職業通りの世界

ヒロ

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第7章 選定戦争

第101話 第一次戦況:敗戦濃厚

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 爆炎によって壊滅した人たちの身元は何も残ってなくて、手掛かりなしで終わるところだったけどーー

「テイマーは従えている魔物、トゲちゃんと意識を共有する事が出来るの。それを使ってあの人たちをトゲちゃんの視点から見たら………あの人たち、私たちに敵意を持ってた」
「敵意?」

 くるみちゃんは休むことなくトゲちゃんを飛ばせながら話を続ける。

「うん、強烈な敵意。その敵意は私たち……正確には王都に向かおうとしている者への敵意、そして……この国自体の敵意も」
「そこまでわかるの?」

 トゲちゃんはドラゴン。ドラゴンの視点で私たちがどんな風に見えてるのか知らなかったけど、くるみちゃんが言うには

 人の顔の識別も可能で、人が見ているように色もある。そこに、人の意識が向いている対象が霧のようなものになって見えるらしい。
 恋人を想う気持ちならピンク色の霧が意中の人まで伸び、殺意なら赤黒い霧がその人に向かう。

 トゲちゃんの視点から見て、あの人たちは赤…敵意を私たちとこの国ありとあらゆる場所……特に王都へ向けていたらしい。

「つまり、あの人たちが王都を攻め込んでいる人たちと関係があるかもしれないってこと?」
「分からないけど……凄く怖い。だって…王都を見たら赤や黒が入り混じった霧がたくさんあったから」

 私には分からない感覚なんだけど、くるみちゃんが怖がりながらも頑張って何とかしようとしている姿を見れば分かる。

「くるみちゃんとトゲちゃんは頑張ってくれてるし、王城に着いたら私と巧くんに任せてっ」

 今はくるみちゃんに頼るしか無いけど、だからこそ私にも出来る時くらい頑張らないと。

「うんっ!……トゲちゃん…もうちょっと頑張ってっ」
「クルゥゥ!」

 トゲちゃんはなお速くなり、空を飛ぶ。

 





 また今日も半日休みなく戦い、疲れ切った体にムチを打ちながら気持ち程度の防壁を作り、死んだように寝床に倒れて寝る1日だと思っていた。

 ……だが、これは何だ?人が死んでいる。今までも多少の死者は出ていたが、これほどヒトが死んでいた事なんて無かった。

 血が地面を染め、悲鳴や恨み声が聴覚を支配する。きっと…悪い夢なんだ……。だから、この…腹から……溢れる血や臓物もきっと…………夢であってくれ。

 どうしてこうなった?騎士団長様が居なくなったからか?それともーー







「くるみちゃんっ!王城が!」

 ようやく見えて来た王城は煙が上がり、陥落寸前に見える。
 くるみちゃんはトゲちゃんにもっとスピードを出すように言うけど、それでも間に合わないかもしれない。

「陸人っ!来てっ」

 スキル意思疎通を使い、呼びかけるとすぐさま私のすぐ隣に跪いた状態で陸人が現れた。

「何なりとお申し付けください」
「王城にいる騎士さんや王様、ティアナちゃんやリーナちゃん、カトラちゃんを助けて!」

 陸人は無表情のまま「承知しました」と呟き、黒い霧で背中に羽根を創り出してトゲちゃんよりも速い凄まじいスピードで王城へと向かって行った。

 取り敢えず陸人が向かってくれたから、落ち着けるわけじゃ無いけど少し安心して気が緩む。

「…………………ね、ねぇ……」
「どうし……たの?」

 いつの間にかスピードが落ちて来たトゲちゃんが心配になりつつも、くるみちゃんが震えた声になっているのを心配して顔を覗き込むと顔色が真っ青に見えるほど青ざめていた……。

「い、今の…陸人くん……だよね?」
「あ、うん。言うの遅れてたけど、陸人には私の所に瞬間移動出来るスキルがあって………本当にどうしたの?」

 くるみちゃんは私の服の裾を震えた手で掴んで来たので、その手を優しく包み込んで落ち着けるように優しく声をかけた。

「…あれは……人間じゃない………っ!あんな心っ……見たことないっ!」
「……えっ!?陸人に何が起きているのか分かるの!?」

 そういえば、ドラゴンの視点は人の心を見れると言っても過言ではないものだった。変わってしまった陸人の事を知れるチャンスかも…!

