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第6章 正しい歪み
第98話 空からの再会
しおりを挟む激しい戦闘の音が止まず、弱音を吐く人を叱咤する強い声が聞こえて来る。…もうあれからどれくらい経ったのだろう。
陸人さん達が任務に出て行ってから、騎士団長さんが居なくなったらしい頃から………もう、ずっと落ち着かない。
陸人さんからもらった私を隠してくれるマントを頭から被って部屋の隅でジッとする日々。………足元に置いている堅パンとかの保存食のストックも少ない。
……陸人さんのご飯を食べたいな。朱音さん達がやってた遊びをしてみたかったな。
………………大丈夫、きっと陸人さんは帰ってくる。いつになるか分からないけど…
「あ、あれ……涙が…」
思えば寂しさを感じた事なんて、お母さんが死んじゃった時と…………お父さんが死んじゃった時。お母さんの時はお父さんが居たし、お父さんの時は……陸人さんが居てくれた。
「……一人は怖いよ…ねぇ…お母さん、お父さん……………陸人さん…」
誰にも聞かれないように声を殺して……………涙を止め…たいのに止められない…。
お願い、一人にしないで……。
「ありゃりゃ、これはもうこの街には居られないね」
屋根から見下ろせる街の風景。いつもなら活気あふれる賑やかな人達が見えるのに、今はソワソワと落ち着きのない人たちが見かけだけのいつもを演じている。
無理もない、突如現れた黒い雲に光の柱。コロシアムの近くから聞こえてくる激しい破壊音が聞こえてきたという、人の噂。極め付けはナハリヤからの言葉が無いこと。
この街はどんな些細な問題でも、噂話だけの事であっても、ナハリヤが全て解決する事で平和を維持してきた。
もちろん、ナハリヤがただ良い奴だったからという事ではなく、全ての問題を解決することで、ナハリヤからの情報が全て正しいと思い込ませて情報を完璧に統制した。
『暗転』が長い間殺人を続けられたのも、魔物の餌、苗床としての人の確保をいとも簡単にしたのも、この情報統制があったからこそ。
だからこそ、何も情報を与えられない人は不安を感じてしまう。いずれ、ナハリヤが死んだ事を知れば、都市機能は瞬く間に機能しなくなるだろう。
「勇者さん達も出て行っちゃったし、そろそろ出発しよっか~」
背伸びをして、次はどの街に行こうか考えながら荷物を預けている宿屋の方向へ振り向くと、知らない男が立っていた。
その男はミスラを赤子の手を捻るかのように追い詰めた………勇者さんと同じような外見をした…
「出て行く前に聞きたいことがある」
「……っ、な、何かな?あなたほどの人が知りたい事を知ってるかは分からないけど……」
殺意も敵意も感じられないけど、濃密な魔力に体が押し潰されそうになる。だけど、今ここで逃げる方が怖い…!
「お前は………、いや、この聞き方では誰かに聞かれた場合が面倒か…。………………お前は…これからどうするんだ?」
何かしらに配慮して聞いてきた質問に答えるのは難しい……。けど、協力してもらえるのならーー
「あの神を…………引き摺り下ろしたい」
「…ふっ、そうか。なら、協力は出来ないが、邪魔はしないし手助けもしない。思いのまま成し遂げてみよ。人間はそれが出来る」
男は何か納得して消えた。急に体が軽くなって、力が抜けてその場に座り込んだ。…ドッと冷や汗が吹き出るのを感じながら、気になったのはーー
「あなたも人間なんじゃ………」
優しい目をしているのに、憎悪の決意に塗り固められた歪な在り方をする男は…何を考えているのだろう………。
天気も良く、気持ちの良い空。風を感じながら雲を通り抜け、進行方向が手に握るコンパスの指針とズレていないか確かめる。
地上を走る馬車を簡単に置き去りにして進む。目的地はもうすぐ見える。しばらくぶりに会えるのが嬉しくて、ついつい無理をしちゃっている。
連絡があったのはほんと最近。昨日にいきなり連絡が来て、送り迎えをしろと言う。
あんまり親しく無い人からの連絡だったから断ろうと思っていたけど、朱音ちゃんが困っているんなら、全力で力にならないと!
