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第6章 正しい歪み
第97話 変わらぬモノ
しおりを挟む街の人たちは唖然としていた。謎の光が降り注ぎ、そこから微かに聞こえる爆発音。何かが起こっているのを薄々と感じながら何も考えず、ただ待った。…いつもこの街のために動いてくれたナハリヤからの言葉をーー
「陸人!宿屋に向かって!場所は教えるから」
「承知しました」
陸人は後ろを振り返る事もなく、宿へと私を抱えて飛ぶ。その顔に感情は見えなくて、陸人が完全に変わってしまったのだと痛感してしまう。
多分『暗転』との戦いでなってしまったのだろうけど、『暗転』が原因なのか、それとも陸人が何かをしたからなのかが分からない。ナハリヤやミスラ様は何か知ってそうな感じだったけど聞ける訳もないし…………。
「陸人……ねぇ、私の事分かる?」
陸人は変わってしまっている。それなのに私を助ける理由はもしかして職業だからなんじゃ……
「…適切な回答が出来ません…ただ、何があってもあなたを守ると…………そう記録しています…」
陸人は機械的な返答ながらも、精一杯私に気を使ったように感じた。それに……今の陸人が覚えてなくても、陸人は私を守ることだけは引き継いでいる。
今はそれで……良いかな…。
「うん………ありがとう」
きっと、陸人は戻ってくれる。もちろん、楽観的に思ってないし、戻す方法は探し続けるけど………陸人自身だって戻ろうとしているかもしれない。うん、だって今私を片腕で運んでいるのをいつもの陸人が見たら耐えられないと思うし………
いよいよ宿屋が見えてきた。もうこの街に用は無いし、何より早く帰らないと。…本当はこの街で大変な想いをしてきた人たちも解放してあげたいけど、今はそんな余裕はない。報告する時には助けるように訴えかけよう。
「陸人、ちょっと止まって」
宿屋の屋根に着き、降りようとしていた陸人を呼び止める。陸人は止まってと言った瞬間に動きを止めて私に振り返る。陸人の首には未だに傷を隠すかのように黒いモヤがある。
腕にもあるけど、それは最悪長袖を着れば問題ない。でも、首は………目立つね。
「うーん…陸人、何か作り出せない?」
「……出来ません、今自分のスキルはお嬢様関連のものしかありません」
………そっか~、陸人に頼ってたツケが回ってきたな~。………じゃあ、仕方ない。
「ちょっとここで待ってて!」
陸人にその場に居るように、スキルの命令権も使用してその場に留まらせる。陸人が付いてきちゃったら街の人に陸人の首の傷が見られちゃうしね。
「あ、そういえば馬車も取りに行こう!巧くんに頼んでいたけど、無理だった場合もあるし」
ポケットをまさぐって、陸人に預けられた2枚の金貨を握りしめて駆け足で目的地に向かう。
『お嬢様、何か欲しいものがあればこちらをお使いください。大丈夫です、些か予定外でしたが芸でひと稼ぎ出来ましたので』
陸人がお小遣いのように渡してきた金貨。今の陸人には色んなものを収納していたスキルも使えないだろうし、この金貨は私たちのために使うよ。
馬車と目的の物を買い揃え、馬車を宿屋の前に止めてもらうよう、馬車を預けていた宿の人に頼む。
……いや~、意気揚々と馬車を取りに行ったのは良かったけど、運転出来ないの完全に忘れてた…。ちょっと相場より高いところだったけど、こういう時にそつなく対応してくれて良かった~。
「では、これで」
「ありがとうございました~」
ちょっと無愛想な強面の運転手さんを見送ってから、宿屋の裏手に回って誰も見てない事を確認してから魔法で風を起こして屋根まで登る。
降りる時は人目を気にせず、魔法で落下の勢いを殺して着地したから目立ってしまったのを反省したから、今回は人目につかないようにした。
「陸人~、これつけて?」
「承知しました」
陸人に手渡したのは、紺のストールのようなもの。陸人はそれを巻きもせず首からかけたので、ちょっと笑っちゃう。
「これは巻いてね」
陸人の正面に立ち、ストールを巻いてマフラーのようにする。首が丁度隠れて、ストール自体をそこまで長いのにしなかったので垂れ下がってなくて邪魔にならなそう。
「これを私と2人っきりの時以外はずっと巻いててね」
「承知しました」
陸人はただストールを見て………口元をストールに隠した。私がジッと見ているのが恥ずかしいと思ったのかな?