「トゲちゃんが陸人くんが向かっていくのを見て恐怖しちゃったのは……分かるよ。…な人型のの奥から溢れる異様な気配なんてあったら……!」

「い、異様な気配…?」

 本当に怖いモノが見えたようで、次第に膝を抱えて震えだしたくるみちゃんを抱きしめながら考えるのは陸人の事。

 ……………陸人、あの日にどうしちゃったの…?






 全て順調にいっている。敢えて互いの戦力が拮抗していると見せかけるために1週間かけて徐々に進行し、遂に今日本当の攻勢に出た。

「いや~、カレナの居ない《グレアノス》なんていつでも落とせるとは思ってたけどまさかここまでとはね~」

 背中に2本の槍を携えているイーグルが軽口を叩く。

 イーグルは背丈160程度の茶髪の小柄な体型の男だが、槍捌きに関しては我が国一であり、Sランク冒険者にも引けを取らない。
 騎士らしく鎧を身にまとっているが、胸当てや足しか鎧を身につけておらず、代わりに鎖を腕や首に巻いている。その下には黒の上下が一体になっている服を着ている。

 おちゃらけで雑務などの面倒事はせず、女と酒ばかりを求めているダメ人間だが、こといくさになると大きな戦果ばかり上げる。

「……………早く済ませましょう」

 今回の戦争が面倒だと言わんばかりの口ぶりで、ため息をつくアルフノフ。

 アルフノフは我ら騎士団唯一の魔法使いで、魔法が使えない者が多すぎるのを危惧して特例として魔法使いを騎士団に魔法騎士としての立場を与えられた。

 地形を変えるほどの魔法を扱え、殲滅力に関しては騎士団の中では誰も勝てない。魔法の有用性を改めて思い知るが、アルフノフは戦いに魔法を使うのを嫌う。

 『魔法は人に無限の可能性を示す』という信条を胸に、日夜使えるモノから何のためのモノか分からないといったモノまで様々な魔法を開発している。

 ふちに深緑のラインが入った黒いフードのある外套に身を包み、ほとんど肌を外に晒さない。

 だが、アルフノフは金髪の好青年といえる整った顔で、おまけに背丈も180はある。女性から人気があり、度々交際を迫られている。

 女性に好かれるアルフノフをよく思わないイーグルは露骨に態度に出る。アルフノフもいい加減な性格のイーグルとは馬が合わないらしく、よく言い合いになっている。

「それはそうだ、取り敢えず副騎士団長を見つけて始末しようか。現状の脅威と言える脅威はそれぐらいだろうし」

 何故か植人族が居るという報告を受けたが、森の外にいる植人族は脅威にはなりえない。

 勇者召喚をしたらしいが、全ての勇者が王城を離れているのは確認済み。本来なら今日の本格侵攻を担う増援が到着しているはずだが、遅いので現状の戦力で侵攻することにしたが問題ないようだ。

「そうすっね~、クーティスさん」

 イーグルに名前を呼ばれ、不意に右耳の付け根から顎先にかけての傷が疼く。

 ついこの任務を終えてからの事を考えていたからか、昔の事を思い出すのと同時に傷の痛みも思い出したかのよう。

「貴様らっ!この地を汚した罪は重いぞ!」

 気を抜いていたところ、目の前にちょうど探しにいこうとしていた標的、副騎士団長と国王ディラスが現れた。

 所々傷だらけで疲れも見えるが、強い目で剣を構える2人。心のどこかで悟っているであろう、この国の終わりに抗うかのよう。

「俺がやりますっ、暇だったんでぇ」

 イーグルが鎖によって支えられている背中の2本の槍を軽々と上に投げることで抜き取り、落ちて来た槍を受け止めて構える。

「さぁ、退屈させるなーー」
ードゴォーンッ!

 向かい合う両者の間に何かが飛来し、砂が辺り一帯に舞う。

 何やら話し声が聞こえる。増援か?

「………保護対象の判別…国王ディラスと副騎士団長ガレト確認。残りティアナとリーナとカトラ。服装の特徴からその他保護対象を識別。……………脅威となり得る3名の敵を排除します」

 生気の無い声で目の前に立ちはだかったのは……首に布を巻いた………………執事服を着た黒髪の男だった………。


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