらい大きく、そしてーー

「あまり見ない方が良い。あれはーー」

 初老の男は私に警戒をしようとしたけれど、姿を消し、少し離れた場所で『世界の守護者バランサー』と現れた。その手には短剣が握られていて、頭から血を流し、短剣を握る手から上の腕の服は破れて筋肉隆々な肌が出ていた。

「さっさとお行きなさい、彼から時間を稼ぐのは容易ではない」
「はっ、はいっ!」

 私はすぐさま管理者としての権限を行使し、未だ神界から差す光に入り、神界へと自身を転送させる。

 『世界の守護者バランサー』と初老の男の姿は見えなかったが、先ほどとうって変わって激しい金属音と爆発音のような地面が破壊されていく音を聞きながら、生きた心地のしない転送までのタイムラグを過ごし、神界へと帰った。

 私は逃げ帰ったのだ、完膚なきまでに叩きのめされて。傷は神界に帰投した今では対した事ではない。
 だが、今まで地道に蓄えた力を内包していた擬似神器を無くし、『世界の守護者バランサー』に目をつけられた。

 管理者である私の神界へは私の許可無しに入る事は出来ないが、あの化け物相手ではこの常識が通用するとも言えない。けれど、私は待つしかない。あの時まで………。







「はぁ、はぁ。ゴボォォッ!」

 目の前に膝をつき、血反吐を吐く男。ミスラとかいう神を逃して時間稼ぎをしてきたけれど、それなりに出来る程度で大した事は無かった。

「やはり……私程度では敵いませんね…」
「そんな事はどうだって良い。お前の組織、『神の強欲ゴットグリード』について洗いざらい吐いてもらうぞ」

 刃を首元に向けて脅す。そう、これは脅し。交渉でもなく、ただ情報を渡すように圧をかける。

「どこで私が『神の強欲ゴットグリード』の構成員だと気付いたかどうかは…分かりませんが、………告げ口はしない主義でして」
「そうか、なら死ね」

 話すつもりもない奴に脅しを続けても意味が無い。なら、もう殺すべきだ。

「ええ、生死などどうでもいいのでどうぞ。ですが……これだけは言っておきたい。…………あなたのその生き方はあまりにもーー」

 言い終えるよりも早く首を落とす。首を無くした体は倒れて動かなくなった。……落とされた首は顔を地面につけていて表情が見えなくなっていた。

 見えなくて良かったかもしれない。もし、その顔が憐みの表情だったらきっとーー

「………はぁ、疲れてるな。ミスラは今頃こもっているだろうし、しょうがない。もう少し調べてみるか」

 もちろん、別の世界に行く選択肢もある。この世界に『神の強欲ゴットグリード』が居たのは予想外だったが、もうこの世界に居ないだろう。今のはミスラを逃す為に介入してきただけであって、もうミスラが神界にこもった以上、助けは要らないと考えて手を引いてるはずだ。

 そもそも、何故あんな下級な奴に『神の強欲ゴットグリード』が手を貸した?……何か、ミスラとは別の目的があるのか?…それはミスラが目標を達成すると同時に達成出来るから、手助け程度にとめている……。

「面倒だな……楽な仕事かと思ってたら根のある問題があるかもしれない。……いや、そうじゃなくても味方でいるべきなんだ、人間の」


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