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第7章 選定戦争
第102話 戦況を覆す
しおりを挟む我らは遊ばれていた。偽りの拮抗した戦況は、たった1日で覆った。カレナが居なくなったのはやはり大きく、ガレトごときの力ではこの戦況を変える事は出来ない。
ならば、せめて最期まで抗った誇り高き王としてあろうと敵の大将の特徴を雑兵から聞き出し、敵を蹴散らしながら探し続ける事で見つけた。
相手が自分より強い事は見ただけで分かったが、引くわけにはいかない。
「貴様らっ!この地を汚した罪は重いぞ!」
被害は甚大で、こちらの勝ち目はほぼ無いが頭を潰せば指揮系統も狂う。何より最期の武功をあげられる。
「俺がやりますっ、暇だったんでぇ」
だが、主戦力の1人であろうがトップではなさそうな男が相手をするらしい。この男にも勝てそうには無い。……もうこの国は俺の代で終わり…か……
「さぁ、退屈させるなーー」
ードゴォーンッ!
死を悟るが、往生際悪く暴れてやろうと思っていたところに何かが飛来した。
巻き上がる砂埃の中、顔を覆って前を見るといつの間にか居た勇者の中でも一番まともに使える執事が…………こちらを虚空の目で見つめていた。
「ここに来るまでに見た人物の服装的特徴を照合……負傷及び死亡している大多数の人物と70%の精度で同一の服装的特徴が一致。残り30%は過度な装飾が原因。そこから、身分の高い人物と推定」
あまり話した事もない奴だったが、ここまで人とは感じられない奴では無かったはずだが……。
「お二人方の名前を伺ってもよろしいでしょうか?あるのであれば身分もお願いします」
「あ、あぁ………。俺はディラス、この国の国王。そして、こいつが副騎士団長のガレトだ」
戸惑いつつも正直に答えると………気のせいか、雰囲気が柔らかくなったような気がする。
「………保護対象の判別…国王ディラスと副騎士団長ガレト確認。残りティアナとリーナとカトラ。服装の特徴からその他保護対象を識別。……………脅威となり得る3名の敵を排除します」
代わりに敵への敵意は無機質な顔からでも分かるほど滲み出していた……。
「はっ、やれるもんならやってーー」
イーグルが2本の槍を振り回しながら陸人へ突進していく。陸人はそれを見ても動じず普段通りに歩くかのようにイーグルへと向かう。
イーグルが舐められていると思い、顔をしかめて真っ当に戦う意志から怒り任せに攻撃するような考えにシフトする間の僅かな気の緩み。
そこを陸人は突いた。
「……………」
「がはぁっ!!?」
無音。音も風の流れも無いのにいきなりイーグルの目の前、槍と槍の間に現れた陸人は心臓へ拳を真っ直ぐぶつけるのと同時に黒い霧を背中から腕へ、そして拳に移動させ、三角錐に尖った槍のようなものを形作り、心臓を穿った。
一瞬の出来事で助けに入る事も出来なかったアルフノフが現状を理解した時にはイーグルはアルフノフより後ろへ吹き飛ばされていた。
「イーグルっ!!?」
慌てて駆けつけ、携帯しているハンカチをキレイに空いた胸の穴に当てるが、血はハンカチが吸い込める量を超えて地面へと溢れていく。
普段はいがみ合っているが、戦友として認めていたイーグルがいとも簡単に殺された事実に怒り、陸人の方へ振り向いた。
だが、怒りは消え、唖然とする。何故ならある一定の距離は離れていたはずの陸人がすぐ目の前にいたからだ。
すぐ近くにいるイーグルと同じ死を迎えると覚悟したーーが、陸人は離れ、代わりに目の前に赤黒い剣を構えたクーティスが居た。
「今日のところは撤退するぞ!アイツはマジでやばい!そいつを抱えて早くっ」
いつも冷静なクーティスが声を荒げ、落ち着きのない様子で撤退を促すのを見て、アルフノフは考えるよりも先にイーグルの腕を肩に回して体を支えながら撤退する時に決めた場所まで歩き始める。
「……対象、殲滅」
生気の無い声で黒い霧を矛先が三角に尖った細長い槍へと変化させてアルフノフへと迫る。
「させるかっ!」
クーティスはそれを遮るように剣で槍を防ぐ。成人にもなっていない少年に力で押されつつも堪える。
「くっ………!出し惜しみしてられないか…!魔剣よ!!」
クーティスの呼び声に応えるように魔剣から赤黒い煙が吹き出し、赤黒い炎を剣に纏わせる。
次第に押し返され始めた陸人の槍。それを見ても表情を変えず、陸人は力の入れる量も変えない。
「弾けろぉ!」
剣からカチカチと音が鳴り、小さな火花が煙に接触した瞬間、陸人とクーティスを覆っていた煙が全て爆発した。
ーバゴォーン!