私が居た街とはそれなりに近かったのもちょうど良かった。じゃないと着くのが遅くなってたし………
長い首の背を優しく撫でると、クルゥゥと可愛らしい声が聞こえる。これは甘えている声。こんな高速で動いていても、私を気遣って風とかを軽減する魔法を張りながらも、僅かな感覚にも気付けるみたい。
「…お願いね、無理させるけど」
「クルゥゥ!」
またまた甘えたような声で返事をして、速度を上げた。
「ここで待ってたら来るの?」
「分かりやすい場所で待つように言われてるんで、多分ここで合ってると思いますよ~」
街から出てすぐのところ、少し小高い丘の上で馬車を停めて待っている。巧くんがここで待ってたら迎えが来るって言うけれど、辺りには馬車も見えない。
「陸人、火を焚いてくれ」
「どうされますか?」
巧くんに頼まれたのに、私に判断を委ねてくる陸人。「うん、やってあげて」と返しながら、陸人を見る。
陸人は3人と出会っても自我を取り戻す事なく、未だ私の指示なしでは何もしない。
巧くんは少し不満げだけど受け入れてる感じがするけど、メサちゃんやメイカちゃんは今の陸人を受け入れがたいといった感じがする。
「おっ、きたきた」
陸人が焚いた火に巧くんが何かを入れて赤い煙を上げ始めて数分後、ずっと空を見ていた巧くんが嬉しそうにしている。
何が来たのかわからないから、空を見上げると何がこっちに飛んできた。遠すぎて黒い点のようにしか見えないけど、だんだん近づいてきて全体が見えてきた。
「あ、陸人。あれは攻撃するなよ?」
「お嬢様」
「……………あ、うん。攻撃しない…でね」
迫って来るものをジッと見つめながら返事をするけど、もしアレが予想通りならーー
「ねぇ、巧くん。見間違いじゃなかったら………ドラゴンが来てない?」
そう、ナハリヤが出現させたドラゴン。苦戦したあのドラゴンに似たのが飛んできているのが見える。
「そう!馬車よりも早くて複数人移動させることのできる交通手段!」
敵意は無いらしいので、取り敢えず待つことにした。心なしか馬車の馬が落ち着きがないように見える。
そして、ついに到着した。私たちを軽く超える大きさで、圧倒的で、生物的な頂点に立つ存在。ドラゴンが降り立った。光沢のある群青色の鱗のような体で、長い首を地面に降ろして項垂れる。
その首を歩いてドラゴンから降りた、ドラゴンという存在を従えていたのはーー
「くるみちゃん!!??」
「久しぶり…だねっ…!あ、朱音ちゃん」
オドオドとした雰囲気は残っているけど、この世界に来た頃よりも逞しさが見て取れるくらい、良い方向に成長したくるみちゃんがとびきりの笑顔を見せてくれた。
……なんか懐かしくて、思わずくるみちゃんに駆け寄って抱きしめた。勢いをそのままに、背中から倒れたくるみちゃんを逃さないように抱きしめる。
「あ、朱音ちゃん!ど、どうしたの!?」
「…なにもないよっ、ただ抱き締めたかっただけ…!」
くるみちゃんは怖がりで、いつも私と一緒にいた。けれど、この世界に来てしまい、争いに巻き込まれてしまった。争いなんて出来るはずもないくるみちゃんが不安に思うことは少なくなかった。けれど………ドラゴンを従えるくらい強くなって!
きっと大変だったのに…!辛かった事も多かったはずなのに!こうして、それらを乗り越えたであろうくるみちゃんを見て…………褒めたくなったけど、言葉にするよりも…こうして抱き締めたくなっちゃった。
「朱音ちゃん、大変なんだよね?……これからは私がっ……ち、力になるからっ」
「……うん、うん…。ありがとうっ」
草原に寝っ転がって……お互いに顔を見つめ合い、笑い合った………。
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