気のせいかもしれないけど、どこか陸人の雰囲気が柔らかくなったような気が…いや、気のせいかも。
「じゃ、みんなとこれからの事を話し合いに行こっか」
「はい、どこまでもお供します」
…………結論から言うと、この街から離れる事になった。うん、それは満場一致。だけど……
「陸人っ!陸人っ!おいっ!なんか無愛想さが極限まで来てないか?」
「リクトさんっ!私の事覚えてますか?」
「リクトっ、あなた……一体何があったのよ!」
陸人は巧くんとメサちゃん、メイカちゃんに質問攻めされている。陸人が壁を背に立っていて、背以外の3方向を囲うかのように逃げ場を防がれながら。
陸人はそんな事をまるで何とも思ってないかのように、黙って立ち続けている。それが余計に3人の不安を誘っているのも知らずに。
「陸人は、よく分かんないけど記憶が無くなっちゃったの!だから、みんなで助け合おう?」
「朱音ちゃん!それじゃあ結局何も分かんないまま!ここは本人に聞いた方が…」
「ねぇ、リクトさん。私たちあなたに助けてもらったんですよ?だから…リクトさんが忘れても私たちはリクトさんに恩返しします!記憶を無くしている今だからこそ!!」
メサちゃんは気合がすごく入ってて、メイカちゃんは……
「リクトっ、どうすんのよ……あんたがこんなんで…」
ちょっと泣きそうになっている。無理もない、陸人は絶対に何とかしてくれる頼れる存在であると心のどこかでずっとあった。そんな陸人が記憶を失くすような事があったのは…………不安になる。
「もう、早く行かないとダメなんだからっ!陸人の事はどうにかしないといけないのは私も同じっ。だからこそ、今出来ることをしよう?」
私の訴えを聞いて、ずっと落ち着かなかった3人は落ち着きを取り戻し始めた。
「そう……だな、陸人ばっかに負担をかけた俺たちが何とかしないとな」
「…そうですねっ、私たちがしっかりしないとっ」
「………ま、まあ、仕方ない…よね」
うんうん、みんながこれで漸くまとまってーー
「この3人は敵対者では無いのですね、承知しました」
陸人の場を考えないような発言に、一瞬でみんなが不安を感じたと思う。
「メサちゃん、メイカちゃん。馬車お願いね」
「任せてくださいっ」
あれから微妙な雰囲気になりながらも、宿屋を出て、馬車に乗って街の出口へと向かう。
…街は落ち着きが無かったけれど、努めて普段通りにしているのが見て取れた。この街で何かが起きたのを知っているのに、ナハリヤが何とかしたという報告を待つかのように。
「そういえば、巧くん。移動手段はどうなったの?」
「ああ、そういえば言ってなかった!朱音ちゃん、聞いてよ!ここから《グレイア》まで3日で行ける方法が見つかったんだよ!」
「えっ!?本当っ!?」
正直、そんな方法なんて無いと思ってたから「すごい!すごい!」と巧くんを褒める。
巧くんは気分が良さそうに、鼻を高くして話し始めた。
「本当はそんな上手く行くはずないって思ってたけど、まさかここまでタイミングが良いとか、自分の運が怖いね!」
「ねぇねぇ、どうやって行くの!?もったいぶらずに教えてよ~」
「ふふんっ、答えは街を出たら分かるよ?」
「えぇ~!」
私の不満げな声はきっと馬車の外にも漏れていたと思う………。
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