地面の石レンガを砕く破砕音が鳴り響き、爆発に巻き込まれても剣の力で無傷なクーティスが爆発の炎と煙から爆発の勢いに押されたように地面を滑りながら出てくる。
「能力をこんな早く見せたくはなかったが……」
クーティスは悔しそうにぼやきながらある場所を見つめる。当たればただでは済まない爆発を受けて無事でいる筈もないと思いながらも、視線は炎と煙が舞い上がる所から離せないからだ。
さほど時間がかからずに煙と炎が落ち着き視界が通ってきた。今のうちに陸人を探すとその視界には真っ黒な球体が映った。
「なんだ……?あれは…」
クーティスの疑問に答えるかのように、黒い球体にヒビが入り、砕け散りそうなくらいヒビが入った瞬間、黒い霧に霧散して中から陸人が出てくる。
「あれを防いだ…!?」
「対象を…処分」
驚いているクーティスの背後に陸人は現れ、左の横腹にかかとで蹴りを打ち込み、アルフノフが逃げている方向とは逆に吹っ飛ばす。
「がふっ!」
イーグルと同じような穴が出来ることはなかったが、内臓を幾つも潰され、血反吐と吐瀉物を撒き散らしながら転がり回る。
「……ぐっ!魔剣の……全てを使わないと…殺されるかっ!?…」
転がり回りながらも魔剣に力を込め、剣の刃から黒い液体を辺りに散らばす。
陸人はそれらを徹底的に躱してトドメを刺しにクーティスへと迫る。
「チィッ!魔剣よ!黒い染めろ、"黒無帯"」
黒い液体を撒き散らせながら振るわれた魔剣を槍で受け止めるのと同時に陸人は液体を浴びる。
地面に付着したその液体は一瞬白へと変わった瞬間に消えた。…………塗られた地面にちょうど液体が付着した位置に深い穴を残して。
黒い液体は任意のタイミングで魔剣の圧縮空間へと全てを飲み込みながら消える。
それは人も例外ではなく、故にクーティスの持つ魔剣の最大の技。液体が付着した時点でクーティスの勝ち……だったがーー
「……っ!何故消えない!?」
陸人は消えず、槍に入れる力を強めていた。クーティスが何とか押し留めている間に陸人の液体がかかったところを見ると……黒い霧が液体が陸人に直接かかるのを防いでいるのが分かった。
なら、霧が圧縮空間へと行くはずなのに霧は何とも無い様子で陸人の背中へと帰っていく。
「……対象を…排除」
動揺するクーティスの剣を上にかちあげ、心臓に槍を突き刺そうとした瞬間ーー
ーキィィンッ!
硬い金属に阻まれてその隙にクーティスを連れ飛び退く。
陸人の一撃を防ぎ、クーティスを抱えながら大きく飛び退くことで距離を取ったのは…………青山翔太だった。
「あいつは!」
陸人と敵の凄まじき戦いを見ることしか出来ず、国王として以前に戦士として悔しい思いをしながらも陸人に託すことしか出来なかった。
陸人が優勢で、敵の大将を討ち取ろうとした時に横槍が入った。その人物は陸人共に召喚され、王城を去った勇者の1人だった。
そいつは騎士らしい頭を除く全身に青を基調とした甲冑を着て、腰に剣を携えなから剣のない方に敵を抱えている。
そして、甲冑以上に目立つ頭から下全てを隠せるほどの大きな盾を持っていた………。
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